植草一秀の「金融変動水先案内」 ― 10連休・改元・米大統領訪日・参院選に消費税

市況
2019年4月13日 9時10分

第8回 10連休・改元・米大統領訪日・参院選に消費税

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

●イベント目白押し

2019年は大型イベント目白押しの年です。天皇の退位を受けて元号が変わります。新元号は4月1日に発表されました。この発表は統一地方選の告示と投票日の間に設定されました。投票率を引き下げるために国民の関心が政治に向かわぬよう配慮したものだと考えられます。経済金融変動を分析する際には政治の分析を欠かせません。その政治は,決してきれいごとでなく、泥臭い権力闘争の舞台でもあります。この現実を見据えて考察し、投資戦略構築に生かすことが求められます。

昨年10月初から12月末にかけてのグローバルな株価急落の要因として、筆者はFRB金融引き締め政策、米中貿易戦争、日本増税政策を挙げてきました。10-12月期は、これらがすべて株価下落を後押しするかたちで作用しました。その結果、内外株価が2割も下落するという事態が発生したのです。公的年金資金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、この3ヵ月に15兆円もの損失を発生したと伝えられています。資産の10%をたった3ヵ月で失ったことは文字通り他人事ではありません。この運用に高額手数料が支払われてよいものかなどとも考えてしまいます。

個人投資家はこのような失敗を犯さぬよう気をつけなければなりません。筆者はその極意を『日本を直撃する「複合崩壊」の正体』(ビジネス社)に詳述していますので、関心のある方はぜひご高覧ください。最重要の鉄則が「厳格なルールに基づく損切り」にあることだけ、ここに記述しておきます。

●米朝協議決裂に際しての考察

筆者が発行している会員制レポートでは昨年10月上旬号で株価警戒警報を発し、本年1月上旬号で株価警戒警報解除を発しました。実際に 日経平均株価は急落後、急反発の推移を示しました。

その堅調株価が2月末の米朝首脳会談の物別れを契機に変調を示しました。このときには、米中通商協議が3月末までに決着するとの期待が広がっていたのですが、米朝協議の決裂を受けて、米中協議も物別れになるのではとの警戒が広がったのです。

前回の本コラムに記述したように、このような局面でこそ「インテリジェンス」の力を発揮しなければなりません。米朝協議決裂、米中協議決裂と、ドミノ倒しのように事態が悪化すれば、内外株価は急反落に転じることになるでしょう。その意味で、十分な考察が求められる局面でした。

筆者は米国のトランプ大統領と中国の習近平主席の判断として、米中協議決裂を回避することを優先すると「洞察」しました。同時に「洞察」したことは、協議の決着は一本調子にはもたらされないということでした。

基本観として悲観する必要はないが、手放しの楽観はできないというものです。ただし、重要なのは「基本観」で、米中協議は最終的に決着するものなのか、それとも、決裂してしまうものなのか、について考えを巡らせることです。

●「洞察」を「戦術」に「翻訳」する

最終的には決着するけれども、そこにたどり着くまでには紆余曲折があるとの「読み」を投資戦術に「翻訳」しなければなりません。この「読み」に基づく投資戦術とは、基本的に強気の相場観を持ちつつ、高値には手を出さず、不安心理が広がって相場が下落したタイミングを捉える、というものになります。

同時に、紆余曲折が繰り返されるとの「洞察」は、不安心理が広がって相場が下落した局面で「買い」に回るが、市場心理が変化して相場が反発した局面では、深追いせずに、確実に「利食い」を実行することが重要になる、との戦術に「翻訳」されるわけです。

3月の日経平均株価の変動で言えば、3月11日や3月25日にある程度下落する局面がありました。こうした局面を「チャンス」とみなし、他方で、日経平均株価が2万2000円に接近する局面では、いったん利益確定を確実に実行するとの「戦術」を構築できることになるわけです。

すべての情報を精査して、金融変動の基調と変動要因を把握する。その上で、その環境に適合する投資戦術を構築して、着実に執行する。こうした、論理性のある行動、執行がとても大切であると考えます。

しかし、すべての情報を総合して経済金融環境を判断し、正確な基本観を持つことは容易なことではありません。この部分では、それぞれの投資家が、自分にとって信頼できる「水先案内人」を持つことが大切になるのだと思います。

●消費税増税再々延期はあるか

連休明け後の5月下旬にトランプ大統領の訪日が予定されています。通常国会は延長がなければ6月26日に終わります。この場合、参議院議員通常選挙は7月21日投票日が有力視されています。ただし、国会会期末に衆議院が解散されると、衆参ダブル選になる可能性もあります。また、国会が延長されて、8月に衆参ダブル選が実施される可能性も、日程としては否定しきれません。

2019年後半の日本経済と株式市場を展望する際、最重要事項になるのが消費税増税の行方です。現状では、10月に消費税率が10%に引き上げられることになっています。政府は2兆円規模の増税対策を講じており、今年度に限って言えば増税のマイナス影響と対策のプラス影響が相殺されることになります。

しかし、対策は1年限りですが、増税による資金吸収は永遠に続きます。10年で考えても2兆円対20兆円ということになりますから、増税の影響が深刻に広がることは間違いないでしょう。所得の少ない階層に対する手当も十分とは言えません。

昨年10月以降の株価下落が、1月以降反発に転じましたが、NYダウが9割回復したのに対して、日経平均の戻りは5割に留まっています。日本株価が消費税増税の影響を深刻に警戒し始めていると判断できます。

連休明けから6月までが増税延期を判断できるタイムリミットになります。消費税増税凍結となれば、日本の株価下落要因は取り払われることになります。この可能性を念頭に置いて、今後の政策論議を注視する必要がありそうです。

(2019年4月12日 記/次回は4月27日配信予定)

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