さよなら重労働、パワーアシストスーツ“普及元年”で変わるもの <株探トップ特集>

特集
2019年11月28日 19時30分

―2ケタ成長続く世界市場、少子高齢化と人手不足で需要拡大―

少子高齢化社会における労働人口減少の解決方法のひとつとして、重労働をサポートする「パワーアシストスーツ」への関心が一段と高まっている。モーターなどの動力源を搭載したアクティブ型や、外部動力を持たずゴムなどの弾性素材の張力を利用した安価なパッシブ型のモデルが続々と投入され、さまざまな価格帯で製品が揃ってきたことで、市場規模は一段と拡大する見通しだ。パワーアシストスーツの普及が進むと仕事や生活が大きく変わる可能性があり、今後の動向が注目される。

●東京五輪で技術力をアピール

パワーアシストスーツは、スーツのように身体に装着し、装着者または作業対象に対して作用することで、身体動作の支援や身体機能の改善・治療などを行うもの。高齢者や障がい者などの歩行訓練を補助する「自律支援型」の製品と、介護現場での移乗介助(ベッドから車イスなど、被介護者の移動を助ける作業)や、工場や倉庫での運搬作業など作業者の重労働を補助して身体的な負担を軽減する「作業支援型」の製品に大別される。

重い荷物を扱う物流や建設、業務負担が大きい介護や農作業など、厳しい労働環境での潜在的ニーズは高いとみられ、日本と同様に労働者の高齢化や人材不足が社会問題化している欧米や中国でもパワーアシストスーツ市場の成長が加速すると予想される。特許庁の資料によれば、世界の市場規模は2016年の約15万8600台から25年には55万台超に増加する見込みで、今後の年平均成長率は日本が約16.3%、米国が約17.5%、欧州が約17.0%、中国が約17.0%と試算されている。

20年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、パナソニック <6752> 製のパワーアシストスーツが重量のある飲食物や廃棄物の運搬業務、大会関係者の荷物をバスに積み入れる作業、パワーリフティングでのプレートの取り外しなどで活用される予定。日本企業の技術力をアピールする絶好の機会となり、他の関連企業にもビジネスチャンスが広がりそうだ。

●サイバダインは先駆け的存在

筑波大学発ベンチャーとして設立されたCYBERDYNE <7779> [東証M]はパワーアシストスーツを製品化した先駆けで、09年からロボットスーツ「HAL」福祉用の初期モデルの製造販売を開始。HALは人が身体を動かそうとする際に発生する微弱な生体電位信号を皮膚に貼ったセンサーで検出し、認識した動作にあわせてパワーユニットをコントロールする仕組みでアクティブ型を代表する製品といえる。現在では多くの製品を販売・レンタルしており、19年9月末時点での稼働状況は医療用が臨床試験用も含めて国内外で296台(うち国内レンタル81台)、単関節タイプが281台、福祉用などの下肢タイプは361台、腰タイプ自立支援用及び介護支援用は933台、腰タイプ作業支援用は572台に達している。

●PALTEKはイノフィス製を販売開始

菊池製作所 <3444> [JQ]は13年に、東京理科大学工学部の小林宏教授が開発を進めてきた装着型作業アシストスーツ「マッスルスーツ」の事業化を目的したイノフィス(東京都新宿区)を同教授とともに設立。同製品の特長はアクチュエータに空気を駆動源とする人工筋肉を使用していることで、14年に初期モデルを発売して以来、19年4月時点で累計4000台以上を販売している。今年11月には次世代モデル「マッスルスーツEvery(エブリィ)」をラインアップに加え、ビックカメラ <3048> などで販売を開始。また、PALTEK <7587> [東証2]でも取り扱っている。

●uprは新製品をアサヒビールに納入

ユーピーアール <7065> [東証2]は14年からパワーアシストスーツ事業を開始し、3年前には無動力のサポートジャケット「PRO(プロ)」と「FIT(フィット)」を発売。今年9月には製造業や農業、物流業での活用を想定したモーター付きアシストスーツ「サポートジャケットEp+ROBO(イーピープラスロボ)」を投入し、11月下旬にはアサヒグループホールディングス <2502> 傘下のアサヒビール吹田工場向けに10台納入した。

●ハーモニック、第一精工などにも注目

このほかでは、パナソニックの社内ベンチャー制度「パナソニック・スピンアップ・ファンド」によって03年に設立されたATOUN(奈良市)が腰の曲げ伸ばしを助けるパワードウェア「ATOUN MODEL Y」などを展開。クボタ <6326> はリチウムイオンバッテリー搭載の「WIN-1」、モリタホールディングス <6455> は前屈時の背中の伸びで発生する弾性生地の張力で腰を支えるサポートウェア「rakunie(ラクニエ)」、ジェイテクト <6473> は電動パワーステリングの技術を応用したハイパワーモデルの「J-PAS(ジェイパス)」と軽量・コンパクトモデルの「J-PAS LUMBUS(ジェイパス ランバス)」、今仙電機製作所 <7266> 関連会社の今仙技術研究所は歩行支援機「ACSIVE(アクシブ)」を販売している。

また、ロボットの関節に欠かせない精密減速機を取り扱うナブテスコ <6268> とハーモニック・ドライブ・システムズ <6324> [JQ]、球面軸受などロボット関連部品を展開するヒーハイスト精工 <6433> [JQ]、モノの回転力を検出するセンサーを手掛ける第一精工 <6640> なども関連銘柄として注目したい。

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