2019年コモディティ市場、原油・金・非鉄相場の行方 <新春特別企画 第3弾>

特集
2019年1月3日 16時00分

コモディティ市場にとって2019年は明暗が分かれる年になるか。世界的な景気動向がすべてのカギをにぎる。

2018年の終盤にかけて世界的に景気減速懸念が強まった。トランプ米政権が仕掛けた米中貿易戦争によって、中国だけでなく中国向け輸出の多いドイツ経済が圧迫されている。

10月頃までの金融市場は堅調で、米株式市場は再び最高値圏へ突入しつつあったが、年末にかけては視界が一変した。米中貿易戦争の悪影響を甘く見ていたツケが年末に一気に押し寄せた。トランプ米大統領や習近平・中国国家主席が自国の景気を顧みずに殴り合い、経済を犠牲にするとは想像できなかった。両国のチキンレースが続くのならば、その他の国々も多大な煽りを食らう構図が鮮明になりつつある。

●2018年、原油は需要見通しの悪化で暴落

コモディティ市場のなかで、景気見通しの慢心による多大なツケを払わされたのが 原油である。指標原油であるワールド・テキサス・インターミディエイト(WTI)やブレント原油は10月高値から40%超暴落した。年初来高値から年初来安値へと一気に値を下げる様は金融市場全体から注目を浴びた。

2018年10月までの原油高は、米国の対イラン制裁による強制減産など供給側の要因が軸だっただけに、需要見通しの悪化に目線を合わせ状況を飲み込むまでに時間を要した。石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどの協力国は、12月に曖昧な減産合意に達したが、OPEC総会後の原油安に肝を冷やしていることだろう。

●銅やアルミニウムは下支えも景気見通しの悪化に抗えず

本来であれば、原油相場よりも景気に神経質に反応しそうな銅やアルミニウムの価格はそれほど下がっていない。従来の内燃機関による自動車に比べ、電気自動車(EV)を製造するにあたって、アルミニウムや銅を大量に消費することがそれぞれの価格を下支えしている。

ただ、ロンドン金属取引所(LME)で、アルミニウム3ヵ月物は年末にかけて1900ドルを下回り、節目だった2000ドルから離れつつある。銅3ヵ月物は年初来高値から大きく押し戻され6000ドル付近で推移しており、世界的な景気見通しの悪化に抗えていない。

将来的にはEVが自動車の主流になるにしても、景気減速期あるいは景気後退期にEVへの乗り換えが拡大することはなさそうだ。振り返ってみれば、銅やアルミニウムの3ヵ月ものが4月から6月にかけて年初来高値をつけた後に失速していることからすると、米中貿易戦争が本格化する今年半ばの時点で景気見通しに変調の兆しがあったといえる。

●浮上するきっかけが見当たらないプラチナ

自動車市場と関連づけると、 プラチナの需要見通しは明らかに暗い。景気減速局面で自動車購入が手控えられるだけでなく、プラチナからパラジウムに自動車の触媒需要が移行しており、プラチナが浮上するきっかけがあまり見当たらない。あるとすれば金に対する需要が強まり、プラチナが連動して上昇するという構図である。

●金は逃避需要として再び脚光

景気減速懸念が広がるなかで、金相場は上向いている。年末に現物価格は1280ドル付近まで上昇し、昨年6月以来の高値をつけた。2008年のリーマンショックで本格化した世界的な金融危機を克服した後、ラストリゾートである金に対する逃避的な需要は弱まる一方だったが、いま再び脚光が当たっている。

2019年、金の逃避需要が一段と強まるのか、原油のほか、銅やアルミニウムなど非鉄の価格が一段と押し下げられるのか。繰り返しとなるが、それは世界的な景気動向次第である。

●中国景気は中立を辛うじて維持

景気減速の中心地である中国の経済指標では、国内総生産(GDP)、 鉱工業生産 小売売上高の伸びが目立って鈍化しており、今後も弱め推移が続くのではないか。主要な中国経済指標に対する信頼感は乏しく、統計以上に実際の景気の下振れは鮮明だと思われる。

ただ、輸出額や輸入額の推移にそれほど変動はなく、原油輸入量は日量1000万バレル規模に達し、過去最高水準を塗り替えている。中国メディアの財新と英調査会社IHSマークイットが発表している中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)は景気判断の分岐点である50を辛うじて維持しているほか、中国と経済的なつながりが強いオーストラリアの中国向け輸出に今のところ目立った落ち込みはみられない。

●ユーロ圏の景気減速は明らか

中国と並んで、ユーロ圏の景気減速も明らかで、GDPの伸びは鈍化している。7-9月期のドイツGDPは前期比-0.2%、イタリアは同-0.1%と、中核国が足を引っ張っている。ユーロ圏の小売売上高指数や鉱工業生産指数は上昇トレンドが一服した後に足踏みを続けているほか、失業率の低下が一巡した印象を受ける。

スペインやイタリアの若年層失業率(25才未満)は依然として30%超で推移しており、イタリアでは低下基調が反転し、上向く兆候さえある。若者に職がなく、経験が蓄積できないとなれば、見通しは暗い。ユーロ圏のPMIは景気拡大を示唆する50超の水準を維持しているとはいえ、低下が続いている。

●米国は原油安を背景に下振れ

米国でも設備投資の参考指標である耐久財受注の上向きトレンドが足踏みしているほか、製造業の景況感指数に下振れがみられるなど、各国の景気減速はすでに波及していると想定しておくべきだろう。石油は米国の基幹産業であり、原油安を背景として今後さらに弱めの経済指標が出てくるのではないか。

●安全資産として金は上値伸ばせるか

以上からすると、2019年の世界経済は減速が続く可能性が高い。景気と連動して、原油や非鉄、プラチナの需要は抑制されそうだ。米中貿易戦争の長期化が避けられないなら、全般的にコモディティ相場は低調だろう。ただ、には安全資産としての需要が高まり得る。金は主要国の国債と並び、資金の最終的な逃げ場である。

金が上値を伸ばせるか否かはドル相場次第であるが、米経済が減速しドルが売られ、ドルの代替資産である金の上昇に拍車がかかると想定するのは安易だ。世界的な景気減速の兆候があるなかでも、米経済は主要国のなかで最も堅調であり、2007~10年頃まで続いた金融危機を経て、十分に立ち直ったのは米国だけである。米連邦準備理事会(FRB)が政策金利の正常化やバランスシートの縮小を進めている反面、その他の主要国の金融政策は未だにほぼ10年前の危機対応モードである。米国が健常者であるなら、その他はまだ集中治療室で立つことすらままならない病人である。

●金融緩和策の出口戦略を進める前に景気下振れ

欧州連合(EU)からの離脱問題を抱えつつも英国経済は比較的強いが、ユーロ圏や日本の景気回復は弱々しい。英中銀(BOE)は世界金融危機のもとで導入した金融緩和策からの出口戦略を進められておらず、欧州中央銀行(ECB)は金融政策の正常化を始めようとしているところで、景気回復が頓挫しようとしている。

日本に至ってはなりふり構わぬ金融緩和の巻き戻しは夢のまた夢である。日本政府は外国人労働者の受け入れ拡大によって人手不足を解消し、企業の自然淘汰や賃金上昇を妨げるなど、物価上昇と金融政策の正常化を阻害している。

●次の景気後退局面で円はリスク回避通貨ではない

世界的な景気減速は主要国の中銀を追い詰めつつある。景気下振れによる痛みを和らげるため、あらためて金融緩和策が必要となった場合、それなりに手段が手元にあるのは米国だけである。日銀やECB、BOEにはほとんどない。日本やユーロ圏、英国は、経済の向かい風に無防備に耐えるしかない。

かたや、米国は利下げが可能である。世界経済が景気後退に向かうとしてドルが売られ、ユーロやポンド、円が買われるだろうか。次の景気後退局面で円はおそらくリスク回避通貨ではない。ドルに資金が向かうと想定するのが自然ではないか。利下げが可能であることはドルの強みである。

世界的な景気減速が続くことを前提とすると、原油やアルミニウムや銅などの浮力は限られそうで、安全資産である金の独壇場になるとも想像しづらい。米中通商協議を眺めつつ、2019年はさえない一年となるのではないか。万が一、米中協議が早期に終了し、世界経済にまた光が差し込むとしても、傷ついた投資家心理は当分癒えない。消費者や企業景況感も同様である。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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