円安・バリュー株の「新セットメニュー」、日本株投資への2つの着眼点【フィリップ証券】

市況
2024年7月2日 14時44分

6月最終週、為替が1ドル161円台まで円安ドル高が加速し、日経平均株価も3万9700円台まで上昇。月明け2日には4万円も一時回復と、日本株は思いのほか堅調に推移。需給が良くないこと、および、機関投資家の債券運用で外債から国内債への運用シフトに向けて為替の円高反転への条件が整ってきている面もある中で、何が起こっているのだろうか?

フランス国民議会選挙で躍進が見込まれる極右勢力から、財政についてEU(欧州連合)基準遵守への言及があった。欧州情勢に対する不安心理改善に繋がったのはきっかけに過ぎないだろう。背景には6月末の季節的要因が考えられる。ヘッジファンドなど海外機関投資家は運用パフォーマンスを上げるうえで3ヵ月単位で見ていく。6月末はその中でも12月末通期に対し中間期の折り返し地点で、ポートフォリオを大きく見直しやすい時期と言えるだろう。米国株市場でも相対的に好パフォーマンスだったグロース・半導体関連が利益確定とみられる売りに押され、出遅れバリュー・景気敏感銘柄が買われた。それは日本株の物色動向にも反映されていた。

6/27終値での3月末からの騰落率は、ダウ工業株30種平均が▲1.6%に対し、S&P500が+4.3%、ナスダック総合が+9.0%、日経平均株価が▲2.6%、TOPIXが+1.2%。ドル円相場は+6.2%に上り、円売りポジション付きで日本株に投資する海外投資家からすれば、4~6月は米主要株価指数に引けをとらないパフォーマンスを確保できた面もあるだろう。売買代金で日本株の薄商いが続く中で「円売り・日本株買い」が先物を通じて誘発された可能性がある。特に最近は円安が国内長期金利上昇を促し、金利上昇の恩恵を受けやすい銀行株の買いに繋がっている。銀行株を中心にバリュー株へと物色の対象が広がりつつある。円安とバリュー株のつながりが鍵を握っていそうだ。

日本株への投資では、以下の2点に注目したい。第1に、再生可能エネルギーの発電を一時的に止める「出力制御」の改善に向けた動きだ。出力制御を抑えるには、①電気を貯める(大規模蓄電池の設置)、②水素に転換(水素吸蔵合金の活用)、③送電線の増強が方策として考えられる。これらの社会的需要に応え得る事業が黒字化していくタイミングは投資好機だろう。第2に、訪日外国人観光客の増加に伴う海外における日本料理ブームの広がりだ。観光庁の報告書によれば、訪日客の評価は今は「寿司」よりも「肉料理」や「ラーメン」の方が高い。日本料理は香港や台湾を含む大中華圏、およびアセアンである程度広まるなか、インバウンド拡大を契機によりグローバルに成長しよう。

関連銘柄

力の源ホールディングス<3561>

・1985年に「女性1人でも入りやすいラーメン店」をコンセプトに福岡市で「一風堂」を開店。一風堂のほか「名島亭」、「因幡うどん」、フードコート業態「RAMEN EXPRESS」、海外で「IPPUDO」ブランド展開。

・5/15発表の2024/3通期は、売上高が前期比21.7%増の317.76億円、営業利益が同44.5%増の32.96億円。期末店舗数は国内145店舗(同6店増)、海外142店舗(同5店増)。国内が同22%増収・営業利益2.3倍、海外が同22%増収・20%営業増益、商品販売が同21%増収・14%営業増益。

・2025/3通期会社計画は、売上高が前期比10.1%増の350億円、営業利益が同8.2%増の35.66億円、年間普通配当が同4円増配の18円。前期売上比率45%の海外事業は上位順にタイ23店舗、台湾18店舗、中国・香港17店舗、シンガポール15店舗、マレーシアと豪州が各々12店舗、フィリピンと米国が各々11店舗などの一方、欧州は英仏で9店舗。4/12に独やスペインなど新規国展開を発表。

日本碍子<5333>

・1919年に現在のノリタケカンパニーリミテド<5331>からガイシ部門を分離独立。ガイシで世界首位。エンバイロメント事業、デジタルソサエティ事業、エネルギー&インダストリー事業を営む。

・4/26発表の2024/3通期は、売上高が前期比3.5%増の5789億円、営業利益が同0.5%減の664億円。売上比率約63%のエンバイロメント事業が同13%増収・25%営業増益と堅調も、半導体製造装置関連デジタルソサエティ事業が同15%減収・87%営業減益、エネルギー&インダストリー事業が営業黒字転換。

・2025/3通期会社計画は、売上高を前期比7.1%増の6200億円、営業利益が同13.0%増の750億円、年間配当が同10円増配の60円。ナトリウムと硫黄を使ったNAS電池(大容量・高エネルギー密度・長寿命電力貯蔵システム)の「エナジーストレージ」は再エネの発電を一時的に止める「出力制御」を抑える有力手段。関連エネルギー&インダストリー事業も前期に4%増収・営業黒字転換で利益貢献期待。

東光高岳<6617>

・高岳製作所と東光電気が2014年に経営統合。東京電力パワーグリッドが34.8%の筆頭株主。主として電力機器事業、計量事業、GXソリューション事業、光応用検査機器事業を営む。

・4/25発表の2024/3通期は、売上高が前期比9.8%減の1073億円、営業利益が同70.1%増の82.47億円。一般向けのプラント物件や三次元検査装置が減少したものの、軽量事業全般や配電機器の増加が増収・営業増益に貢献。三次元検査装置に係る光応用検査機器事業を除き増収増益と堅調。

・2025/3通期会社計画は、売上高が前期比2.2%減の1050億円、営業利益が同51.5%減の40億円、年間普通配当が同横ばいの50円。特別高圧変圧器類の不適切事案に伴う対応費用発生に加え、一部製品における入札参加停止などの影響を見込み、7月目途に不適切事案に関する調査・検証委員会の追加報告書を受領としている。「出力制御」抑制には送電線整備・送電網強化が必要。

壱番屋<7630>              

・1978年に名古屋市で創業。2015年にハウス食品G本社<2810>の子会社となった。直営店およびフランチャイズ加盟店を通じ、カレー専門店「カレーハウスCoCo壱番屋」を中心に飲食店を展開。

・6/24発表の2025/2期1Q(3-5月)は、売上高が前年同期比10.5%増の142.53億円、営業利益が同13.7%減の10.86億円。CoCo壱番屋の5月末店舗数は国内が2月末比3店減の1197店舗、海外が同1店増の213店舗。各種営業施策で売上堅調も、食材仕入価格上昇や販管費増が利益に響いた。

・通期会社計画は、売上高が前期比11.5%増の615億円、営業利益が同10.3%増の52億円、年間配当が株式分割考慮後で同横ばいの16円。海外店舗は2月末(212店舗)のうち中国・台湾・韓国・タイ4ヵ国で159店舗。米国(本土)が7店舗にとどまるなか昨年9月、テキサス州で北米初のFC店舗出店。海外FC展開は出店ペース加速で有効だろう。「トッピング」スタイルは外国人にも好評の模様。

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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