IT化推進で生産性向上、「スマート農業関連株」に夏疾風 <株探トップ特集>

特集
2019年5月23日 19時30分

―ドローン、AI活用で生まれ変わる日本の農業、構造的な労働力減少を補う次の一手は―

自由民主党は7月に予定されている参議院選挙の公約で、農業分野のIT化推進などを掲げると伝わっている。地方では高齢化と人口の減少が進んでおり、特に農業分野の人手不足は深刻。地方経済の底上げを図る上でもIT化を進め、生産性を向上させることは必要不可欠で、ドローン 人工知能(AI)の活用を拡大し、デジタル技術を使った実証農場を設置することなどが盛り込まれるという。

農業にロボット技術やITを活用する新たな農業の形は「スマート農業 」「アグリテック(Agriculture×Technology)」などと呼ばれているが、参院選を機に改めて関心を集める可能性が高まりそうだ。

●減り続ける農業就業人口

農林水産省の調査によると2003年に368万人だった農業就業人口は18年には175万人になり、この15年間で200万人弱が減少した。しかも農業就業人口のうち、65歳以上が占める割合は約68%で、深刻な労働力不足にある。

一方、17年の新規就農者数は5万5700人となり、16年の6万200人から減少している。若者の農業離れに加えて、熟練農業者のノウハウが暗黙知化されていることが、新規就農者の育成を難しくしており、耕作放棄地の拡大のほか、農業技術の喪失も問題視されている。

●「みちびき」を活用した実証実験を開始

これらの問題を解消するために注目されているのが「スマート農業」だ。具体的な例としては、農機の自動走行による省力化、ドローンやセンサーでの圃場(ほじょう)・ハウス管理とビッグデータや画像解析技術の活用による戦略的な需要・リスク予測、生産情報のクラウド化による産地と消費者の直結などが挙げられる。

最近の具体的な例としては、NTT <9432> が4月、日本版GPSである準天頂衛星みちびきを使ったスマート農業の実証実験に乗り出すと発表した。ドローンやAI技術を活用し、追加肥料や農薬をまく時期・場所を自動で判断し散布作業を無人化する。同実験には日本農薬 <4997> や産業用ドローンの開発・製造を行うエンルート(埼玉県朝霞市)なども参画し、21年3月まで実施。その後に事業化を目指し、国内農家への提供のほか、準天頂衛星の位置情報を受信できる東南アジアなど海外に輸出することも視野に入れているという。

●国もスマート農業加速に注力

NTTの実証実験の一部は、農林水産省の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」における実証課題として19年3月に採択されたもので、国としてもスマート農業の加速に力を入れている。

内閣に設置された「農林水産業・地域の活力創造本部」は、「25年までに農業の担い手のほぼすべてがデータを活用した農業を実践」することを目標としている。その達成のためのプログラムを今年夏までに策定予定であることからも、スマート農業関連への注目は今後高まりそうだ。

●クラウドを利用したサービスを展開するクボタ

スマート農業関連としては、自動運転トラクタなどロボット農機を手掛ける企業や、急速に普及し始めた農薬散布用ドローンを手掛ける企業、農業の生産や流通、経営の効率化を支援するシステム開発・提供を行う企業などがある。

なかでもスマート農業関連の代表格ともいえるのが、クボタ <6326> だ。同社では、営農支援サービスの「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」を展開。クラウドを利用した作物・作業情報の蓄積・分析により農業経営の見える化を図り、圃場や肥培の管理などをサポートするほか、システムと連動する農機の稼働もサポートする。また、既に発売している自動運転の中型トラクタに続き、自動運転に対応した大型トラクタ、田植え機、自脱型コンバインを20年までに市場投入する計画だ。

●オプティムのドローンはピンポイントで農薬散布

クボタは8枚羽で10リットルのタンクを搭載した大型の農薬散布用ドローンも展開しているが、それとは逆に、小回りが利く小型ドローンの開発を行っているのがオプティム <3694> だ。同社の農薬散布用ドローンは、4枚羽で機動性に富んでおり、ピンポイントで農薬を散布することが可能。19年にはこれを用いて生産された「スマート米」が、第三者機関から残留農薬「不検出」との検査結果を得た。

また、AI・IoT・ロボットを有効活用できるプラットフォーム「OPTiM Cloud IoT OS」による農業ソリューションも提供。ドローンやスマートフォンで撮影した圃場や農作物の画像をAIで分析し、異常検知箇所を表示する圃場管理サービスなどを展開している。

このほか、ヤマハ発動機 <7272> の農薬散布用ドローンは、6枚羽を搭載して安定した飛行を実現。1ヘクタールの圃場を散布するために必要な農薬8リットルを搭載し、約10分で農薬を散布する。

●農業支援のシステムに注目

一方、農業を支援するシステムでは、NEC <6701> がネポン <7985> [東証2]と共同で「農業ICTクラウドサービス」(ネポンブランド名「アグリネット」)を展開。さまざまな端末やセンサーなどをネットワーク化し、収量・収穫時期予測の精度向上や適地・適作生産化の判断、遠隔からの状況把握を可能としている。また、富士通 <6702> は食・農クラウド「Akisai(秋彩)」で生産管理や施設園芸などの生産領域から経営・販売などの領域を支援している。

更に、セラク <6199> は農業支援サービス「みどりクラウド」を展開する。圃場環境や作業状況を計測・記録してデータ化し、農作業の効率化や生産性向上を支援。また、蓄積されたビッグデータを活用して需給予測やトレーサビリティの実現など、流通・販売支援も行っている。

このほか、作物別の栽培計画から作業・出荷・収益までをクラウドで管理するほか、使用農薬のチェックなども行う「農場物語」を手掛けるイーサポートリンク <2493> [JQ]や、農産物の流通プラットフォーム「農家の直売所」を国内外で展開するほか、農業コンサルティング事業を展開する農業総合研究所 <3541> [東証M]などにも注目したい。

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