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秋野充成(いちよしアセットマネジメント)が斬る ―どうなる?半年後の株価と為替―

特集
2025年6月10日 10時00分

世界の株式相場は米トランプ政権の相互関税の発表による急落から、落ち着きを取り戻しつつある。4月に1000円単位で急騰と急落を繰り返した日経平均株価も値動きの幅を縮めている。もっとも、トランプ関税を受けた企業業績の見通しは不透明であり、上値はなお重い。米国では関税に加えて、国境管理の厳格化などを背景にインフレへの懸念が根強く、マクロ経済の先行きには不透明感が漂う。トランプ米大統領が「就任から24時間以内に終わらせる」と豪語したロシアによるウクライナ侵攻も収束のメドはついていない。

金融・資本市場が「トランプ相場」の様相を呈する中、アナリストやエコノミストなどの専門家は、「半年後の株価」や「半年後の為替」をどう見ているのか。インタビューを通じて、著名アナリストに予測してもらい、その背景を詳報する。第38回は、いちよしアセットマネジメントの秋野充成社長に話を聞いた。

●秋野充成(あきのみつしげ)

1985年第百生命入社。有価証券部にて企業調査及び国内外の株式運用を担当。2000年いちよし投資顧問(現いちよしアセットマネジメント)入社。運用部長、執行役員を経て2020年より取締役。24年4月に社長に就任。


秋野充成氏の予測 4つのポイント
(1)半年後の日経平均株価は4万3000円程度
(2)半年後のダウ工業株30種平均は4万4000ドル程度
(3)トランプ政権の「TACO」はマーケットにとってはプラス
(4)注目する銘柄は東京エレクトロンなど半導体関連

―― トランプ米政権の誕生から半年近くが経過し、新政権の誕生前から危惧されてきた政策懸念が現実に起こりつつあります。株式相場はやや落ち着きを取り戻しましたが、先行き不透明感は拭えません。半年後(12月末)の日米の株価水準をどう予測しますか。

秋野:私は半年後の日経平均株価を4万3000円程度だと考えています。日経平均株価の半年間のレンジは3万8000~4万3000円程度になるでしょう。半年後のダウ工業株30種平均は4万4000ドル程度、ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数は2万ポイント程度だと予測しています。

半年後の円相場は1ドル=138円程度を見込んでいます。マーケットの動揺を考えれば、少なくとも年内の「第二プラザ合意」はないでしょう。元ヘッジファンドマネージャーのベッセント米財務長官はマーケットを深く理解しており、為替相場の過度の変動は米国経済にも悪影響を与えると考えていると思います。

日経平均株価(週足)

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ダウ工業株30種平均(週足)

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―― 半年後の株価は足もとの一進一退から脱し、上昇に向かうという予測ですが、その背景を教えて下さい。

秋野:米国で過度のインフレが発生せず、米景気が大きく崩れないことが背景です。4月に株価が暴落した際には、トランプ関税による世界経済への悪影響が嫌気されました。投資家の間で過度な悲観論が支配的となり、株式相場は米国のスタグフレーション(インフレ下の景気後退)まで織り込んでいました。

しかし、現状ではこうした悲観論は後退し、今後のトランプ政権の政策への期待も出てきています。トランプ大統領が2026年11月の中間選挙を見据えて規制緩和や減税などの景気浮揚策を打ち出すと見ているわけです。具体的には、7月以降にトランプ減税の恒久化を含めた大型減税が成立する見通しです。このほか、米国で製品を生産する企業への法人税減税なども検討されるとみられ、景況感が改善。企業の設備投資も盛り上がり、株価も上昇するでしょう。

トランプ政権は経済安全保障につながる戦略製品は米国で生産するべきだと考えており、半導体や医療関連は減税対象になるでしょう。一部に誤解があるかもしれませんが、トランプ氏は決して米経済を悪化させようとは考えていません。景況感の改善もあり、米個人消費も若干プラスで推移すると考えています。

―― 市場関係者の間では「TACOトレード」という造語が流行しています。TACOは「Trump Always Chickens Out(トランプ米大統領はいつもビビッて退く)」の略語で、中国への関税の引き下げなども揶揄しており、市場がトランプ大統領の姿勢変更を見越して動き始めている様を表します。とはいえ、トランプ政権が関税政策で他国との落としどころを探る動きは世界経済にとってプラスのようにも見えます。

秋野:トランプ政権の動きが「TACO」であるとするのならば、市場関係者や投資家は安心して良いと思います。もっとも、トランプ政権は「TACO」と言われるのを嫌がっているので、一時、強硬姿勢を取る可能性はあります。株式相場がボラタイル(変動が大きい)になり、株価が一時的に大幅に下落すれば、投資家にとっては絶好の買い場となるでしょう。日経平均株価を例に取れば、3万4000円程度まで下がれば買いだと私は考えています。

―― 提示いただいた半年後の株価予測では、日本株の方が米国株に比べて上昇率が高いようです。背景は何でしょうか。

秋野:投資家の米国一極集中からの分散です。足もとでは欧州株への投資が増えていますが、今後は日本株も受け皿になると考えられます。これまで米国への一極集中投資になっていたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で米国の生産性が向上したり、生成AI(人工知能)への期待で投資が増えたりしたためです。しかし、米国株の割高感や中国発のAIによる「DeepSeek(ディープシーク)ショック」、トランプ政権の政策の不透明さを受けて、株式市場などで投資分散が始まりました。

トランプ政権は財政赤字を削減しようとしており、米国の対外純債務は減る方向です。結果として米国の資産も減ります。世界の株式投資に占める米国のシェアは2019年に54%でしたが、24年には66%にまで上昇しました。これが19年時と同じような比率にまで戻れば、他の国に投資が分散することになります。

―― 日本では東京証券取引所が市場改革に取り組んでいることも投資家から評価されています。

秋野:東証の市場区分再編とPBR(株価純資産倍率)向上など企業に対する経営改善要請は、日本株の株価水準を引き上げました。日本企業がPBRを改善するために株主還元に積極的になったためです。企業の自社株買いも2025年は23兆円程度に達し、過去最高を更新すると私は予測しています。

今後の注目は、グロース市場の改革です。東証は2030年以降にグロース市場の上場維持基準を「上場後5年で時価総額100億円」とこれまでの「10年後に40億円」から引き上げる方針です。グロース市場では今後、MBO(経営陣による買収)やTOB(株式公開買い付け)が増え、株価全体が押し上げられるでしょう。

日本のグロース市場の質も向上します。米国企業の上場数は1996年当時、8000程度ありましたが、2024年には4000程度まで減少しました。これを考えれば、約4000もある日本の上場企業数は多すぎます。収益力や成長期待の低い企業を退場させ、株式市場の質を高める必要があります。

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―― トランプ政権が誕生したことで、地政学的リスクへの懸念も高まっています。

秋野:トランプ政権の誕生により、国際協調の枠組みは大きく変わりつつあります。巨額の財政赤字を減らしたい米国は、海外への派兵を減らして軍縮したいと考えています。トランプ政権が将来的に中国、ロシアと強者連合を模索する可能性も否定できません。

トランプ政権は米国の核の傘の下にある日本にも、そのコストをもっと支払えと要請してくるでしょう。日本は防衛費のGDP(国内総生産)比率が低い上に、大きな対米黒字を抱えており、トランプ政権は強い不満を抱えているからです。日本の対米黒字はコメを追加購入したくらいではほとんど減りません。

―― 株式市場の注目銘柄は。

秋野:半導体関連株です。日本の株式市場では、東京エレクトロン <8035> [東証P]、アドバンテスト <6857> [東証P]、ディスコ <6146> [東証P]といった銘柄です。半導体株への投資は落ち着いてきましたが、生成AIは日々、急速に進化しており、すでにデータを基づいて推論できるようになってきました。AIの進化に半導体は不可欠です。

(※聞き手は日高広太郎)

◆日高広太郎(ジャーナリスト、広報コンサルティング会社代表)
【タイトル】
1996年慶大卒、日本経済新聞社に入社。東京本社の社会部に配属される。小売店など企業ニュースの担当、ニューヨーク留学(米経済調査機関のコンファレンス・ボードの研究員)を経て東京本社の経済部に配属。財務省、経済産業省、国土交通省、農水省、日銀、メガバンクなどを長く担当する。日銀の量的緩和解除に向けた政策変更や企業のM&A関連など多くの特ダネをスクープした。第一次安倍内閣時の独ハイリゲンダムサミット、鳩山政権時の米ピッツバーグサミットなどでは日経新聞を代表して同行取材、執筆。東日本大震災の際には復興を担う国土交通省、復興庁のキャップを務めた。シンガポール駐在を経て東京本社でデスク。2018年8月に東証1部上場(現プライム市場)のB to B企業に入社し、広報部長。2019年より執行役員。2022年に広報コンサルティング会社を設立し、代表に就任。ジャーナリストとしても記事を複数連載中。2022年5月に著書「B to B広報 最強の戦略術」(すばる舎)を出版。内外情勢調査会の講師も務め、YouTubeにて「【BIZ】ダイジェスト 今こそ中小企業もアピールが必要なワケ」が配信中。

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