石油需要に影落とす新型ウイルス、亀裂走るOPECプラス <コモディティ特集>
中国で新型コロナウイルスの感染拡大は一巡したようだが、中国以外で被害が広がっている。韓国や日本、イタリアやイランで感染者の増加が続いているほか、バーレーンやクウェート、イラクでも感染者が見つかっている。春節の大移動はパンデミックの下地となった。世界保健機関(WHO)はパンデミック宣言を時期尚早としつつも、備えるべきであるとの認識を示している。
○避けられない需要の減少、原油安加速も
新型肺炎による中国の石油需要減少をいったん織り込み、原油市場は先週にかけて戻していたものの、売りが再び強まった。中国が中心だった空路や陸路の封鎖が世界中に広がって、人や物の移動がさらに制限される可能性が高く、石油需要が一段と減少することは避けられそうにない。渡航や物流の制限が増えていくようだと、ブレント原油やウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)など指標原油は今月の安値を下抜けていくのではないか。石油の消費大国である中国より需要の多い米国で感染者が増えていくならば、原油安は加速するだろう。米国の石油需要は日量2000万バレル程度で、世界全体の約2割を占める。米国と中国の石油需要の合計は世界の3割超であり、両国が石油需要の中心であることは間違いない。
人や物の移動が一時的に制限されることによる石油需要の減少をいったん織り込んだ後、相場は経済活動の停滞に伴う需要の萎縮を推し量る段階に入った。新型肺炎は世界経済の見通しを悪化させており、石油の需要見通しは一段と悪化するリスクがある。中国の武漢で発生した新型コロナウイルスのテーマ性が拡大し、金融市場でリスク資産を圧迫する脅威として変異している。
○追加減産をロシアは支持せず
感染拡大による需要減のため石油輸出国機構(OPEC)プラスは追加減産を協議し、今月の共同技術委員会(JTC)は日量60万バレルの追加減産を勧告したが、ロシアは支持を表明していない。追加減産で意見調整が完了した場合、来月5~6日に予定されている総会を今月に前倒しするとの報道はあったが、この日程に変更はないようだ。米WSJによると、サウジアラビアとクウェート、アラブ首長国連邦(UAE)はロシア抜きの減産を協議した。
ロシアが追加減産を支持しない理由は明らかではないが、サウジアラビアとロシアが舵取り役となっているOPECプラスは発足からわずかの期間で協調関係を終わらせるのではないか。石油需要が減少しているにも関わらず、減産合意がまとまらないのであればOPECプラスという枠組みに積極的な意味はない。
サウジを盟主とした中東各国がロシアを差し置いて減産する方向にあるようだが、相場を押し上げることはなさそうだ。サウジとロシアの関係性に亀裂が生じていることは、原油市場にも亀裂を生む。世界最大級の産油国同士の協調は原油高という望ましい成果を得ることなく、終わりを迎えるのだろうか。新型コロナウイルスは石油需要や経済だけでなく、産油国の結びつきにも影を落としている。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口英司)
株探ニュース