熱き冷戦、「冷凍食品」関連株に意外高の芽、消費増税にらみ評価一変 <株探トップ特集>

特集
2019年8月5日 19時30分

―秋に向けての冷凍食品の新たな商品ラインアップ出揃う、新たな上昇ステージへ―

いま、 冷凍食品に消費者の熱い視線が向いている。女性の社会進出や生涯未婚率の増加、時短などを求める社会的ニーズを背景として、冷凍食品市場は拡大を続けている。ただ、冷凍食品の好調については論を俟(ま)たないなか、いまやサプライズ感も希薄といえ、IT株偏重の株式市場においては、正直なところ注目度はいま一つだ。しかし、10月からの消費増税に加え、米中経済摩擦の余波を受け景気停滞懸念もあり、庶民の財布のひもが締まるなか、リーズナブルで、長期保存ができ、必要な時に必要な分だけ利用できる”三方よし”の冷凍食品に改めて関心が向かう可能性がある。好調続く冷凍食品関連株のいまを追った。

●思惑満載、実力抜群

冷凍食品各社の、秋・冬に向けての新商品・リニューアル商品のラインアップが大方出そろった。大幅なラインアップを拡充するメーカーに加え、居酒屋チェーンが苦戦するなか”家飲み需要”を喚起する新商品も目立つ。特に、8%から10%の消費増税により節約志向が高まり、外食を控え自宅での飲食の機会が増える可能性もあり、利便性の高い冷凍食品の需要が更に拡大するとの思惑も出ている。当然ながら、冷凍食品は消費増税に伴い導入される軽減税率制度の対象で税率は8%に据え置かれる。また、ここにきての急激な猛暑も、冷凍食品の売れ行きを後押ししそうだ。調理に火を使用しないことから、キッチンでの温度上昇もなく、快適に調理ができることで需要が高まるとの見方もある。

もちろん、冷凍食品の魅力はこうした思惑だけではない。社会的ニーズを背景に市場拡大が今後も続く見通しで、冷凍食品株はまさに思惑プラス実力抜群、再評価機運が高まってもおかしくはない状況にある。市場調査会社の富士経済が発表した「堅調な伸びが予想される国内加工食品市場を総括分析」でも「冷凍食品」を注目市場として取り上げている。市場規模については、2018年の見込みが1兆6425億円(17年比1.8%増)と堅調な伸びをみせており、23年には17年比7.3%増の1兆7298億円を予想している。

富士経済では「冷凍カツや冷凍からあげ、冷凍水産フライ、冷凍コロッケなど揚げ物の市場規模が大きい。揚げ物は調理の手間がかかり、調理技術が必要なメニューであることから特に業務用の需要が高い」とし、「家庭内における簡便調理ニーズの高まりを受けて、冷凍米飯類(バラタイプ・成型タイプ)や冷凍ギョーザ、冷凍お好み焼き、その他冷凍スナックなどの伸びが大きい」と分析している。

●マルチに攻めるニチレイ

冷凍食品市場を牽引するニチレイ <2871> は、7月8日に2019年秋季新商品・リニューアル商品の全59品を発表したが、これは昨年の43品に比べはるかに多く、攻勢を強める構えだ。同社では「多様化するニーズに対応するために新商品、リニューアルの品数を増やした」(ニチレイフーズ広報)。ターゲットとしての家飲み需要については「特段、それを狙ったものではない」としたうえで、「例年に比べ家飲みができるような設計の『ささみソースカツ』『香ばし焼き鳥』なども投入している。食卓のおかずにも、またつまみとしてもマルチに使えるというシーンを織り込んでいる」と話す。

同社は、7月30日の取引終了後に発表した第1四半期(4-6月)連結決算を発表。売上高が前年同期比1.1%増の1428億300万円、営業利益は同4.4%増68億6700万円(同4.4%増)、純利益44億7100万円(同3.0%減)と営業増益となった。主力の加工食品事業で、家庭用調理品がリニューアルした米飯類など主力商品の販売が好調に推移し業績を牽引したほか、低温物流も堅調に推移した。また関係会社の業績改善も寄与し営業利益は増益を確保したが、固定資産除却損を計上したことから最終利益は減益となった。きょうも2387円まで売られ年初来安値を更新するなど株価は冴えないが、冷凍食品秋の陣に向け準備万端、そろり反発機運も。

●味の素はトランプ砲もなんのその!

味の素 <2802> は、7月30日の午後2時ごろ発表した第1四半期(4-6月)連結決算で、事業利益が前年同期比28.0%増の278億500万円、純利益は同20.8%増164億7600万円の大幅増益となったことを受け、後場終盤に株価が急伸し市場の注目が集まった。海外加工用うま味調味料の販売単価上昇に加えて、米国における前年の値上げ効果や生産性改善で海外冷凍食品が大幅増益となったことなどが増益に寄与した。発表前に1700円台後半に位置していた株価は、翌日31日には一気に1985円まで買われた。前週末に続き、きょうと日経平均急落を呼んだ対中関税「第4弾」を発動表明という”トランプ砲”にも株価は底堅さをみせており、全体相場の復調から2000円台大替えでの活躍をにらむ。

同社は、7月2日、2019年秋季家庭用新製品/リニューアル品を発表。お酒に合う「ひとくち餃子」が新登場、また「やわらか若鶏から揚げ」を求めやすさはそのままに増量するなど、新製品2品種、リニューアル品15品種を8月11日から発売する。

●日水は押し目をにらむ

水産大手の日本水産 <1332> は冷凍食品業界の雄でもある。同社は7月18日に2019年 秋・冬新商品を発表。電子レンジで簡単にできる「今日のおかず」では新アイテムを発売、既存品もリニューアルする。「多様なライフスタイルへの対応」「健康訴求への対応」「減少する魚食への対応」をポイントとし、新たな切り口で強化を図る方針だ。同社はきょう午後1時ごろに第1四半期(4-6月)連結決算を発表し、前年同期比24%営業減益となったことを嫌気し後場に入り下げ幅を拡大した。株価は、下ヒゲで70円安の600円まで売られたものの、終値は47円安の623円まで戻している。

ある業界関係者は「冷凍食品は、人工知能(AI)などのIT分野以外では、日本において珍しい成長市場のひとつだ。ただ、競争が激しくなっており、ここからは正直大変」と心境を吐露する。それでも「追い風は強いだけに、ここからは知恵の出しあい」と話す。

●目が離せないイートアンド、チルドで伊藤ハム米久も

冷凍食品業界でここ頭角を現しているのが、餃子専門店「大阪王将」をはじめ多くの外食チェーンを展開するイートアンド <2882> だ。冷凍食品の製造も手掛け、いまや同社の2本柱のひとつとなっており、もはや大手を脅かす存在だ。先月には2019秋冬・家庭用新商品・リニューアルを発表し、「大阪王将羽根つきカレーぎょうざ」などで顧客の舌をうならせる。同社は、7月23日「関東新工場(群馬県)」の操業を12月から開始すると発表。同社では「大阪王将羽根つき餃子、大阪王将ぷるもち水餃子などの需要増加に対応し、生産能力を拡大する」(広報IRグループ)としており商機を果敢に捉える。株価は、商い薄が難点だが、成長続く冷凍食品株の一角を占め、ここからの展開からは目が離せない。

チルド食品では伊藤ハム米久ホールディングス <2296> に目を配っておきたい。きょうも全体地合いの悪化に押され大幅安で4日続落しているが、前週末2日の取引終了後に発表した第1四半期(4-6月)連結決算は、営業利益が前年同期比30.6%増の47億7200万円、純利益は同9.8%増の34億7100万円となった。テレビCMの投入やキャンペーンの実施でハム・ソーセージなどが売り上げを伸ばしたほか、サラダチキンなど調理加工食品も好調だった。物流費の上昇などが利益を圧迫したが、調達及び販売環境の回復や収益構造の見直しで海外食肉子会社の業績が改善したことが利益を押し上げている。

週明け5日の東京株式市場は、米国株市場が米中貿易協議の先行き不透明感を背景に続落したことを受け値を崩す展開。外国為替市場では一時1ドル=105円台まで急速に円高が進んだことで、輸出セクターへの収益面に与える影響が警戒されており、これも買い手控え要因となった。冷凍食品関連株のなかにも大きく値を崩しているものもあるが、近づく消費増税をキッカケに、そろり見直し機運も出てきそう。波乱の世界経済も、内需株で生活防衛関連の一角を占める冷凍食品関連株には目が向きやすい状況を招く可能性がある。冷凍食品秋の陣、猛暑の中でまさに”熱い冷戦”が始まろうとしている。

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