為替週間見通し:ドルは底堅い値動きか、インフレ指標を注視へ
【先週の概況】
■ドル弱含み、年内複数回の米利下げの可能性高まる
先週のドル・円は弱含み。通商問題などを巡って米中の対立は続いており、世界経済のさらなる減速が予見されていることから、年内複数回の米利下げ観測が台頭し、ドル売りが優勢となった。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は6月4日、「景気拡大を持続するために適切な行動をとる」と述べ、利下げも辞さない姿勢を表明した。
6月5日に公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)で、「全米12地区ほとんどが前回から成長した」と指摘されたことや、「米国政府は対メキシコ関税の発動を先送りする可能性がある」と報じられたことから、ドルを買い戻す動きが一時優勢となった。
しかしながら、6月7日のニューヨーク外為市場でドル・円は、108円51銭から一時107円88銭まで反落した。この日発表された米5月雇用統計で非農業部門雇用者数は前月比+7.5万人にとどまり、平均時間給の伸び率は市場予想を下回ったことがドル売り材料となった。早期利下げ観測が一段と広がり、米長期金利は低下したが、米国株式は続伸したことから、リスク回避的なドル売りは一服し、ドル・円は108円19銭でこの週の取引を終えた。先週のドル・円の取引レンジは107円88銭から108円62銭となった。ドル・円の取引レンジ:108円28銭-109円93銭。
【今週の見通し】
■ドルは底堅い値動きか、インフレ指標を注視へ
今週のドル・円は底堅い値動きとなりそうだ。米国の5月生産者物価指数(PPI)、5月消費者物価指数、5月小売売上高などの主要経済指標が注目される。インフレ関連の指標が前回実績を下回った場合、年内複数回の米利下げ観測はさらに広がり、ドル売り・円買いを促す可能性がある。ただ、トランプ大統領は6月7日、不法移民対策を巡りメキシコと合意したことを明らかにし、メキシコ製品への制裁関税発動を無期限で停止すると表明したことから、リスク回避的なドル売りは縮小するとみられる。
米経済指標については、5月小売売上高は持ち直すことが予想されており、旺盛な個人消費が高水準の国内総生産(GDP)を維持するとの思惑から株高を通じてドル高に振れる可能性はある。
6月7日にメイ首相が党首を辞任し、後任選びが始まっている。現時点で強硬離脱を提唱しているジョンソン外相が最有力視されており、合意なき欧州連合(EU)からの離脱への警戒感は再び強まりそうだ。イタリアでは、財政規律をめぐる問題で同国の連立与党内で対立が激化している。欧州中央銀行(ECB)理事会のドラギ総裁はタカ派寄りの見解を示したものの、インフレ鈍化は顕著で先行きは読みにくい。英国、イタリアの政治不安を背景とする欧州通貨売りは、ドル選好地合いを強める可能性がある。米ドル買い・欧州通貨売りが再び優勢となった場合、米ドル・円の取引でも米ドル買いがやや強まる可能性がある。
【米・5月消費者物価指数(CPI)】(12日発表予定)
12日発表の5月消費者物価指数(CPI)は前年比+1.9%と前月の+2.0%を下回り、同コア指数は同+2.1%と上昇率は前月と同水準となる見通し。ただ、米利下げ観測が広がるなか、市場予想と一致してもドル売り材料となる可能性がある。
【米・5月小売売上高】(14日発表予定)
14日発表の5月小売売上高は前月比+0.6%と、4月の-0.2%から大幅に改善する見通し。予想外に強含んだ3月の反動で4月の小売売上高は落ち込んだが、市場予想と一致した場合は個人消費の持ち直しが示されることでドル買い材料になるとみられる。
予想レンジ:107円00銭-110円00銭
《FA》
提供:フィスコ