検証・海運株逆張り、“歴史的合理化”で見え始めた「10年目の復活」 <株探トップ特集>

特集
2018年5月29日 19時30分

―郵船・商船三井・川崎汽コンテナ船統合で業績改善、長期低迷からの脱出気配は本物か―

長期低迷が続いた海運株 への注目度が高まっている。世界的な景気回復を追い風にばら積み船の市況が回復し、コンテナ船事業の統合効果が出るほか、安定利益の積み上げを図ってきた成果もあり、今期は損益が大きく改善する見通しだ。海運株急落の契機となった2008年のリーマン・ショックから間もなく10年。海運株は復活するのか。

●「船バブル」崩壊後の調整一巡に期待感、「15~16年が最悪期だった」の声

日本郵船 <9101> 、商船三井 <9104> 、川崎汽船 <9107> の海運大手3社の株価は07年の夏から秋にかけて最高値圏にあったが、その立役者は鉄鉱石や石炭、穀物などを輸送するばら積み船だった。経済成長著しい中国がブラジルや豪州から鉄鉱石を大量に輸入し、運賃は青天井で上がり続け、空前の「船バブル」に湧いていた。

その結果、3社の業績は08年3月期に過去最高益を記録し、ばら積み船市況の総合的な値動きを表すバルチック海運指数(BDI)は同年5月に過去最高の1万1793まで上昇した。しかし、同年9月のリーマン・ショック以後は事業環境が一変。需要が蒸発し市況は暴落。運航船は採算割れを起こし、各社は10年3月期業績で大幅な減益や赤字を強いられた。そして株価も09年から長期の低迷を余儀なくされることとなった。

ばら積み船の市況はその後、かつての水準に戻ることはなく総じて低調に推移してきた。また、好況期に発注された船が大量に市場に投入され、大幅な供給過剰に陥ったことで長期的な構造不況が続いた。大手海運会社関係者は「15~16年は最悪期だった」と振り返る。

●世界経済の回復で海上荷動きは堅調、市況は徐々に上向く

また、ばら積み船部門は市況の変動にさらされる船の割合が大きいという問題があった。そこで各社は、不採算船の処分や返船などで船隊の構造改革を実施してきた。別の大手海運会社の広報担当者は「現在、ばら積み船の多くは中長期契約に投入しており、市況変動の影響を受ける割合は減っている」と、その成果を語る。

こうした収支改善へ向けての努力もあり、市況が回復した前期は、ばら積み船部門の損益が各社ともに大きく改善した。そして今期は世界経済の回復とともに海上荷動き量も堅調で、大きく崩れることなく安定して推移していくことが見込まれている。

「長期の地合いは悪くない。需要は底堅い一方で、新造船の供給が減っている。急に需給が締まるわけではないが、市況は徐々に上向くとみている」(前出の大手海運会社)という声もあり、今後、市況回復のスピードが速まれば、ばら積み船部門による業績押し上げが期待できそうだ。

●国内大手3社の「コンテナ船統合」は画期的出来事

ばら積み船とともに、各社を長年悩ませてきたのがコンテナ船部門だ。リーマン・ショックにより、それまで増加していたコンテナ貨物輸送量は09年に減少。10年以降は輸送量が前年比増加に転じたものの成長率は鈍化した。その一方で、運航コスト削減を目指した船の大型化が進み船腹量が拡大。需給のバランス悪化が続き、市況が悪化した。

郵船、商船三井、川崎汽船の3社は、それぞれ複数の海外船社とアライアンスを組み、コンテナ船サービスを提供していたが、3社の事業規模を合算してスケールメリットを実現し、事業効率を向上させるべく、16年10月にコンテナ船事業の統合を発表。17年7月に郵船が38%、商船三井と川崎汽船がそれぞれ31%出資し、定期コンテナ船統合会社・ONE(オーシャン ネットワーク エクスプレス)が設立された。

今年4月から営業を開始したONEは、今期に売上高1兆3160億円、純利益110億円を見込んでいる。初年度計画は、統合したシステムに習熟するために必要な時間や様子見する荷主がいることを織り込んだものとしており、20年度には売上高1兆4193億円、純利益648億円へと伸長する計画だ。

コンテナ船統合という歴史的合理化を断行した意義は大きい。「運賃が上下するのは仕方がないことだが、3社統合により市況耐性を強くすることができる」(大手海運会社)からだ。ONEは統合のシナジーで20年度に1124億円のコスト削減を見込んでいる。

●LNG船など安定利益積み上げ、今期業績は大幅増益を見込む

各社はばら積み船、コンテナ船で構造改革を進める一方、成長分野への投資で安定利益の積み上げを図ってきた。特に、米国シェールガスの輸出を見据え、LNG船 に積極的な投資を実施しており、今後既決案件が稼働を開始することで、業績への貢献が期待できる。「新興国もLNGの輸入を始めており、環境規制への対応も進むことで需要は伸び、マーケットは拡大する」(大手海運・広報担当者)とみており、各社は中期経営計画でLNG船や海洋事業などに注力していく姿勢を示している。

リーマン・ショック以後10年にわたり苦しめられてきた、ばら積み船とコンテナ船で改革を果たしたことで、郵船の今期の経常利益は前期比42.8%増の400億円、商船三井は前期比27.1%増の400億円、川崎汽船は前期比2.5倍の50億円にそれぞれ拡大する見通し。「これまで安定収益の積み上げを進めて、市況変動に極力影響されない事業基盤を構築してきた。タンカー市況の回復はまだだが、その他で大きな不安を抱えている部門はなくなった」(大手海運会社)と視界が開けてきた。運賃がドル建て決済の海運セクターにとっては、現在の円安水準が続けば利益押し上げの追い風となり、海運株の再評価が期待される局面に入ったといえそうだ。

●依然、強弱感は対立、一段の合理化推進に期待も

しかし、海運株に対する市場関係者の見方は依然、強弱感が対立する。「今後も海外で新たな船舶の竣工が予想され、海運市況の上値は重いだろう。世界経済の景気拡大の先行きに不透明感が出ていることも懸念要因となる。日本の大手海運3社による合理化もコンテナ船部門に限らず、ばら積み船やLNG船まで広げることが必要だと思う」と国内系証券のストラテジストは慎重な見方を示す。

一方で「大手3社の株価は長期的な低迷が続いており、日本郵船と商船三井の株価もPBR0.7倍前後とやはり割安感が強い。今後の海運市況が強めとなれば、株価は徐々に長期低迷からの脱出が期待できるだろう」(アナリスト)との見方も少なくない。特に、トランプ米大統領が打ち出す保護主義政策は、世界の海上物流量を減らすことになり海運業界にはマイナス要因に働くが「11月の中間選挙で同大統領が敗北すれば、次期大統領には自由貿易派が就任することも期待できる。長期的視点からは今年秋以降、海運株は本格的な上昇局面に入るかもしれない」(同)との声もある。

「万年出遅れ株」と呼ばれた海運株だが、最悪期を脱しつつあることは確かであり、その再上昇に向けていまは新たなカタリスト(キッカケ)待ちの状態にある。

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