山岡和雅が読む2021年為替相場 <新春特別企画>

特集
2021年1月1日 15時00分

「2021年の為替市場を占う3つのキーワード」

山岡和雅(minkabu PRESS 外国為替担当編集長)

新型コロナウイルスに振り回された2020年。ドル円はパンデミックで大混乱となった2月から3月にかけての大きな振幅を経て、じりじりとドル安が進む展開が年末まで続いた。年が明けて2021年はどのような相場展開となるのか。相場を左右するキーワードとともに見ていきたい。

●第1のキーワード「新型コロナウイルス」…ワクチンによる期待感が市場をリード

第1のキーワードは、「新型コロナウイルス」である。ワクチンの接種が12月から英・米で始まり、「アフターコロナ」を最初のキーワードに挙げることができるのではないかと期待していた。しかし、英国で確認された感染力が高い変異種の動向が不透明なだけに、アフターコロナまで進められるのかどうかを含め、新型コロナウイルスの動向が最初のポイントとなりそうだ。

日本でのワクチンの接種開始は3月頃と予想されている。新興国などではより遅くなる可能性もある。冬に入って新型コロナウイルスの感染第3波が世界的に勢いを増した。感染拡大が深刻なカリフォルニア州では、12月21日に一日の感染者数が3万7000人を超え、人口密集地でのICU(集中治療室)の空きがゼロになったと報じられるなど、医療崩壊が懸念される様相を呈している。日本でも26日に発表された東京の一日当たり新規感染者数が初めて900人を超えるなど状況は悪化しており、21年に入っても当面は警戒感が続くと予想される。

ただ、前向きな期待も広がってきている。英・米で接種が始まった新型コロナウイルス向けワクチンについて、感染力の高い変異種に対しても有効である可能性が高いと、ファイザーと共同でワクチン生成に成功した独ビオンテックのCEOが見解を示した。また、もし変異種向けに新規ワクチンが必要な場合でも、理論的には6週間で開発が可能と発言している。

世界的にワクチンの供給が行き渡るには相当な時間を要するが、医療現場や高齢者だけでもある程度の接種が進むと、感染拡大の動きはかなり抑えられると期待される。こうした流れは世界的な閉塞感の打破にもつながる。

市場は現状よりも先行きの期待で動くことを考えると、先進国で医療崩壊の動きが強まるなど余程の事態が生じない限りは、期待感が市場をリードすると見込まれる。

●第2のキーワード=「バイデン新政権」…穏やかなドル安を黙認か

第2のキーワードは、「バイデン新政権」である。11月の大統領選で勝利したバイデン氏が打ち出している公約は、富裕者層向けの増税案やGAFA(アルファベット/グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)など巨大IT企業の反競争的行為に対する厳しい姿勢などから、当初は株安ドル安が強まるといわれた。しかし、新型コロナウイルスがもたらした米国経済の厳しい状況を背景に、共和党政権よりも景気回復に向けた積極的な支援が期待できるとの見方から株式市場は堅調な地合いを維持している。

バイデン次期大統領は財務長官にイエレン前FRB議長を指名。イエレン氏は労働問題の専門家であり、FRB時代のハト派的な姿勢から、雇用を中心とした経済支援が本格化すると期待されるところ。そうした意味でも、バイデン新政権下においても株高の流れが当面続くという期待が広がる。

ただ、為替相場的には、株高がドル高には繋がらないという懸念が強い。景気対策により米FRBの緩和姿勢の長期化が確実視される中、ドルは売られやすい傾向にある。今後、米FRBが緩和策を強化するために量的緩和(債券購入プログラム)における平均残存期間の長期化などを図り、米長期金利がより低位で推移するようだと、この傾向はより強まると見込まれる。

世界各国がパンデミックで受けた打撃から脱しようと経済の再生に勤しむ中、輸出に有利な緩やかなドル安傾向は米国にとっても好都合である。これまでのトランプ外交への反発もあり、バイデン新政権では国際協調路線が進められると期待されており、通貨安競争につながる強いドル政策の明確な放棄自体は避けられると思われるが、穏やかなドル安を黙認してくる可能性は十分にある。

こうした2つのキーワードの下、21年に入っても当面はドル安円高の進行が見込まれる。では、どこまでドル安円高は進むのか。水準を予想することは難しいが、節目の100円、さらには2016年につけたここ5年の最安値98円台を割り込む動きは十分に現実味があると予想している。

●第3のキーワード「アフターコロナ」…政策転換とドル安反転の可能性

最後に、こうしたドル安の流れが反転する可能性について考えていきたい。それが第3のキーワード「アフターコロナ」である。

パンデミックで大きく落ち込んだ後の米国経済は、新型コロナウイルスの感染第3波を受けて鈍化しているとはいえ、回復基調に乗っている。今後、景気回復が進んでいくと、市場は現在の活発な財政出動・積極的な量的緩和政策が修正される可能性を意識するようになる。

ただし、そのためには新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込める目途がしっかりと見え、アフターコロナの下で米国景気の回復が本格化することが条件となる。感染拡大の懸念が続く中では、景気回復が進んだとしても、不安感から量的緩和縮小などの動きは強まりにくい。

米政府の財政支援やFRBの量的緩和政策の縮小など、これまでの政策の転換が21年中に起きる可能性自体は低い。ただ、政策の転換が実施されるかどうかはともかく、市場がこの先の転換への思惑を強めると、米金利の上昇を伴ってドル買いの動きが本格化する。

ドル安基調からの反転の時期は、アフターコロナ次第で早ければ夏前、遅くなれば秋以降になろう。21年末までにはドル円は1ドル=110円を超えるような動きも十分期待できそうだ。

2020年12月26日 記

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