足元で戻りを見せるトルコリラ【フィスコ・コラム】

市況
2018年10月21日 9時15分

サウジアラビアの政権に批判的だった同国人記者の失踪事件を受け、通貨リヤルは原油安に悩まされていた2年前の水準に一時値を下げました。一方、その事件の現場となったトルコが注目され、リラは上昇基調を加速させています。

トルコのイスタンブールにあるサウジ総領事館でジャーナリストのジャマル・カショギ氏が失踪したのは今月2日。それから数日して、アメリカのメディアにより事件はセンセーショナルに伝えられました。カショギ氏はサウジ生まれでアメリカの大学に留学後、メディアの道に進みました。オサマ・ビンラディンへの取材などで知られています。有力新聞社では厳格な王政を批判した論評で、辞任に追い込まれました。

複数の報道によると、カショギ氏は総領事館で拘束された後、生きたまま身体を切断されるという凄惨な方法で殺害されました。捜査が進むなか、サルマン国王の子であるムハンマド皇太子の関与が取りざたされ、世界最大の産油国の政治問題として注目されています。サウジと蜜月関係のトランプ大統領は「推定有罪は好まない」などと、サウジ政府を擁護するスタンスを示し、様々な憶測が広がっています。

こうした事態に、金融市場も反応しました。サウジの株価指数は10月前半に10%も下落し、通貨リヤルは原油安に陥っていた2016年以来の安値に一時下げています。原油価格が大幅に回復した現在なら、アメリカとの関係が悪化した場合には保有する米国債の売却に踏み切る可能性もあり、国際金融市場には混乱に備えるムードが広がりました。そんななか、トルコリラは対ドルで9日続伸の堅調な値動きとなっています。

トルコは今年8月のリラ急落で経済の破たんが懸念されましたが、その後は中銀の大幅利上げなど本格的なインフレ対策が好感され、足元では急落前の水準にほぼ回復。今月に入り上昇基調が強まった背景には、トルコでのクーデター未遂事件関与の疑惑で拘束中だったアメリカ人牧師の釈放や、それに関連した鉄鋼・アルミ製品の関税率引き上げの制裁解除観測など、アメリカとの関係改善への期待感があります。

少しうがった見方かもしれませんが、このカショギ氏失踪事件も、リラ回復に少なからずつながるものと思われます。アメリカの超党派議員は同事件の徹底解明を政府に求め、トルコ当局に対して音声や映像などを提供するよう要請しています。しかし、仮にムハンマド皇太子の関与を示す内容が示されれば、メディアにとってはサルマン体制のサウジに肩入れするトランプ政権の格好の攻撃材料になります。

崖っぷちから生還しつつあるトルコがこの事件をできるだけ穏便に済ませようと考えるのは、不自然ではありません。宗教指導者で現在アメリカ在住のギュレン氏の身柄引き渡しという両国最大の懸案事項はさておき、大局的にアメリカとの関係改善の流れを加速させる道を模索するでしょう。連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ継続を背景としたドルよりもリラが強いのは、そうした市場の思惑もあるようです。

(吉池 威)

《SK》

提供:フィスコ

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