植草一秀の「金融変動水先案内」 ―パンデミックの現実を踏まえる-
第30回 パンデミックの現実を踏まえる
●大規模調整に移行
1月23日執筆の会員制レポート(TRIレポート)で株価下落予測を提示し、想定通りの株価調整が生じましたが、今回の株価調整は中規模調整の範疇を超えて大規模調整に発展する可能性を示し始めています。昨年までの株式市場は米中貿易戦争と米国金融政策を軸に変動が生じました。日本の場合には、これに消費税増税の影響が加わりましたが、年が明けると金融市場の関心が完全に変質しました。
中国を震源地とする新型コロナウイルス感染問題が、金融変動のみならず世界経済全体を支配する最重要事象に浮上しています。日本の場合、コロナウイルス以前に、昨年9月に実施された消費税率10%を主因に景気後退への移行が生じていました。安倍内閣は2012年11月から景気拡大が続き、いざなぎ景気やいざなみ景気を超えて戦後最長の景気回復が続いているとしているのですからお話になりません。日本経済は2018年10月を境に新たな景気後退局面に移行していると判定することができます。
昨年10-12月期のGDP改定値が発表されて、実質GDP前期比年率成長率が-7.1%に下方修正されました。2014年の増税直後の-7.4%成長に匹敵するGDP急減になりましたが、実態としては今回の方がはるかに深刻です。昨年7-9月期成長率が年率+0.1%に下方修正されました。増税前の景気浮上がまったく観察されなかったのです。2014年の直前成長率は+4.0%でした。
●消費税大増税の深刻な影響
2018年の民間給与実態調査を見ると、1年を通じて勤務した給与所得者の22%が年収200万円以下、55%が400万円以下になっています。所得の少ない人ほど、収入に占める消費金額の比率は高くなります。収入金額を全額消費に充当すると、年収の10%が消費税で巻き上げられることになります。所得税の場合は子の年齢等にもよりますが、夫婦子二人の標準世帯・片働き世帯主の場合、年収354万円までが納税額ゼロになります。所得税と比較して消費税は、とりわけ所得の少ない階層に過酷な負担を強いるものになっています。
消費税増税に際して各種ポイント還元制度が設けられました。その結果、現金決済からキャッシュレス決済への大規模な消費シフトが発生したと見られます。しかし、この措置が個人消費を下支えしたとは考えられません。消費者は1円でも負担を軽減しようと支払い方法を変更したまでで、消費金額そのものは大幅に抑制したのです。発生したのは、キャッシュレス決済に対応できない零細小売業者の苦境だけでした。零細事業者は消費税増税を価格に転嫁することもできず、消費者が負担するとされている消費税を肩代わり負担させられ、廃業、倒産の危機に追い込まれています。
10-12月期の民間最終消費支出は年率10.6%も減少しました。同時に先行き警戒感が一気に強まったために民間企業設備投資も年率17.3%減少してしまいました。
●封じ込めの対象はPCR検査
ここに新型コロナの影響が加わることになります。安倍内閣は中国で感染が拡大しているのに無策の対応を示しました。ダイヤモンド・プリンセス号はすでに2月1日に沖縄で検疫と入国手続きを終えて2月3日に横浜に寄港しましたが、香港で下船した乗客がコロナウイルスに感染していたことが判明して、完了していた検疫を取り消して、再度の検疫を行いました。
ところが、3711人の乗員・乗客のなかの273人にしかPCR検査を実施せず、全員を船内に長期監禁するとの最悪の対応が取られ、爆発的な感染拡大という悲劇を引き起こしてしまいました。無策だった安倍内閣は2月末から突然変異したかのように全国一斉の休校およびイベント自粛要請を発令し、日本国内が混迷と混乱の渦に巻き込まれました。その一方で、マラソン競技だけは開催が容認されて7万人もの濃厚接触が創出されたのです。
韓国やイタリアではPCR検査を一気に拡大して感染者の確定を急いでいます。感染を早期に発見しないと軽症者による感染拡大と高齢者の重篤化を防ぐことができません。しかし、安倍内閣は感染ではなくPCR検査を封じ込めるという対応を貫いています。この結果、足元では感染確認者数が少なくとどまっていますが、今後爆発的な感染拡大が発生してしまうリスクが高まっていると思われます。
●『最強の資産倍増術』公刊
2月の大手百貨店の売上は15~20%も減少し、街角景気指数の景気現状判断DIは14.5ポイントダウンの27.4に急落しました。2018年の訪日外国人は3119万人でしたが、そのうち51%が中国、韓国から、22%が台湾、香港からでした。この4カ国・地域はむろんのこと、これ以外の国、地域からの訪日客もほぼ消滅しており、日本の地域経済が崩壊寸前の状況に追い込まれています。
2月の中国製造業PMI(財新)は1月の51.1から40.3に急落しました。中国の経済活動マヒに伴うサプライチェーンの崩壊は日本を含む多国の製造業に甚大な影響を与えています。
2月25日に米CDC呼吸器疾患センター所長が予言した通り、米国での市中感染が急激に拡大しました。これに伴い米国長期金利が急低下しました。米国長期金利低下はドル下落の主因になると同時に金価格上昇の要因になります。日本は消費税・コロナ・円高の三重苦に直面しますが、迅速で効果的な対応策がまったく示されていません。消費税を廃止するといった大胆な政策決断が求められますが、安倍内閣の政策運営は財務省に支配されており、大胆な政策対応を期待することが困難です。
効果的なワクチンが突如誕生するなどのサプライズが生じないと、世界経済と金融市場はコロナの深い霧に包まれてしまう危険があります。
毎年一般公刊している年次版のTRIレポート『低金利時代、低迷経済を打破する最強の資産倍増術』(コスミック出版)を3月10日に上梓しました。暴落の霧が晴れると宝の山が現れます。次の大きなチャンスに向けて考察を巡らせるべき局面が到来しています。
(2020年3月13日 記/次回は3月28日配信予定)
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