中国インバウンド需要の真実 日本がショッピングの聖地に変わるとき <株探トップ特集>

特集
2019年3月27日 19時30分

―2月の免税売上高は過去最高、日本とEUとのEPA締結で吹き抜ける春風―

中国インバウンド需要が、新たな段階を迎えようとしている。インバウンド関連株は中国景気減速も警戒され足もとでは軟調に推移している銘柄も少なくない。中国政府が「中華人民共和国電子商務法」(EC法)を今年1月に施行したことがこの流れに拍車をかけた。しかし、ハイエンド(高級)商品を中心にメイド・イン・ジャパン製品は着実に売れ続けており、実際、2月の免税売上高は過去最高を記録している。ショッピング天国の日本は「第2の香港」との声も中国人の間からは上がり始めた。中国人旅行者によるインバウンド需要は日本経済に着実に根付きつつあり、関連株には再評価余地が膨らんでいる。

●中国EC法は1月施行、「代購」の調達減の影響が表面化

中国政府が今年1月に施行したEC法は、代理購入(代購)と呼ばれる個人ブローカーの取り締まり強化が目的とされている。中国では国内と海外の内外価格差は激しく、中国最大のネットショッピングモールである淘宝(タオバオ)や天猫(Tmall)のようなECサイトはもちろん、微信のような交流サイト(SNS)上でも多数の転売業者が日本に限らず海外から購入した商品を転売している。ひとたび商品が人気となれば、コピー商品(偽物)が横行する。また、一部の業者はコピー商品を本物に見せかけるため架空の領収書をコピー業者に渡していたことが発覚し問題になった。EC法はこうした状況を是正すべく、個人営業を含むネット通販事業者に登録と納税を義務付け、宣伝広告も規制する。訪日外国人のなかには、中国で人気の商品を帰国後に転売する「代購」と呼ばれる並行輸入を行う中小業者や個人業者が存在している。EC法の施行により訪日外国人の3割強を占めるともされる代購が調達を減らし、化粧品や日用品の1月の国内販売は落ち込んでいる。

●意外にも堅調な免税店販売、2月免税売上高は過去最高を更新

インバウンド消費を探るうえで、この中国のEC法の影響は見逃せない。とはいえ、日本の百貨店などの免税店販売は意外に堅調に推移している。日本百貨店協会によると、2月の百貨店売上高総額は4220億円余となり、前年同月比0.4%増と4ヵ月ぶりのプラスだった。国内市場はわずかに同0.6%減と前年割れとなったが、インバウンド(免税売上高)は同14.8%増の319億円と過去最高額を更新した。2月では中国の春節休暇(4~10日)にあたり、購買客数は約42万5000人、前年同月比8.1%増と73ヵ月連続のプラスとなった。化粧品を含めた消耗品が引き続き好調に推移したことに加え、ハイエンドブランドなどの高額商品も寄与し、一人当たりの単価は7万5000円(前年同月比6.2%増)と8ヵ月ぶりにプラスに転じた。免税カウンターの来店国別順位は中国本土が1位となり、韓国、台湾、香港とアジア圏の国が続いている。春節期間にJ.フロント リテイリング <3086> 傘下の大丸、高島屋 <8233> やエイチ・ツー・オー リテイリング <8242> 傘下の阪急阪神といった百貨店の消耗品の売上高は軒並み2ケタの伸びを達成しており、高島屋のIR担当者は「先月(1月)の減速を見ると今後についてまだまだ気を緩められない」としながらも、「とりあえず一安心」と胸をなでおろしている。

●EUとのEPA締結で欧州ブランドがお買い得に

この中国人による底堅いインバウンド需要の背景にあるのは何か。見逃せないのが、2月1日に発効した日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)だ。日・EUのEPAによる輸出関税の軽減によって世界の国内総生産の約3割、貿易額の約4割を占める自由貿易圏が生まれた。この日欧EPAに関しては、「日本は中国という巨大市場を背中に、EUとの商売を拡大している」(中国メディア)との見方は少なくない。実際、中国のネットでは「日本でヨーロッパブランドが安くなるし、また旅行に行こうか」とか「今後日本が第2の香港のようなショッピングの聖地になる」といった言葉が飛び交っている。インバウンド消費で今後も大ウケするのは欧州の高級ブランド品や高級衣類、ジュエリーなどとみられる。

●ラグジュアリーブランドの進出が続く銀座、店舗賃料も上昇基調

2010年の上海万博を境に、海外高級ブランドには中国での店舗開設を加速させる動きがみられた。しかし、直近では日本での盛り上がりが目立つ。この1~2年でラグジュアリーブランドが銀座に旗艦店を移転、本格リニューアルオープンするなどの動きが相次いでいる。堅調な高級ブランドの出店ニーズを背景に、横ばい傾向が続いた銀座エリアの路面貸店舗の賃料相場が上昇に転じた。不動産サービス大手のCBRE(東京千代田区)がまとめた銀座中心部の平均賃料は18年12月末時点で3.3平方メートル当たり25万6000円と、同年9月末より0.8%高い。ただ、上昇したとはいえ、世界的に見れば銀座の賃料はさほど高くはない。グローバル不動産総合サービスのクッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(米シカゴ)によると、18年において銀座の賃料は坪当たり月額約40万円で世界6位だが、1位の香港・コーズウェイベイ(銅鑼湾)の同88万円と比べれば半分以下に過ぎない。世界的ブランドからすれば集客力が抜群な一方、賃料に割高感はない銀座への出店は魅力的に映るだろう。

●中国中流層の増加基調続く、中高級品にコンスタントな需要

これら高級ブランド品や高級衣類、ジュエリーと並んで人気なのは日本の化粧品や食品などだ。なかでも、最も恩恵を受けるのは、やはりこれらの商品を包括的に取り扱う百貨店だ。中国国家統計局のデータでは、中国国内における中等収入(1日の収入20~100ドル)の人口は4億人以上と推定される。中国の中産階級は増加基調を続けており、これからは富裕層と中流層による高水準の中国インバウンド需要は、中長期で継続しそうだ。

関連銘柄では、化粧品でポーラ・オルビスホールディングス <4927> に注目したい。中国人女性にとって美白は 美容に関する最大の関心事であるが、5月には、昨年12月に新たな美白有効成分の承認を得た新製品の発売を予定するなど美白分野において一歩リードしている。

また、ミルボン <4919> はヘアデザイナーのアドバイスによる美容専売品、サロン専売品を取り扱う化粧品総合メーカーとして96年株式公開後増収を継続し、長期ビジョンとして美容室のヘア化粧品市場で世界ナンバーワンのメーカーを目指している。中華圏の女性の間では、日本での買い物のついでに美容サロンに行く、いわゆる「美ンバウンド」がブームとなっているが、サロンで使用される同社製品は、この恩恵を受けている。日本色材工業研究所 <4920> [JQ]は化粧品のOEM生産を行っており、第2四半期業績を増額修正している。アイスタイル <3660> は中国の動画アプリ「Tiktok(ティックトック)」の親会社、ByteDance(バイトダンス)が提供しているニュース・ソーシャルアプリ「今日頭条」を利用し、中国語圏の人向けに日本の化粧品の紹介を行っている。

更に、株価が底値圏にある高島屋やH2Oリテイルといった百貨店株のほか、韓国や中国などからの団体客向け手配業務を手掛ける旅行会社のHANATOUR JAPAN <6561> [東証M]にも投資妙味が膨らんでいる。

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