原油価格はトランプ大統領の手の中に、イラン敵視と原油高の入り口 <コモディティ特集>
―始まった実質制裁、イラン情勢悪化と中東混乱、そして…―
先月の石油輸出国機構(OPEC)総会の合意内容があやふやだったことから、原油市場の値動きの軸となるテーマを模索する期間が続いていたものの、現在は輪郭がはっきりとしてきた。
米国がイラン制裁の一環として同国の原油輸出をゼロにしようとしているなかで、サウジアラビアやロシア、アラブ首長国連邦(UAE)などが供給不足の回避に向けて増産しているが、供給ひっ迫懸念が払拭されるのか見通しにくいことが相場を動かす原動力となっている。産油大国がフル増産すれば供給不足にはならないかもしれないが、安定的な生産を期待できない産油国は依然として多い。
●産油国の多くが政情不安を抱える
東西に政府が分裂するリビアでは、年末に大統領選と議会選が行われる予定となっているものの、選挙に向けて国内情勢が安定していくとは安易に期待しづらく、今後も原油生産は変動を伴う可能性が高い。生産が比較的安定しているイラクでは、電力などのインフラ不足、貧困・失業問題などを背景に反政府デモが拡大している。イラク最大の油田地帯であるバスラ周辺の状況が不安定化しており、場合によっては原油価格を刺激する事態となりかねない。ナイジェリアでは政府軍の兵士が、武装勢力であるボコ・ハラムの襲撃を受けて行方不明になる事件が発生するなど、不穏この上ない。ベネズエラ経済はすでに破綻しており、独裁政権が崩壊するのを待つだけである。
●トランプ政権は制裁緩和に後ろ向き
ポンペオ米国務長官が検討していると述べたように、米国が対イラン制裁を緩和し、イランとの石油取引を一部の国に認めるならば、供給ひっ迫懸念はかなり後退する。つまり、原油価格はトランプ政権の手中にある。ただ、先週末には米政府がエネルギー高を抑制するため戦略石油備蓄(SPR)の放出を積極的に検討していると報道されるなど、どうみても米国はイラン制裁の緩和には後ろ向きである。
米国が6億6,000万バレル規模のSPRを放出したところで、ごく一時的に供給ひっ迫感を後退させるだけである。米国の原油消費量は日量1,700万バレル超と世界最大であり、SPR放出は焼け石に水にしかみえない。繰り返しとなるが、供給ひっ迫懸念の最大の原因は米国のイラン制裁であり、米国のさじ加減一つで供給懸念はかなり沈静化する。ただ、トランプ米大統領は異常にイランを敵視しており、イラン制裁を緩めたくないという執念が、SPR放出という小細工に興味を向けさせているようだ。
●原油価格の行方は米国次第。しかしイラン情勢悪化で原油高も
今後の相場の軸は、米国による対イラン制裁の行方であり、これまでと変わらない。米国は一部の国についてイランとの取引継続を認めるかどうか、態度を当面明らかにしないのではないか。石油関連の制裁開始は11月である。原油高が行き過ぎるようであれば、制裁の一部免除を示唆し、そうでなければ制裁免除の可能性をちらつかせつつ、原油価格を抑制するだろう。
ただ、実質的に制裁が始まっているなかで、イラン経済はすでに弱体化を始めている。イラン情勢の悪化は中東の混乱であり、原油高を意味する。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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