欧州発ショック安、再び――日経平均「2万2000円割れ」は危機か好機か <株探トップ特集>

特集
2018年5月30日 19時30分

―ささやかれる引き締め後退の可能性、来週末メジャーSQ注視―

青天の霹靂とはまさにこのことか。日米ともに好調な企業業績に支えられた上昇相場に雷光一閃、3月下旬から5月下旬にかけて約2ヵ月にわたった上昇相場も前週を境に一気に下値模索の展開へと変わった。

30日の東京株式市場はリスク回避の売りが集中、日経平均株価の終値は前日比339円安の2万2018円と続急落となった。一時は400円を超える下げで2万2000円大台を割り込んだ。2万2000円を下回ったのは4月18日ザラ場以来、1ヵ月半ぶりのこと。約1週間前、22日の時点では日経平均は鬼門とみられていた2万3000円ラインをようやく突破し意気上がる場面にあった。それを考えれば、文字通り急転直下の下落トレンドといってよい。

これに先立ち前日の欧州株は軒並み安、米国株市場ではNYダウが一時500ドルを超える下げ。恐怖指数とも称される米VIX指数は、一時18.78と前々日の終値から40%以上の急騰をみせており、にわかに高まった投資家の不安心理を代弁している。

●イタリアを起点とするリスクオフ相場が始動

イタリアの政局混迷が引き金となり、イタリアやスペインの長期金利が急上昇し、信用不安がマーケットを直撃した。これまでは、米中貿易摩擦を軸としたトランプ米政権の通商政策に対する不透明感や、米朝首脳会談に向けた紆余曲折の駆け引きで北朝鮮リスクなどが相場の足かせとして意識されていた。しかし、イタリアを震源地とするリスクオフに対しては正直、市場関係者も甘く見ていたフシがある。悪材料は、意識の外側からやってくるのが常だ。

イタリアのマッタレッラ大統領とポピュリズム政党の対立が先鋭化し、大統領はポピュリズム政党が推薦した次期首相候補の人事案を拒否したことで、再選挙の可能性が高まった。松井証券の窪田朋一郎氏は「ポピュリズム政党はECB(欧州中央銀行)にイタリア国債を買わせようとする案を出しており、これが欧州の財政不安を呼び、通貨ユーロ の急落につながった。為替市場ではユーロに対しドルが買われている、しかし、円はさらに高い。最も割を食ったのは日本株という状況になっている」と解説する。

外為オンラインの佐藤正和氏は「足もとのイタリア国債の急落やユーロ安は過剰反応だと思う」としており、「万が一イタリアがユーロを離脱すれば、ブレグジットを上回るショックも起こり得るが、現実的にはユーロ離脱は難しい。当面のドル円の下値は1ドル=107円台半ばから108円程度」という見解を示している。

●円安恩恵による株高への期待が色褪せる

日経平均は3月下旬から5月下旬にかけてほぼ一貫して上値を追い、2700円程度の上昇をみせていたが、それは文字通りドル高・円安に連動したものだった。日経平均が5月23日以降、下値を探る展開となったのは、このドル円相場の歯車が逆回転したことが背景にある。直近は、イタリアやスペインの政局不安に伴い米国債に資金がなだれ込み、米10年債利回りは2.77%台まで急低下、これにより日米金利差縮小の思惑から、円は対ドルでも買われ、円安恩恵による株高への期待が一段と色褪せる状況を余儀なくされている。

円高で最もダメージを受けるのは為替感応度の高い自動車セクターだ。そのシンボルストックであるトヨタ自動車 <7203> は8日続落で、マドを開けて7000円ラインを下放れている。また、もう一方の主力セクターである銀行 も、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> を筆頭に安い。メガバンクにとって米10年債利回りの低下は米国事業における運用環境にネガティブ材料であり、保有するイタリアやスペインなどの国債価格急落による損失懸念も売り要因となる。三菱UFJとトヨタは、売買代金で東証1部2位・3位を占めるなど投資家の注目度の高さをうかがわせ、全体相場にも大きな影響を与えた。

●買い好機到来? 今の相場とどう対峙するか

既に実質6月商いに入っている東京市場だが、果たしてここからの相場展開はどうなるのか。前出の窪田氏は「発火点となったイタリアの国債価格の状況を注視するよりない。ここが落ち着きをみせれば、これに連動して米長期金利や為替動向など日本株を取り巻く環境は改善し、株価もバランスを取り戻す」という見方を示す。

また、東洋証券の大塚竜太氏は「一方通行の下げはCTA(商品投資顧問業者)などによる高速売買の影響を受けており、行き過ぎの反動でいったんは戻りに転じる可能性が高い」としながらも、底入れにはもうしばらく時間を要するとみているもよう。「来週末にメジャーSQを控えており、先物主導で振り回される可能性があることは覚悟しておくべき。ただ、ファンダメンタルズを考慮すればここは買い下がって報われる場面」(大塚氏)としている。

では、日経平均のここからの下値リスクはどの程度か。証券ジャパンの大谷正之氏は「全体相場はほぼ一本調子の上昇が続いていただけに当然の調整場面ともいえ、日経平均の下値メドは、3月26日の安値2万347円から5月21日高値の2万3050円までの上昇幅の半値押しに当たる2万1700円水準を見込んでいる。ただ、欧州政局不安とそれに伴う通貨ユーロの下落や、米中通商問題は決着までに時間が必要で、底入れ後も短期間での反転急上昇は難しいかもしれない」という意見だ。

●金融引き締め圧力が緩和されればケガの功名も

3氏とも、当面は神経質な相場展開やむなしという見方だが、場合によっては大きく戻りに転じる可能性を否定していない。イタリアに端を発した欧州の財政不安は、量的緩和にピリオドを打つタイミングをうかがっていたECBの思惑を後退させるだけでなく、米国でもFRBの利上げペース鈍化につながる公算がある。イタリアの政局は相場の悪材料としては軽視されていたが、降って湧いたものではなく以前から認知されていた。

一部市場関係者の間では「今回の揺れは欧米の金融引き締め圧力の低下をもたらし、ゴルディロックス(適温)相場復活へといざなうケガの功名にならないとも限らない」という前向きな見解も聞かれ、欧州発の世界株安が押し目を待ち望んでいた投資家にとって、今は絶好の買い場提供となっている可能性も念頭に置いておきたい。

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