原油市場“変わった主役”、失墜のサウジ・影響力強める米国 <コモディティ特集>

特集
2018年11月21日 13時30分

―低下したサウジ発言力、米国はシェールオイル拡大で価格影響力増大―

今年は原油市場の外観図が大きく変化した。2017年から始まった石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC加盟国による協調減産は成功を収め、世界的な過剰在庫が払拭された結果、 原油価格は回復した。サウジアラビアとロシアが協力し、目標を達成したことで産油国は絆を強めている。来年以降、現行の一時的な協調体制は長期的な枠組みへ生まれ変わる見通しである。ロシアが加わることで、OPECはさらに巨大なカルテルとなる。

●米国とOPECの駆け引き

5月にトランプ米大統領がイラン核合意から離脱し、対イラン制裁を再開したことが原油高を煽ったにも関わらず、トランプ大統領はOPECが価格をつり上げていると繰り返し批判し、産油国に増産するよう要請した。米国の要求もあって、サウジアラビアやロシアはイランの減産を穴埋めするよう生産量を拡大した。

ただ、米国がイランに対する石油制裁を強行すると、主要な産油国が余剰生産能力を使い切り、相場が不安定化する可能性が高いことから、米国は対イランの石油制裁を一時緩和している。8ヵ国が180日の猶予期間に限ってイランと石油取引を継続することが容認された。

サウジやロシアが増産体制を維持するなか、イランの原油輸出をゼロにすると息巻いていた米国の軌道修正によって供給過多が警戒されており、ニューヨーク市場でウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は年初来安値を更新した。原油安を望むトランプ大統領が産油国の減産をけん制していることも原油安の背景である。

●衝撃の暗殺事件で求心力を失ったサウジ

サウジ王室に批判的だったジャーナリストのジャマル・カショギ氏がサウジによって殺害された事件は衝撃的だった。北朝鮮が猛毒のVXガスを使用して金正男氏を殺害した事件と肩を並べる。ならず者国家と罵られていた北朝鮮とは異なり、サウジは多額の兵器などを購入し、政府系ファンドを通じて資金を各国へ投資しつつ、原油価格の安定化を図ってきた主要国の友好国である。今も友好国であることに変わりはないのだろうが、サウジに対する視線は冷たい。産油国の舵取り役で、意見調整役のサウジは発言力を失っている。

●米国は驚異的なスピードでシェールオイルを増産

米国の シェールオイル増産は今年も驚異的だった。米エネルギー情報局(EIA)によると、8月の米原油生産量は前月比41万6000バレル増の日量1134万6000バレルまで拡大した。EIAは2018年の増産幅を日量155万バレルと想定している。OPEC加盟国のリビアやベネズエラを上回る規模の生産量をたった一年でシェールオイルが生み出すことになる。来年以降もこの増産ペースが続くなら、産油大国であるサウジアラビアやロシアの生産量を軽々と上回る。日量2000万バレル規模の石油を消費する米国が自国の資源だけでエネルギー消費を賄うようになる日は遠くない。

●急速に変化するパワーバランス

主要国のなかで最も堅調な経済を背景に、トランプ米大統領は最大限に影響力を行使している。米国の原油生産量が急拡大を続けていることは、大統領の強気な発言を後押しする。OPECが原油価格を回復させたことは、米国のシェールオイル生産を一段と刺激し、米国を利した。

未だに米国は原油の輸入国だが、中東やロシアに頼る必要のない未来はそこまできている。サウジは自ら世界的な影響力を削いだ。エネルギーに基づく勢力図は急速に変化し続けており、世界最大級の産油国で需要国の米国は一段と存在感を強めている。パワーバランスの変化に目を向けなければ、値動きに翻弄されることになりそうだ。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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