どん底ベネズエラに一筋の光、原油生産減少は一巡 <コモディティ特集>
経済危機のベネズエラがどん底から抜け出しつつあるようだ。ベネズエラは食料を含めた日用品のほか、医療品などあらゆる物が不足し、ハイパーインフレに陥った。一時期は大規模停電が頻発し、首都カラカスは闇に包まれた。米国による左派政権への経済制裁でベネズエラはお先真っ暗であり、飢えた国民は近隣の国々へ難民として脱出していったが、最悪期は通過したようだ。動物園で飼われている動物が食料として人々に狙われることはもうないかもしれない。
ベネズエラのインフレ率が1000万%を超えるという途方も無い予測があったにせよ、ベネズエラ国会が発表した2019年の物価上昇率は7374.4%だった。通常の経済状況の国と比較するとこの数字は依然としてまともではないし、鵜呑みにするのはためらわれるが、西側の国々から独裁者であると非難され、大統領として認められていないマドゥロ大統領は運良くハイパーインフレを乗り越え、政権の座を維持しようとしている。米国などがベネズエラの大統領と認めるのはフアン・グアイド国会議長であるが、トランプ米大統領が目指した政権転換は失敗に終わっている。
●意図せず現政権の存続に道を開いた米国
昨年、トランプ米政権はベネズエラ産 原油の輸入を禁止するなど経済制裁を一段と強化した。往年の産油国であるベネズエラの経済にとって米国への原油輸出は生命線で、制裁前に日量100万バレル程度あったベネズエラの原油生産量は昨年10月に日量68万7000バレルまで減少した。ただ、昨年末にかけて減産は一巡している。11月の生産量は日量71万7000バレル、12月は同71万4000バレルだった。
腐敗しているマドゥロ政権のもとでベネズエラが崩壊を回避できたのか今後見定めていく必要はあるが、米国の制裁があまりにも厳しかったが故にマドゥロ大統領が社会主義的な経済の舵取りを修正せざるを得なかったことが好転のきっかけとなったと指摘されている。ベネズエラ政府は為替レートや物価の統制を停止し、民間企業は外国からものを自由に買えるようになった結果、首都カラカスに限るようだが生活必需品の極端な不足は解消された。決済はベネズエラの通貨ボリバルではなく、米ドルである。マドゥロ政権の転覆を目指した米国が、意図せず現政権の存続に道を開いた。
米国の制裁をかいくぐり、ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)がインド石油大手のリライアンス・インダストリーズや中国国有の中国石油天然気集団公司(CNPC)、ロシア国営のロスネフチと取引を開始したことがベネズエラの石油産業を崩壊から救った。PDVSAが中心となってきた石油開発についても、外国資本に対する依存度を高める方向にあり、社会主義的な政策が転換期に入っている。表立った開放は行われていないにしても、ステルス的な石油市場の民営化が続くならば、ベネズエラ経済の心臓部を強く刺激する。
●景気悪化が止まれば石油市場で存在感も
マドゥロ政権が計画経済を放棄し、中国のように市場主義経済を部分的に取り込んでいくのか定かではない。やむにやまれず経済の自由化に踏み切ったことは一時的な対処であり、またガチガチの社会主義へと逆戻りする可能性も否定できない。ただ、米国の制裁によって海外で浪費できなくなった富裕層が首都カラカスでの消費を増やしていることもあって、マドゥロ政権が安堵する兆しは多い。爆発物を搭載したドローンによって暗殺されそうになったマドゥロ大統領があえて不安定な道へ逆戻りするとは思えない。
ベネズエラの原油生産や輸出が一段と回復し、景気悪化が止まるならば、石油市場における存在感を取り戻すきっかけとなるのではないか。ただ、マドゥロ大統領は今年もトランプ米政権の顔色を窺う必要がある。ベネズエラの石油産業を支援してきたロスネフチに米国は制裁を検討している。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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