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有沢正一(岩井コスモ証券)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

特集
2025年8月7日 11時00分

米トランプ政権の高関税政策が続いているにもかかわらず、日米の株式相場は堅調に推移している。米S&P500種株価指数やナスダック総合株価指数が最高値を更新。日経平均株価も4万円の大台を回復した。もっとも、トランプ関税の影響を受ける世界経済の見通しは不透明だ。米国では国境管理の厳格化などを受けたインフレへの懸念も根強い。トランプ米大統領が「就任から24時間以内に終わらせる」と豪語したロシアによるウクライナ侵攻は収束のメドがつかず、イランを中心とした地政学的リスクも残る。 

金融・資本市場が「トランプ相場」の様相を呈する中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第40回は、岩井コスモ証券投資調査部の有沢正一フェローに話を聞いた。

●有沢正一(ありさわしょういち)

1989年岩井証券入社、2003年よりイワイ・リサーチセンター長、2012年5月より岩井コスモ証券、2017年1月より投資調査部長、2025年7月より現職。日本証券アナリスト検定会員。株式投資の対象となる企業調査の傍ら、マーケット視線で経済や社会の動きを分析、解説。YouTubeやウェビナーなどでも個人投資家向けの市場解説を行う。ストックボイスTV「北浜のいぶし銀」、サンテレビ「キャッチ+」出演。

有沢正一氏の予測 4つのポイント
(1)半年後の日経平均株価は4万2000~4万3000円程度
(2)半年後のS&P500株価指数は6800ポイント程度
(3)今後は日米金利差が徐々に縮小も、半年後の円相場は1ドル=145円程度
(4)日本株で注目するのはメガバンク、防衛・原発関連銘柄

――トランプ政権による高関税政策にもかかわらず、日米株価は高水準で推移しています。一方で今後のインフレ懸念などリスクも指摘されています。半年後(2026年2月末)の日米の株価水準をどう予測しますか。

有沢:私は半年後の日経平均株価を4万2000~4万3000円程度だと考えています。半年後の米S&P500株価指数は6800ポイント程度で推移すると予測しています。今後半年の間にS&P500が7000ポイントに達する場面もあると思います。

●S&P500株価指数(日足)

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――日米株価は今後半年間も堅調に推移するとの見方ですね。予測の背景を教えて下さい。

有沢:トランプ政権が高関税政策を実施したにもかかわらず、今のところ米国で過度なインフレが発生していないことが要因です。生成AI(人工知能)導入などによる業務効率化が進んでおり、人手不足が改善されつつあります。これにより懸念されていた賃金インフレは抑制されています。企業業績もしっかりしており、経営者の投資姿勢にも大きな変化がありません。米景気は予想以上に底堅いと言えるでしょう。

――インフレ懸念が高まらなければ、トランプ政権が米連邦準備理事会(FRB)に要求する利下げもしやすくなります。

有沢:過度なインフレが起こらなければ、FRBは年内に利下げに踏み切るでしょう。一方で日銀は利上げ方向ですから、日米金利差は緩やかに縮まり、円相場は半年後には1ドル=145円程度で推移すると予測しています。

――米議会予算局(CBO)は7月にトランプ減税の恒久化を含む減税・歳出法を成立させました。トランプ政権は法人減税などには積極的です。

有沢:トランプ政権の特徴の1つは、富裕層や資金の豊富な企業が有利な政策を実施することです。法人税減税など投資や消費に積極的な人たちにやさしい政策をとって、景気や株価を押し上げようという考えです。暗号資産関連の規制緩和など新たな市場の開拓にも力を入れています。

これに加えて、米国にはアップル<AAPL>やマイクロソフト<MSFT>など巨大ハイテク7社(マグニフィセント・セブン)があり、株式相場全体を押し上げています。これが日本を含めて他国の株式市場にはないところです。彼らはITを駆使して私たちの生活になくてはならないプラットフォームを提供し、社会インフラの一部ともいえる役割を果たしています。単純にモノづくりをするのではなく、社会やビジネスの仕組みをつくっていくので、金利や景気がどうなろうと成長していくのです。こうした状況を受けて、内外の個人投資家らが米国株に買いを入れています。

――半年後の日経平均株価も2024年7月の最高値近辺で推移するとの予測でしたが、背景を教えて下さい。

有沢:日本独自の株価押し上げ要因は、日本の上場企業で資本効率を改善しようとする動きが強まっていることです。2025年の日本企業の自社株買い枠は20兆円に達し、過去最高になる見通しです。増配する企業も増えており、中長期的に配当を受け取れる若年層に注目されています。M&A(合併・買収)や政策保有株の放出も活発になってきました。23年に東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)が低迷する上場企業に対して改善策を開示・実行するよう要請したことがきっかけになり、その影響が続いています。海外投資家も「今回は日本政府や企業も資本効率の向上に本気で取り組んでいる」と考え始めており、このところは日本株を買い越しする傾向にあります。

日米両国が関税交渉で日本に対する税率を予定の25%から15%に下げると申し合わせるなど、前向きな動きも出てきました。懸念されていたトランプ関税も先行きが見えれば、株価の大きな下げ要因にならないでしょう。

●自社株取得枠 年初来累計金額(TOPIX採用対象)

【タイトル】

●上場企業の配当総額(TOPIXベース)は過去最高へ

【タイトル】

――個人投資家の投資熱が高まっているとのことでしたが、バブル経済時のような過熱感や下方リスクはないのでしょうか。

有沢:トランプ関税の世界経済への中期的な悪影響はなお最大の懸念点です。高関税による輸入物価の高騰により米国で高インフレが起きた場合、個人消費や企業の設備投資を抑制します。業績が悪化すれば企業が雇用を控えるため、最悪の場合、物価高と景気減速が同時に進む「スタグフレーション」に陥るリスクも否定できません。

もっとも、私は高関税政策によるインフレは一過性のもので、賃金インフレより深刻ではないと考えています。予想PER(株価収益率)も米国株・日本株ともに過度に高いとまでは言えません。

――保護主義的な色彩を強めるトランプ政権がドル高是正を目的とした「第二次プラザ合意」を模索するとの見方もあります。

有沢:ドルが過度に高いために米経済が打撃を受けているという事実は現時点ではありません。米景気は底堅く、景気が良ければ米政府が為替にフォーカスすることはないと考えています。

――米労働省が発表した7月の雇用統計は非農業部門の雇用者数の伸びが市場予想を下回りました。5月分と6月分も下方修正され、株式市場が動揺しています。雇用問題が今後の株式相場に与えるリスクをどうみますか。

有沢:AI導入に伴う生産効率化や移民政策の厳格化が米国の雇用の伸びを抑制する可能性はあります。ただ、雇用市場全体を見たときに働きたい人が職を見つけるのが難しいような状況にはならず、失業率の上昇も限定的と考えます。一時的に失業率が上昇するような局面があっても、利下げなどの政策によって大幅な景気減速は避けられるでしょう。

――配当株を保有する若年層が増えているとのことでしたが、日本株で注目する配当株はありますか。

有沢:メガバンクと大手生損保です。今後、金利は緩やかに上昇していく見通しで、こうした金融機関の事業環境は改善していくでしょう。メガバンクは政策保有株を売却する方針を示しており、売却益も期待できます。増益基調が続くことから、この先5年は増配への期待が高まります。商社株にも注目しています。多くの種類の事業を手掛けていることから収益が安定しており、堅実な配当を受け取ることができます。

――配当株以外に注目しているセクターは。

有沢:防衛関連と原子力発電関連は日米ともに注目しています。日本でいえば、三菱重工業 <7011> [東証P]、川崎重工業 <7012> [東証P]、IHI <7013> [東証P]の重工3社です。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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