武者陵司「令和の大相場始動シリーズ(2) 「デフレ脱却の決定打、マンションブームと不動産の価格革命」<後編>

市況
2019年11月1日 10時30分

※武者陵司「令和の大相場始動シリーズ(2) 「デフレ脱却の決定打、マンションブームと不動産の価格革命」<前編>から続く

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(2) 日本のデフレに決定的だった長期資産価格下落の容認

マンション価格の値上がりは、今始まった株高とともに、経済的価値からみて不当に低く評価されていた資産価格の再評価を促す流れといえる。

●日本の特異な資産価格長期下落容認、大きな政策の誤り(=日銀のオウンゴール)

日本経済の失われた20年の最大の原因の一つは、長期にわたる資産価格(株式と不動産)の下落を容認、放置したことであろう。購買力の源泉は所得と信用であるが、広義の信用は銀行貸し出しと資産価格上昇に分けられる、と考えてみよう。1990年のバブル崩壊以降、日本では銀行貸し出しが約500兆円(1993~1997年)から約400兆円(2004年)へと2割も収縮する中で、資産価格が20年にわたって下落を続け、購買力が長期にわたって蝕まれ続けた。株式と不動産を足し合わせた日本の資産総額は、1989年末の3141兆円をピークに2011年には1503兆円まで20年にわたって下落を続け半減し、1638兆円の富が失われた。

資産価格が最大の信用創造である時代に、長期にわたる資産価格下落を容認し続けた金融当局の姿勢は、今になって振り返れば、驚くほどの打撃を経済に与えたのである。この資産価格下落は、単なるバブル崩壊(=経済的価値の裏付けを超えた価格の下落)に止まらず、経済的価値を超えて著しく下落し、負のバブルを形成した。この資産価格の「下落⇒賃料低下⇒更なる資産価格の下落」の悪循環が20年にわたって続き日本経済をゾンビ化させたと言ってよい。世界主要国の住宅価格推移をみると、過去20年において、世界中で住宅バブルが崩壊するも価格下落は2~5年で収束し、大半の国で住宅価格はバブル前の水準に戻っている。

●日本と好対照の米国、資産価格の大幅上昇が経済を復活させた

日本の20年にわたる住宅価格下落というのは、極めて特異である。米国がバブル崩壊(リーマンショック)以降の10年間で株価(3.5倍)をはじめとする資産価格上昇により、家計の純資産額(総資産-債務)が2009年第4四半期の49兆ドルから2019年第2四半期の113兆ドルへと2.3倍になり、64兆ドル(米国GDPの3倍)の富が形成されたことと比較すると、その違いは歴然である。この資産価格上昇により、家計が保有する資産は、株式で5兆ドルから18兆ドルへ、年金資産は10兆ドルから27兆ドルへと著増し、旺盛な消費を引き起こした。

●GOOD NEWS⇒日本だけにある資産価格アップサイドの修正余地

ただし、その特異な日本の資産価格下落は、2011年で底を打ち、以降上昇している。マイナスバブルの是正は株式とマンションにおいて今まさに始まろうとしている。だが、未だ株式やマンションは経済的価値からみた妥当水準には程遠く、資産価値上昇の余地は著しく大きいといえる。日本だけが持っているこの資産価値上昇の潜在力は、日本経済の埋蔵金ともいえるものである。

(3)日米物価趨勢の根本的相違は家賃、その上昇は日本のデフレ脱却の決定打に

マンション価格の上昇は日本の長期デフレを完全に払しょくする、起動力になるだろう。2013年から続いた黒田日銀の量的金融緩和の長い旅がいよいよ報われようとしているのではないだろうか。なぜなら、日本のデフレの最大要因は家賃の下落であり、その原因が長期資産価格の下落にあったと考えられるからである。

●日本のデフレの主因は家賃、米国インフレの主因も家賃

日米の品目別CPI推移をみると、衣料品、自動車等製造業品目や生産性上昇が顕著な通信などハイテク価格は日米とも共通でデフレである。日本デフレ、米国インフレと両者を分かつ決定的品目が住宅コスト(=家賃)である。他の多くのサービス価格も日米で差があるが、サービスコストは賃金、家賃、公共料金によって決められるのでやはり家賃が一番重要である。

日米の物価上昇率推移を比較すると、(日本の消費税増税時を除き)、帰属家賃が最も大きな格差の要因になっていることがわかる。つまり極論すれば、日本のデフレは家賃の下落に原因があり、米国のインフレは家賃の上昇にある、といえる。食料品・エネルギーを除くCPIに占める帰属家賃の割合は、米国で1/3、日本でも1/4と他の項目に比して際立って高いのである。

では、日米の家賃の違いは何なのか、このことを度々指摘している日銀は、(1)日本では住宅の経年劣化を考慮していないために、それを考慮している米国との差が出る。(2)相続税対策による貸家建築(住宅供給)増加⇒空室率上昇を招き家賃を引き下げている、という2点を原因として挙げている(2016年7月展望レポート)。

●日本の家賃低迷は資産価格の過度の下落によってもたらされた

だが、見落とされている最も重要な理由は、資産価格下落による負のフィードバックではないだろうか。日本の土地価格は20年間で半減したわけであるが、それは年率3.4%の下落ペースである。投下資本リターンを一定に保つためには、家賃も年率3.4%下落しなくてはならない。まして、日本の資本の要求リターンは低下し続けてきたのであるから、家賃はもっと下がってもいいことになる。つまり、不動産価格の過剰な下落が、大きな家賃引き下げのプレッシャーになり続けたということである。

●資産価格上昇からの正のフィードバックが始まった

この資産価格下落からの家賃への負のフィードバックが、今全く逆に働き始めている。経済的価値を持っている優良不動産物件の価格上昇が、家賃にプラスのフィードバックを与え始めている、と考えられる。

この資産価格上昇の物価へのプラスのフィードバックこそ、日本のデフレ脱却を完遂する決定打になるのではないだろうか。日本株式が長期上昇軌道に入っている、と考えられる有力な根拠である。

(2019年10月31日記  武者リサーチ「ストラテジーブレティン237号」を転載)

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