英首相に早くも退陣シナリオ【フィスコ・コラム】

市況
2019年8月11日 9時00分

ポンドの下落基調に歯止めがかかりません。反欧州連合(EU)のジョンソン政権の発足が背景で、10月31日の離脱期限を控え国内やEUとの調整は難航必至とみられます。ブレグジットに行き詰まれば政権の存続理由は失われ、退陣を余儀なくされるでしょう。

ポンド・円は今年3月の148円をピークに下落方向に振れています。5月にメイ前首相の辞任が確定的になると、145円付近から下げ足を速め1カ月で138円に下落。さらに保守党党首選でジョンソン氏が選出されると下落ペースは加速し、重要な節目130円を割り込んで8月は128円台に沈んでいます。春先から20円近くも下げたことになり、EU離脱を問う国民投票後に付けた最安値の124円が視野に入ってきました。

ジョンソン政権の発足で、「合意なき」ブレグジットが現実問題として意識され始めたのがポンド安の要因です。EU側は、メイ政権の協定案が基本だとしてイギリスとの再交渉に否定的なスタンスを変えていません。ジョンソン氏は党首選の期間中、EUとの再交渉に意欲をみせていましたが、EUが態度を硬化させているとして、アイルランドとの国境管理に関するバックストップを削除しなければEUとは交渉しない考えを示しています。

一方、スコットランドのスタージョン首相は初会談を行ったジョンソン首相について表向きはEUとの合意を目指しているとしながらも、実際には「合意なき」を追求しており「極めて危険」と指摘。イギリス経済にとって最悪シナリオが現実になるとの警戒感から、ポンドは全面安になる場面が目立ちます。ポンドには値ごろ感による押し目買いは入っても、中長期的に売りは避けられない見通しです。

10月末のブレグジットに向けては、1)円満離脱、2)強硬離脱、3)解散・総選挙などに伴う延期、の3つの選択肢が考えられます。足元では2)の現実味が増していますが、議会の親EU議員はそれを阻止する動きに出るでしょう。そうなれば3)の可能性が高まり、国民投票の結果を前提にEU離脱の路線の違いを最大の争点とした選挙戦が想定されます。離脱か残留か支持は今も拮抗しており、勝敗の行方はわかりません。

今年5月に行われた欧州議会選ではブレグジット党が躍進し、離脱は依然として強い民意のようです。半面、8月1日に行われたウェールズの補欠選挙で、EU残留を訴えた自由民主党候補が出直しの保守党候補に大勝しています。この選挙区でみられたように、離脱の支持票が保守党とブレグジット党に分散されれば、漁夫の利で野党勝利の可能性があります。その場合、ジョンソン首相は即退陣となります。

ジョンソン首相については、やんちゃで憎めない人柄とみられる一方、「孤独で小心者」という毎度おなじみのルサンチマン的な人物評もあります。いずれにしてもキャラクターで離脱を乗り切るのは困難です。それより、ジャーナリストの世界には行儀の悪さを「武勇伝」として競い合うカルチャーが残っていますが、記者上がりのジョンソン氏にとって「首相の地位を捨てポンドを救った」と歴史に語り継がれる方が名誉でしょう。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《SK》

提供:フィスコ

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