武者陵司 「もっぱらテクニカル暴落、上昇波の跳躍台に」(後編)
※武者陵司 「もっぱらテクニカル暴落、上昇波の跳躍台に」(前編)から続く
―ペンス副大統領の「米中冷戦宣言」が不確実性を高めるが、数週間で霧は晴れる―
武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)
●2月や10月のテクニカル的相場下落は景気をむしろ延命させる
Q) 米国株式はかなり騰勢を強めていた面もあったので、ガス抜きになったかもしれませんね。
武者) 長期的に見て警戒しなければならないことは2つある。1つは景気が失速してリセッションになるということが見えたら一気にポジションを閉じなければいけない。もう1つはバブル。楽観論が高まりバブル化してそれが崩壊した時には金融市場の逆回転によるリセッションが起こり得る。今はファンダメンタルズからの景気失速はほとんど考えにくい。加えてバブルについては2月も今回の10月も、ちょっと上がると大幅に下落する、というように、警戒感が著しく強い。
バブル化する可能性をマーケットが事前にチェックしているということだから、それはむしろ景気拡大を持続させる要因になり得る。懸念される長期金利の上昇やインフレの加速も、株価が下落することで逆に長期金利が低下する、また株価下落によってコンシューマーコンフィデンスなどが冷却されて景気の過熱を抑える要素になる。今の動きは深刻に構える必要はないと思う。
●海外勢の日本再評価が起きる前夜にある
Q) 海外勢の日本株に対するスタンスをどう見ていらっしゃいますか?
武者) 依然として 日本株式の潜在的強さを認識していないと思う。海外勢は相変わらず日本は世界経済の劣等生だと思っているが、武者リサーチの分析では日本は世界の優等生だ。企業のビジネスモデル、稼ぐ力という点で、世界最高の評価が適切になされるべきと考える。
東証出来高の6~7割を占める外国人投資の過半はヘッジファンドなど短期筋の取引であり、長期投資家は日本株式比重をせいぜいニュートラルにとどめている。特に今年は年初来累計で日本株式を売り越している。今回の相場クラッシュは海外の年金など長期投資家が日本株式のポジションを高める契機になるかもしれない。
ただ、こんな見方もできる。日本に対する直接投資は諸外国に比して著しく小さく、日本は投資障壁が大きな国との歪んだ評価がある。日本企業の対外直接投資が175兆円であるのに対し、海外企業による対日直接投資は29兆円と著しい不均衡となっていることが、その証拠とされている。確かにM&Aなどに関して日本企業には投資の閉鎖性がある。
しかし他方、外国人はものすごい規模で日本株を買っている。外国人の日本株の保有比率は1990年5%前後、2000年18%から毎年増加し今では30%に達している。株式投資で見れば、対外株式投資は86兆円に対して対内株式投資は217兆円と、ここでは逆の著しい不均衡がみられる。
外国人は日本において自らビジネスをするのではなく企業を買う形で日本に対する投資をしていると言える。日本の経営力を外国人が買うということで日本のビジネスに参画する、ということが起こってきたわけである。実は外国人が日本の企業のビジネスモデルを評価していることのあらわれと考えられるのではないか。
海外勢の日本企業に対する評価が高いことを日本人が知れば、今度は日本の個人の投資家も株式を買い、市場はいよいよ厚みを増してくると思う。米中冷戦がはっきりしたことによって、日本の世界の地政学上のプレゼンスは著しく高まっている。日本は中国とアメリカの冷戦のどちらが勝つかのカギを握るポジションにいる。日本のポジションが地政学的に有利であるということは、日本の経済やマーケットに対して追い風になる。
(2018年10月15日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン210号」を転載)
⇒⇒ 武者リサーチが【特別企画】コラボセミナー「2019年を読む ~日本が打ち立てた世界有数のビジネスモデルの威力と源泉~」を開催します。
⇒⇒ 日本のFAANGはなにか?日本ものづくり経営研究の先駆者藤本隆宏氏とハイテクアナリスト南川明氏をお招きし、世界をリードする日本のリーディングカンパニーを探ります!
⇒⇒ 講演者:藤本隆宏(東京大学大学院経済学研究科教授)、南川明(IHSグローバル株式会社 主席アナリスト)、武者陵司(武者リサーチ 代表)
⇒⇒ 日時:2018年12月7日(金)18:30-21:30。会場:紀尾井フォーラム。受講料:20,000円(税込)
⇒⇒ お申し込み・詳細はこちら
株探ニュース