明日の株式相場戦略=静かに上昇相場の黎明を待つ

市況
2020年3月23日 17時27分

週明け23日の東京株式市場は日経平均株価が3連休前の終値と比べ334円高と切り返しに転じた。世界的にリスクオフ相場の様相が強まるなか、寄り前は1万6000円台割れ必至のムードが漂っていたものの、取引開始の幕が上がるやいなや株価のベクトルはいきなり上向きに変わった。一時は1万7000円台を回復し、売り方の立場にすれば慌てる場面だったかもしれない。

満を持しての反騰と言いたいところだが、違和感を覚える上昇であったことも否めない。TOPIXはNT倍率で換算すれば日経平均にして110円あまりの上昇に過ぎない。ソフトバンクグループ<9984>がストップ高で買い物を残す人気となり、日経平均を大きく押し上げる形となった。

ソフトバンクGについてはこのタイミングで4兆5000億円の資産売却を行い、うち2兆円を自社株買いに充てると発表したことは「株券調達で空売りを浴びせた筋が期末接近で返却を迫られるなかにあって、戦略家の孫正義会長ならではの勝負手が功を奏した」(国内証券ストラテジスト)と評価する声が少なくない。ここまで外資系の売りに真っ向から買いで対処した個人投資家にとってはビッグプレゼントとなった。とはいえ、手放しで喜べるものでもない。伝家の宝刀を抜けば自社株買いや負債削減の原資などいくらでも作れる、というのは孫会長からの強いメッセージであるとともにソフトバンクGの懐の深さを見せつけるものではあったが、資産売却というアクション自体が自らの懐を狭めることにもなる。虎の子といえるアリババもしくは子会社のソフトバンク<9434>の株式売却を想起させるものであり、この伝家の宝刀はよく見れば諸刃の剣といえる。

きょうの東京市場は、コーナーポストに追い詰められたところで出した右ストレートがヒットした格好だが、これで体勢が有利に変わったという感触はない。同じ時間軸でアジア株市場の下げが際立っており、新型コロナウイルス の影響によってどれだけの経済ダメージがあるかが読めない段階では、日経平均のトレンド転換を期待するのは時期尚早といえそうだ。今週は1回当たりの買い入れ額を2000億円まで高めた日銀のETF買いやGPIFとみられる政策マネーの買い支えに加え、3月期末権利取りを狙った安値拾いの動きが反映されやすい。その意味では新型コロナウイルスによる感染症が懸念されるなか、権利落ち後の来週以降の相場が正念場となる。

やはり、カギを握るのは米国株市場の動向だ。米株安に伴いファンドのリスク許容度が縮小する一方では外国人投資家の日本株売りも止まらない理屈となる。米国の失業率が30%まで拡大し、4~6月期はGDPが前期比年率で半減するとの米セントルイス連銀総裁の見解はその現実性はともかく衝撃的だ。トランプ米政権が個人の現金給付や中小企業支援などを柱とする総額2兆ドル規模の経済対策を俎上に載せたとしても、新型コロナウイルスの感染が止まらない段階では風呂桶の栓を抜いたまま湯を流し込むような構図となる。

何はともあれ、新型コロナウイルスの猛威を止めること、これが今の世界にとって第一義であることに変わりはない。逆の言い方をすれば、コロナ収束の道筋が見えてくれば、今の世界的な金融緩和や財政出動の動きが、世界の株式市場を急勾配の戻り相場にいざなうこともまた確かであろう。悲観一色に染まる空に光明が差し込めばあっという間に黎明が訪れる。今はその瞬間を辛抱強く待つよりない。

日程面では、あすは2月の全国百貨店売上高、全国スーパー売上高、食品スーパー売上高などが開示される見通し。また、1月の景気動向指数確報値も発表される。IPOが1件あり、東証2部にリバーホールディングス<5690>が新規上場する。海外では2月の米新築住宅販売件数、3月の米製造業購買担当者指数(PMI)速報値が注目される。3月の独PMI、仏PMI、英PMI、ユーロ圏PMI速報値なども発表される。

(中村潤一)

出所:MINKABU PRESS

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