S&P500 月例レポート ― 脅威増す新型コロナ、生き残りを賭けた1カ月間 (3) ―

市況
2020年4月11日 13時31分

●企業業績

○市場の関心が新型コロナウイルスに移る中で、企業の業績が落ち込み始め、2020年第1四半期の予想に話題が集まりました。2019年第4四半期の決算発表を振り返ると、69.2%の企業で利益が予想を上回り、売上高が予想を上回ったのは62.5%、S&P 500指数構成企業全体の四半期売上高は過去最高を更新しました。

○SECは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、企業が有価証券報告書の提出期限を45日間延長申請できると発表しました。

○2020年第1四半期の営業利益予想は2019年末時点から9.2%、第2四半期は14.3%、第3四半期は9.4%、第4四半期は5.6%、それぞれ引き下げられました。

○ボトムアップベースで算出した予想EPSの引き下げが始まっており、2020年第1四半期は2019年末時点から9.5%下方修正され、2020年第2四半期は14.9%、第3四半期は10.0%、第4四半期は6.0%下方修正されており(2020年通年で10.0%の下方修正)、更に大幅な悪化が予想されています。

⇒現在までに、決算時期がずれている17銘柄が2020年第1四半期の決算発表を行っており、15銘柄で利益が予想を上回り、12銘柄で売上高が予想を上回りました。70%の銘柄が4月に決算発表を行う予定でしたが、SECがウイルスの影響を受けた企業を対象に情報開示の最長45日の延期を認めたため、4月に発表する企業数は少なくなる可能性があります。

○伝統的に、ボトムアップアプローチのアナリスト(銘柄レベルで分析を行う必要がある)は予想の下方修正のタイミングが遅くなります。これに対して、トップダウンアプローチのアナリスト(エコノミストやストラテジスト)は修正のタイミングが早く、既に予想を大幅に下方修正しています。また、伝統的に、ボトムアップアプローチのアナリストは回復の動きを早く捉え、それに比べてトップダウンアプローチのアナリストは底を見極めるのが遅くなります。

○現在は、2020年について四半期ベースで予想を立て、2021年については通年予想を立てているところです。

○株式数による影響は、比較対象の2019年第1四半期に比べると自社株買いはほとんど完了していたため、低水準ではありますが、2020年第1四半期も続く見込みです。

●個別銘柄

○米連邦航空局(FAA)は、Boeing 737MAXの認証飛行試験を数週間以内に実施する計画を明らかにしましたが、航空各社の欠航(および予約)状況から、運航再開を求める声はほとんどありません。

○米国務省は、クルーズ船での旅行を避けるよう国民に呼びかけました。多くのクルーズ船が運航を停止しています。

○航空機メーカーのBoeing(BA)は手元資金を確保するため、新規雇用の凍結などの対策を講じることを明らかにしました。同社は2月に138億ドルの銀行融資枠を設定しています。また、現時点で従業員の解雇や配当方針の見直しはしない意向を表明しました。

○ソフトバンク(9984)はアクティビスト投資家からの圧力に一部対応し、7%相当の自社株買い(48億ドル)を実施することを明らかにしました。

○オンライン小売り大手のAmazon(AMZN)は、注文件数の増加に対応するために10万人を新たに採用し、従業員の時給を2ドル引き上げると発表しました。

○スポーツシューズ・アパレルメーカーのNike(NKE)は、大手企業の中で最初に2020年第1四半期に当たる決算(12-2月期決算)を発表しました。売上高は予想を上回りましたが、新型コロナウイルスの影響により利益は予想を下回りました。4月はS&P 500指数構成企業の約70%が第1四半期決算を発表する予定ですが(4月2週目以降)、いずれの企業も新型コロナウイルスについて言及し、多くの企業が具体的な予想値の発表を控えると予想されます。

○S&P 500指数およびダウ平均の構成銘柄であるUnited Technologies(UTX)は、Otis Worldwide(OTIS)とCarrier Global(CARR)をスピンオフし、UTXの株主は保有株1株につきOTIS株0.5株とCARR株1.0株を受け取りました。UTXはRaytheon(RTN)を買収し、社名をRaytheon Technologies (RTX)に変更してS&P 500指数構成銘柄に残る予定です。

○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、制御・圧縮装置を製造・販売するGardner Denver Holdings(GDI)をS&P 500指数に追加しました。同社はIngersoll-Randの一部門と統合して社名をIngersoll-Rand plc(IR)に変更し、元のIngersoll-Randは社名をTrane Technologies(TT)に変更しています。また、原油・天然ガスの探鉱・生産会社Cimarex Energy(XEC)はS&P 500指数から除外されました。

○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、エレベーターを製造するOtis Worldwide(OTIS)と空調設備を手掛けるCarrier Global(CARR)を、2020年4月3日の取引開始前にS&P 500指数に追加し、Raytheon(RTN)および百貨店大手Macy's(M)を、2020年4月6日の取引開始前に同指数から除外すると発表しました。

●注目点

○石油輸出国機構(OPEC)とロシアによる減産合意がまとまらず、原油価格は引き続き下落しました。一時は1バレル=20ドルを割り込み、20.47ドルで3月を終えました。

○ニューヨーク証券取引所(親会社はIntercontinental Exchange、ICE)はウォール・ストリートとブロード・ストリートにあるトレーディングフロアを閉鎖し(3月20日が最終日でしたがパーティーはなく、再開の時にはきっとパーティーが開かれるはずです)、現在は全ての取引が電子取引を通じて行われています(既に全取引の約80%が電子取引でした)。

○大手銀行8行は共同で、2020年第2四半期末まで自社株買いを停止し、そのための資金を貸出や流動性の供給(および顧客)に使用することを表明しました。その後、他の企業も相次いで自社株買いの停止を発表し、現時点で2019年の自社株買い総額の25%相当が停止されました。金融セクターの停止規模は2019年実績の72%に相当します。2020年第2四半期以降も自社株買いの見通しは暗く、年内はほとんど実施されないかもしれません。

○通信サービス大手のVerizon(VZ)が発表する週のネット利用時間は大幅に変動し、ゲームが前週比75%増、ストリーミング配信が同12%増、VPNは同30%増となりました。

●利回り、金利、コモディティ

○米国10年債利回りは2月の1.15%から0.66%(月中の最低は0.38%)に低下して月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは2月末の1.68%から1.32%(月中の最低は0.69%)に低下して月末を迎えました(同2.30%、同3.02%、同3.05%)。1ヵ月物および3ヵ月物国債の利回りが、一時マイナスで取引されたことが注目されます。

○英ポンドは2月末の1ポンド=1.2816ドルから1.2376ドルに下落し(2019年末は1.3253ドル、2018年末は1.2754ドル、2017年末は1.3498ドル)、ユーロは2月末の1ユーロ=1.0809ドルから1.1018ドルに上昇しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は2月末の1ドル=108.09円から107.74円に上昇し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は2月末の1ドル=6.9919元から7.0831元に下落して月を終えました(同6.9633、同6.8785、同6.5030)。

○原油価格は2月末の1バレル=45.26ドルから下落して一時20ドルを割り込み、20.47ドルで月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は2月末の1ガロン=2.555ドルから2.103ドルに下落して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

○金価格は月中に7年ぶりの高値を付けて、2月末の1トロイオンス=1594.80ドルから1635.00ドルに上昇して月を終えました(同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

○VIX恐怖指数は2月末の40.11から53.54に上昇して月末を迎えました。月中の最高は85.47、最低は24.93でした(同13.78、同16.12、同110.05)。

「脅威増す新型コロナ、生き残りを賭けた1カ月間 (4)」へ続く

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