ショック安は一瞬、“貿易摩擦懸念”で下押しなら買い場に <東条麻衣子の株式注意情報>

市況
2018年6月5日 20時30分

米国は先月31日、これまで適用を猶予していたEU(欧州連合)、カナダ、メキシコに対しても鉄鋼・アルミニウム輸入関税を課すと発表した。これを受けて、特にEUとの貿易摩擦を警戒して大きな危機であるかのように伝える報道が目立つ。確かに注意は必要だが、本質を注視するならば株式市場が米国とEUとの貿易摩擦を懸念して下押しする場面があれば買いのチャンスとして捉えるべきではないだろうか。

実際、世界の株式市場を見ても一時的なショックの動きは見られたが、今月に入り上昇基調へ転じる兆しもうかがえる。筆者と同様に、米国が主導する通商交渉の行方について、現時点では世界経済を減速させるものではないとみている機関投資家や海外投資家が多いのではないかと考えている。

■保護貿易へ傾斜する米国

そもそも鉄鋼・アルミ製品への輸入関税をどのように捉えるか。

筆者は、11月の米中間選挙へ向けたトランプ政権のパフォーマンスにすぎないと考えている。トランプ大統領の支持基盤である国内の鉄鋼企業や労働者に向けてアピールするのが狙いだろう。

3月に米中貿易摩擦に対する懸念が広がり、中国が米国産大豆への報復関税を臭わした際、その翌日にホワイトハウスからは「対中制裁はこれ以上行わない」との発表がなされた。

2017年度に中国が米国から輸入いた大豆は過去最高を記録し、同国はトップクラスの大豆輸入国となっている。米国産大豆の生産地はトランプ大統領支持者が多い中西部に集まっており、ホワイトハウスの行った発表は中間選挙を見据えた配慮であったと考えられる。

とはいえ、11月に向けて功績を残したいトランプ大統領は、今後もさまざまなパフォーマンスを仕掛けてくる可能性が高い。支持者である鉄鋼企業や労働者に守護者としての強硬姿勢をアピールする狙いがあり、簡単には関税を撤廃することはないと考える。

■米国の鉄鋼・アルミ輸入が持つ経済的な意味

米国のアルミ・鉄鋼製品の輸入額はGDP比でみると、どちらも0.3%にも満たない。つまり、米国の輸入量の少ない品目に関して、トランプ政権は関税の話をしていることを忘れてはならない。

トランプ政権の支持者にアピールしながらも、その対象として選んだのは自国の輸入量の少ない商品、つまりは「輸出先にとっても小さな市場=世界経済を大きく変調させるものではない」といえる。

米国の鉄鋼製品・アルミ製品の輸入先を以下にまとめる。

(1)鉄鋼製品の輸入先(2017年、米商務省のデータ)

米国の鉄鋼製品の輸入量は合計で3447万トン。

輸入先の割合は

1. カナダ(16%)

2. ブラジル(14%)

3. 韓国(10%)

4. メキシコ(9%)

5. ロシア(8%)

6. トルコ(6%)

7. 日本(5%)

8. ドイツ(4%)

9. 台湾(3%)

10. インド(2%)

11. 中国(2%)

(2)アルミ製品の輸入先(2017年1-10月、米商務省データ)

この間の米国のアルミ製品輸入量は合計で576万トン(10カ月)。

輸入先の割合は

1. カナダ(43%)

2. ロシア(11%)

3. アラブ首長国連邦(10%)

4. 中国(9%)

5. バーレーン(4%)

6. アルゼンチン(3%)

(1)、(2)を見てもらえればお分かりの通り、今回大きく問題視された中国やEU(欧州)の割合は大きくはない。まして、米国のその輸入量自体、対GDP比で見ると水準は低く、経済のファンダメンタルズを考えれば大きく懸念する必要はないだろう。

米国の通商交渉については、簡単に解決しないであろうし、11月の中間選挙に向けて傾向として活発化するだろう。

だが、EUに関しては影響は軽微であり、日本にはほぼ影響なしといってよいだろう。

注意すべきは米中通商交渉だが、3月に中国が『大豆』に言及した際に示したホワイトハウスの反応をみれば、中国にも切り札はあり一方通行的に悪化するとは思えない。

米国は6月15日までに知的財産権侵害を理由とした対中制裁について、25%の追加関税措置の対象リストを公表することになっている。内容によっては株式市場に一時的なショックをもたらす可能性があるが、“懸念”とされるその材料の本質を精査すれば、株式市場との向き合い方が見えてくるのではないだろうか。

◆東条麻衣子

株式注意情報.jpを主宰。投資家に対し、株式投資に関する注意すべき情報や懸念材料を発信します。

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