横山利香「令和時代の稼ぎたい人の超実践! 株式投資術」― (35)株価の道標として活用したい信用取引データ

特集
2023年4月12日 14時33分

横山利香(ファイナンシャルプランナー、テクニカルアナリスト)

◆株価が予想外の動きを見せたとき、影響を増す反対売買

信用取引は、投資家が証券会社に現金や株式などの担保(委託保証金)を差し入れることで、自分の投資資金以上の株を売買できる証拠金取引です。証券会社から資金を借りて、現物取引のように安い時に株を買って高くなったら売る「信用買い」と、証券会社から株式を借りて、高い時に株を空売りして安くなったら買い戻す「信用売り(空売り)」の2つの取引があります。

現物取引の場合には、株を買ったら売却することで取引が完結します。一方、信用取引の場合には、借りた資金や株式を返済するためには反対売買を行わなければなりません。信用買いの場合は建玉の売却を、信用売りの場合は買い戻しを行います。このほかに、信用買いの場合には株式を保有したまま証券会社に資金を返却する「現引き(品受)」や、信用売りの場合には現物株を証券会社に差し出す「現渡し(品渡)」という方法もあります。

信用取引はレバレッジ取引です。株価が予想した通りに動かなかった場合は損失が拡大するだけですし、信用取引には金利や貸株料といったコストが発生するので、損失が発生した場合には損失にコストも加わるので、できれば早めに反対売買を行った方がよいでしょう。

株価が投資家にとって予想外の展開を見せたときには、反対売買が株価の動きに及ぼす影響が大きくなります。このため、信用取引を使ってどの程度の売買が行われているのかを把握しておくことが大切になるのです。

信用取引を使ってどの程度の売買が行われているのかを把握するためには、「買い残」と「売り残」、「信用倍率」、そして損益状況を表す「信用評価損益率」を確認しましょう。

「買い残」は信用買いの取引を行っていて、まだ決済(反対売買による売却、または現引き)されずに残っている取引の残高のことです。反対に、「売り残」は信用売りによって空売りされて、まだ決済(反対売買による買い戻し、または現渡し)が済んでいない残高を意味します。「信用倍率」は信用取引による取組状況を、「信用評価損益率」は信用買いを行った投資家の含み損益の割合を表しています。

一般的には、信用買いが増えれば買い残が積み上がり、信用倍率が1倍(信用買い残=信用売り残)を超えて増えていきます(信用買い残>信用売り残)。信用買い残が増加するケースでは、株式市場の地合いが良い時であれば、短期的には信用買いがプラスに働き相場は強くなるとも考えられます。しかし、いずれは売却される取引ですので、将来の売り圧力(売り需要)が蓄積されているとも考えられます。

反対に信用売りが増えれば、売り残が積み上がります。空売りが増えれば、目先の株価には下落圧力がかかりますが、いずれはそれを買い戻さなければなりませんから、将来の買い圧力(買い需要)が蓄積されているとも考えられます。

通常は、信用買い残が売り残を上回るケースが一般的です(信用倍率は1倍を超えて大きくなります)。しかし、株価の動きによっては、信用売り残が増加する一方で、買い残が減少するなどして信用倍率が1倍に近づく、もしくは信用売り残が買い残を上回って1倍を割り込むこともあります。このような状態は強気と弱気が拮抗していることを表しており、バランスが崩れた方へと株価が大きく動くことがあります。この信用買い残と売り残が拮抗している状態は、「取組妙味がある」「好取組」などと表現され、短期投資家を中心に注目を集めやすくなります。

◆信用残、信用倍率だけでなく、チェックしたい評価損益率

日経平均株価のチャートを見ながら、二市場(東京・名古屋)信用取引残高と信用倍率の推移を確認してみましょう。株価の下落を予想する投資家が増えているのか、売り残(金額ベース)は年初から2月24日の週に向けて増加していることがわかります。しかし、日経平均株価は大発会の1月4日を底値に2万8000円台へと上昇していきます。すると、この株価の動きに今度は上昇を見込む投資家が増え始めたのでしょうか、2月3日の週から買い残(金額ベース)の増加傾向が鮮明になります。

ところが、3月10日にスタートアップ企業向けの融資で知られた米シリコンバレーバンクが経営破綻。同行の持ち株会社だったSVBファイナンシャル・グループも破綻に追い込まれ、スイス金融最大手クレディ・スイス・グループ<CS>の経営不安と金融システム不安が拡大していきます。高まる警戒感を背景に、冒頭で述べたように日経平均株価は3月9日で高値を打って急落し始めます。すると、急ピッチの下げをみて売られすぎではないかと判断する投資家も増えたのでしょう、3月に入っても買い残は増加を続けていきます。一方で3月以降、売り残は増加と減少を繰り返しており、売り方は気迷いの状態にあるのかもしれません。

図1 日経平均株価 日足

【タイトル】

図2 二市場信用取引残高(金額ベース)と信用倍率

日付売り残
(金額)
前週比買い残
(金額)
前週比信用倍率評価損益率
2022年12月02日790,585-62,8093,224,723215,5414.08 -10.06
2022年12月09日833,71743,1323,188,902-35,8213.82 -9.51
2022年12月16日817,902-15,8153,335,480146,5784.08 -10.4
2022年12月23日798,907-18,9953,399,95764,4774.26 -12.47
2022年12月30日631,323-167,5843,342,376-57,5815.29 -11.12
2023年01月06日640,0118,6883,393,02750,6515.30 -11.68
2023年01月13日689,84249,8313,363,204-29,8234.88 -10.49
2023年01月20日697,3107,4683,299,080-64,1244.73 -10.02
2023年01月27日821,194123,8843,174,422-124,6583.87 -10.16
2023年02月03日829,8198,6253,201,19126,7693.86 -10.54
2023年02月10日864,57234,7533,215,38614,1953.72 -10.32
2023年02月17日903,04838,4763,223,6838,2973.57 -9.89
2023年02月24日1,065,135162,0873,283,87860,1953.08 -10.09
2023年03月03日890,900-174,2353,244,882-38,9963.64 -9.21
2023年03月10日960,63769,7373,245,2713893.38 -9.24
2023年03月17日858,386-102,2513,349,829104,5583.90 -10.91
2023年03月24日962,806104,4203,392,22142,3923.52 -10.46
単位:百万円、倍、%

信用取引の趨勢は「信用倍率」の推移を追うと分かりやすくなります。信用倍率は足もとでは3.5倍まで低下しており、年初(1月6日の週)の5.3倍に比べると取組妙味が増してきていることがわかります。

これらを確認する時には、同時に信用評価損益率の推移もチェックしましょう。一般的には評価損益率は「0~-20%」の範囲で推移し、「-10%」を下回ると「追証」が発生してくる水準とされています。また、「-15%~-20%」を下回ると相場は底入れし、「-3%~-5%」に近づくと天井に達すると言われています。

株価の動きを見ると、2万7000円を挟んだレンジ相場が続いていると考えることができます。信用評価損益率の数値の推移を見ると年初の-11%台から数値は小さくなってきているものの、足もとでは依然として-10%台にあり、過熱感が感じられる水準からはほど遠い水準です。レンジ相場ということもあって、どちらかと言えば買い方が有利という感じなのかもしれません。

では、ここからどのように今後の取引を考えればよいのかですが……。

信用取引の需給もだんだん引き締まってきていますので、三角保ち合いが長く続いている相場は今後、上方か下方に大きく動き出す、いわゆるレンジをブレイクする可能性が考えられます。その時に、株価にはトレンドが発生しますので、そのトレンドに従って売買を行うことになります。トレンドが生じた時に、それに逆らって売買を行うのは損失の拡大につながるだけだからです。

先が見通しにくいときだからこそ、株価の動きに一喜一憂するのではなく、冷静に株価の方向性を見極めるためにテクニカル分析を活用する局面だと言えるでしょう。そして、株価の動きを分析する際には、信用取引がどれだけ利用されていて、投資家がどのような損益状況になっているのかを確認しながら考えていきたいですね。

 

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