1年半ぶり安値“東京金”の行方、日銀金融政策も先行き左右 <コモディティ特集>

特集
2018年7月25日 13時30分

―長期では高まるインフレの可能性が下支えか―

東京金先限は2017年2月以来の安値4,355円を付けた。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ見通しによるドル高を受けて、ドル建て現物相場が軟調に推移している。また、日銀が金利調整の議論を本格化させるとの見方が出ており、円を買い戻す動きが出ると 為替が円高に転じ、東京金の圧迫要因になるとみられる。トランプ米大統領が利上げ・ドル高をけん制し、ドル安に振れたことで、ドル建て現物相場上昇をいったんは下支えたが、ムニューシン米財務長官の発言などを受けてドル高が再開し、金の戻りは売られた。

ただ、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が今年下半期の金需要について、インフレの可能性が高まっていることや、貿易戦争が通貨に影響を及ぼす可能性があることを受けて、需要が高まるとの見通しを示した。投資需要が増加し需給が改善するようであれば、下げ止まる可能性が出てくる。

●東京金は月末の日銀金融政策決定会合を確認

日銀が、副作用が蓄積しているといわれる金融緩和策に修正を加えると伝えられたことを受け、23日には長期金利が0.09%まで急上昇し、2月2日以来の高水準となった。日銀は、指定した利回りで金額に制限を設けずに国債を買い入れる指し値オペを5カ月半ぶりに実施し、金利上昇を抑えた。日銀は10年国債金利の操作目標をゼロ%程度とする金融政策運営方針をしっかり実現するよう実施するとしている。

今回の長期金利上昇のきっかけはロイター通信が20日に「日銀は30、31日の金融政策決定会合で、鈍い物価動向を踏まえ、物価2%目標の実現に向けて金融緩和策の持続可能性を高める方策の検討に入った」と報じたことである。金融緩和の解除が意識されると、円が買い戻されて円高に振れる可能性がある。ただ「金融緩和を縮小する出口政策や金融政策の正常化とは異なり、物価2%目標の実現という日銀のコミットメントと整合的な方策を検討する」としており、当面は議論にとどまり、現時点で大きな政策変更が行われる可能性は低いとみられている。ブルームバーグの調査によると、エコノミスト全員が今回の会合では金融政策の現状維持を予想した。

米商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告によると、7月17日時点で大口投機家はシカゴ市場で日本円を5万8,650枚売り越し(前週3万9,832枚売り越し)ている。円が買い戻されるようなら1ドル=110円の節目を試す可能性も出てくる。

●米FRB議長の議会証言で利上げ見通し

パウエルFRB議長は、半期に一度の議会証言で、米経済について、今後「数年」にわたり労働市場が堅調を維持し、インフレ率も米FRBの目標である2%近辺で推移するとの見通しを示した。市場では9月と12月と、年内あと2回の利上げが見込まれており、証言を受け為替はドル高に振れた。トランプ米大統領から利上げ・ドル高をけん制する発言が出たが、米FRBの利上げ見通しに変わりがなければドル高が続くとみられ、金は1,200ドルの節目を試すとみられる。

ただ、金ETF(上場投信)に安値拾いの買いが入り始めたことが下支え要因である。世界最大の金ETFであるSPDRゴールドの現物保有高は24日に802.552トンとなり、ここ1週間で8.542トン増加した。アルゼンチンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、世界経済成長の短期的、中期的な下振れリスクが高まっているとされ、通商リスクに対する懸念が高まると、金がヘッジとして買われる可能性が出てくる。トランプ米大統領は20日、中国からの輸入品5,000億ドルに関税をかける用意があると発言しており、米中の関税の行方と各国経済への影響を確認したい。

●実需筋は一段安を待つ

金のドル建て現物相場が1年ぶりの安値を付け、安値拾いの買いも入っているが、一段安を待つ実需筋も多く、金は下げ止まりのきっかけをつかめずにいる。インド・ルピーや中国人民元など新興国通貨の下落により、ルピー建てや人民元建ての金価格はドル建てほど下がらず、割安感に欠ける。ただインドでは秋の婚礼・祭事シーズンを控えており、どのタイミングで実需筋が買い始めるかが当面の焦点である。インド気象庁が4月に今年のモンスーンは平年並みと予想したことを受け、穀物生産量が過去最大になると見込まれた。しかし、モンスーンの降雨量はやや下振れており、穀物生産が伸び悩むと、農家の収入が減少し、金需要が伸び悩む可能性も出てくる。一方、中国では貿易戦争の行方と人民元の動向を確認したい。

アナリストやトレーダー35人に対するロイター調査によると、2018年の金平均価格は1,301ドル、2019年は1,325ドルと予想され、3カ月前の1,334ドル、1,352ドルから下方修正された。ドル高を受けて第2四半期に急落したことが背景にある。ただ、今後数カ月で底入れし、金は1,300ドルを目指すとみられている。中長期的に金融市場で成長やインフレに対する懸念が出ており、金に逃避買いが入ると予想されている。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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