突き上げる“鋼鉄の上昇波動”、始まった「鉄鋼」大相場と要注目の株 <株探トップ特集>
―需給逼迫で製品価格値上げ効果も発現、貿易摩擦問題も織り込み評価一変―
22日の東京株式市場で日経平均株価は続伸した。大勢トレンドは今一つ方向感が定まらないものの、トルコ情勢や米中貿易摩擦問題など先行き不透明な環境にあって、下値に対する抵抗力は着実に高まっている。日経平均ベースのPERが13倍を切る水準(21日時点)にあるなどファンダメンタルズからは明らかに割安であり、中長期視野に立って買い場との認識が市場参加者の間に底流している。しかし一方で、上値が重いのも事実だ。広範囲に投げ売りを誘うような暴落が来れば、仕切り直し相場への道も開けるのだが、現状はそこまでの下落圧力はなく、売り方も腰が引けている。結果として、これが中段ボックス圏での足踏みが続く背景となっている。
●強いチャートにはそれだけの意味がある
個別株も選別が難しい環境にあるが、一つ言えるのは相対的に強いチャートをみせている銘柄に買いが集まりやすいということだ。他と比べて強い足を維持しているということは、需給関係が良く、投資する側の資金の回転が効いていることを意味している。これは「勝ち易きに勝つ」というセオリーに則ったもので、そこに投資マネーが集まるのは自然な流れともいえる。
またこれは個別株に限ったことではない。業種別でみても同様の原理が当てはまる。同じ沈滞相場にあっても、業種別指数でみるとセクターによってかなりパフォーマンスに格差が生じている。ここでぜひ注目しておきたいのが鉄鋼株だ。東証に上場する33業種の大部分が日経平均株価と同様に25日移動平均線を下回った状況にあるが、そのなか「鉄鋼」は業種別指数で25日線より上の水準に位置している数少ないセクターのひとつだ。強さの背景に見えてくるものは、株価形成の根源をなすファンダメンタルズ(実態)にほかならず、鉄鋼セクターは足もとの収益改善に加え、先行き業績変化に対する期待の高さが株価に反映され始めている。
新日鐵住金 <5401> やジェイ エフ イー ホールディングス <5411> といった高炉メーカーや、東京製鐵 <5423> 、共英製鋼 <5440> 、合同製鐵 <5410> などの電炉メーカーに静かに投資マネーが向かっている。そして今後この流れは次第に太くなっていく可能性が高い。
●需給逼迫・製品価格急上昇で環境様変わり
鉄鋼業界は一時中国の過剰生産に伴う鋼材市況の軟化に苦しんでいた。しかし今は様変わりの状況にある。中国では環境問題などの影響もあり、政府主導で鉄鋼生産の削減を進めた一方、自国内における高水準の鋼材需要が輸出を減らし、他のアジア地域に流通しにくくなったことが大きく影響している。「ホットコイルの価格は一時期トン当たり300ドルを切る状況にあったが、最近では600ドル水準まで上昇している」(新日鉄住金IR担当)という。もちろん、価格急上昇による輸出採算の改善は、高炉メーカーにとって望外の恵みの雨となったことはいうまでもない。
利益圧迫要因であった鉄鉱石や原料炭などの原材料価格の上昇も、今は各社積極的に製品価格の値上げに取り組んだこともあって、鋼材マージンの改善が急だ。新日鉄住金では8月契約分から厚鋼板の価格について約半年ぶりにトン当たり5000円引き上げることを決めたが、これは自動車や産業機械、建設機械向けなどで需給が逼迫していることを裏付けるものだ。新日鉄住金によれば「トン当たり5000円の値上げに取り組んでいる品目は厚鋼板に限ったものではなく、薄鋼板や棒鋼、線材なども合わせ全体的に取り組んでいる」としており、高水準の需要に支えられ今後も鋼材マージンの拡大が収益面に段階的に反映されていくことが予想される。
●貿易摩擦の影響は恐れるに足らず
ここで懸念要因として挙げられるのが、米国トランプ政権による保護主義色の強い通商政策であり、鉄鋼関税が及ぼす日本の鉄鋼メーカーへの影響がネガティブ材料として意識されている。しかし、これについて過度に神経質になる必要はなく、これは目先戻り足に転じた新日鉄住金の株価推移にも映し出されている。新日鉄住金では「当社の米国向け輸出は全体に占める2%に過ぎない。しかも、米国向けに提供しているのは同国で必要とされる付加価値の高い鋼材に特化しており、関税で需要が落ちることは考えにくい。また、当社は米国に現地子会社や持ち分法適用会社を擁しており、こうした米国内のグループ会社については関税による鋼材価格上昇が利益向上につながる」と前向きだ。
米中間の貿易摩擦の余波で、中国が米国向けに輸出していた鋼材がアジア市場に横流れすることで再び鋼材市況が軟化するのではないかという思惑も、鉄鋼関連株への投資を手控えさせていたが、これも現段階で杞憂との見方が強まっている。「中国から米国への鋼材輸出量は10万トン以下であり、中国の生産量全体の1000分の1という水準。鉄鋼関税で中国は大したダメージは受けないし、ましてや鋼材市況が再び軟化するというシナリオはナンセンス」(国内証券ストラテジスト)と指摘する。
ただ、一つ警戒しておかねばならないのは自動車関税の影響だ。自動車はいわば鉄の塊であり、米国への輸出減少が鉄鋼メーカーにとって間接的にどのくらいのデメリットとなるかは未知数だ。これについては新日鉄住金も「自動車関税の影響については注意している。9月下旬に予定される日米首脳会談がどうなるかが当面の注目点」としている。ただし、今月9~10日の日程で行われた日米貿易協議(FFR)で茂木経済財政・再生相は、(協議は持ち越されたものの)米国側が初回会合を終えて不満を持っている印象はないとコメントしているほか、トヨタ自動車 <7203> など大手自動車メーカーは米国での現地生産を高めるなどの経営努力を進捗させており、この問題も米国との間で落としどころが確認されれば、売り材料としては決して重いものではない。
●マーケットに驚きを与えた好決算の嵐
もとより鉄鋼各社の18年4-6月期業績はマーケットの耳目を驚かせるに十分なインパクトがあった。自動車、建機、産業機械、建材向けといずれも鋼材に対する旺盛なニーズが改めて確認され、製品価格の値上げ効果と数量増のダブルメリットが発現している。
新日鉄住金の4-6月期最終利益は前年同期比35%増の963億円。また、JFEは4-6月期の好決算を背景に19年3月期の通期予想を修正し、経常利益を従来予想の2200億円から2600億円(前期比20%増)に大幅増額している。高炉メーカーだけでなく電炉メーカーの業績も好調を極める。共英製鋼の4-6月期は最終利益段階で前年同期比88%増の19億8500万円。通期見通しに対する進捗率はクオーターにも関わらずほぼ50%に達した。
●鉄鋼株効果で株高エンジン全開の周辺株を狙う
鉄鋼業界の活況と歩調を合わせその周辺セクターも目を見張る業績好変化に沸いている。その最たる例が“耐火物”を手掛ける企業だ。鉄鋼向けなど高温を扱う工業分野で溶融処理及び加熱処理設備の内張りに使用されるもので、粗鋼生産量の増加に伴い需要が強く喚起されている。収益好調のメカニズムは鉄鋼業界と同じで製品価格の上昇及び数量増効果だ。
【大勢2段上げのタイミング迫るTYK】
そして、耐火物関連は株価面でも値動きが軽く要注目の銘柄が多い。そのなか、マド開け急伸後に400円台半ばで売り物をこなし、大勢2段上げに向けカウントダウンの様相を呈しているのがTYK <5363> だ。JFEを筆頭株主におく耐火物大手で高い技術力を武器に海外でも強さを発揮する。4-6月期営業利益は前年同期比41%増の9億9200万円と急拡大しポジティブサプライズを誘った。時価予想PER12倍、PBRは0.7倍台に過ぎず株価指標面からも依然として割安圏に放置されていることが分かる。96年に1840円の高値をつけており天井も高い。
【ヨータイも4ケタ未満は仕込み場】
また、住友大阪セメント系で電炉向けに高実績を持つヨータイ <5357> もマークしたい。同社株もマドを開けて大きく上放れた後、調整を入れたが下値での買い板は厚く、再騰前夜のムードだ。PERは8倍前後と格安で、4ケタ未満の株価は仕込みチャンスと捉えられる。4-6月期営業利益は前年同期比2.5倍の12億5400万円と大きく変貌した。鉄鋼業界向けは低調と見られていただけに、今の収益環境の変化は見直し余地が大きい。
【黒鉛電極の東海カーボン、日カーボンも狙い目】
さらに、電炉向けに黒鉛電極を提供する東海カーボン <5301> や日本カーボン <5302> などはここ株価調整を入れていただけに逆張りスタンスで妙味が大きい。電炉での製鉄に使われる黒鉛電極も販売価格の引き上げが利益押し上げ効果をもたらしている。東海カーボンは7日に18年12月期営業利益を前期比6.4倍の740億円見通しに増額したが、これは今期に入り3回目の上方修正ということで話題を呼んだ。日カーボンも18年12月期の営業利益を2度にわたり増額、営業利益130億円は前期比5倍という変化率だ。
【鉄鋼周辺の最強穴株UEXの出番も近い】
最後に穴株として頭角を現してきそうなのがUEX <9888> [JQ]だ。新日鉄住金との関係が濃いステンレス鋼商社で時価総額は100億円を下回っていることもあって、値動きが軽い。ステンレス鋼の値上げが同社の業績に寄与しており、4-6月期営業利益は4億6000万円と前年同期比4割以上の伸びを示した。PER6倍、PBR0.7倍は商社という業態を考慮しても割安さが際立つ。加えて配当性向30%目標を掲げ、年間配当は前期実績ベースで31円、配当利回りにして4%を超えていることは特筆される。
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