OPEC増産合意に逆風、トランプ原油高批判の「藪から蛇」 <コモディティ特集>

特集
2018年6月20日 13時30分

―殺気立つOPEC総会、サウジ・ロシア主張にイラン・ベネズエラなど反旗―

石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなどの非加盟国は今週22日の総会で協調減産の規模縮小を決める見通しである。2017年から産油国が始めた日量180万バレル規模の協調減産は転換点を迎える。2018年半ばで世界的な石油の過剰在庫は過去5年平均の水準まで縮小し、 原油価格の回復とともに協調減産の目的が達成されたことや、イランやベネズエラの減産によって供給不安が高まる可能性が高いことが増産の背景である。

●規模縮小に対する各国の姿勢

サウジアラビアとロシアが主張している協調減産の規模縮小に対して、イラン、イラク、ベネズエラの3カ国が反対している。産油国にとって原油価格は高いほうが歳入を押し上げるほか、減産リスクの真っ只中にあるイランやベネズエラにとって増産による原油安は受け入れがたい。事実上のリーダーであるサウジアラビアとロシアの主張と比べて、他の産油国の意見が蔑ろにされがちであるとイラクは不満をあらわにしている。

OPECが原油価格を釣り上げているとトランプ米大統領が批判しているなかで、安易な増産はためらわれる。特にイランやベネズエラは反米感情が強い。そもそもイスラム圏ではトランプ米大統領と友好的な産油国のほうが少ない。米国に促されるように増産するのは気が進まない。トランプ米大統領はイスラム教の聖地エルサレムをイスラエルの首都であると認めた。

●サウジ・ロシアも反対派を無視できない

6月のOPEC月報で、イラクの生産量は日量455万5,000バレル、イランは同382万9,000バレルだった。日量1,000万バレル超の生産能力を誇るサウジアラビアやロシアと比べると見劣りはするが、イランとイラクは両国に次ぐ生産量を有しており、産油国のなかでは発言力が強い。産油量は経済力であり、OPEC総会において産油量は発言力と等しい。経済危機による資金不足で減産を余儀なくされているベネズエラの言葉に重みはないものの、サウジやロシアがイラン・イラクの反対を押し切って増産で合意することは不可能である。

増産支持派、反対派のどちらかが妥協する必要があるが、OPEC加盟国と非加盟国による前例のない協調体制によって現在の原油価格の安定が得られたことからすれば、サウジやロシアが譲歩する必要がある。将来的にさらなる原油高を追求するサウジにとって、原油価格に対する影響力を低下させるわけにはいかない。

●ミサイル飛び交うイランとサウジも協調せざるを得ない

OPEC総会で産油国の意見がまとまらないのはいつものことである。協調減産を開始する際には、イランが主張を押し通したような格好となっている。直接的にではないものの、イランとサウジアラビアは弾道ミサイルが飛び交う間柄であり、そもそも協調して行動するような関係ではない。だが、生命線である原油価格の安定のために背に腹はかえられず、現実的には協調し、2016年末に合意した生産枠を守っている。

ミサイルを打ち込んでくる相手と面と向かって産油量について対話し、譲歩することは常識的にはありえない。北朝鮮のように日本上空を通過する弾道ミサイルではなく、イランが支援する武装勢力の「フーシ」派はためらいなくサウジアラビアの首都を狙う。サウジアラビアはミサイルを迎撃しているものの、すべて撃ち落としているわけではなく、死傷者も発生している。

ただ、OPEC総会では、イランとサウジアラビアの代表が殺気を漂わせつつも顔を合わせ、協議を行う。今回も最終的には一定の合意にたどり着くだろうが、総会という場は常人の想像を超えた空間である。どのような合意が形成されるのか予想を放棄するわけではないものの、月並みな空想を巡らすよりは、おとなしくただ待つことも選択肢である。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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