和島英樹の「明日の好悪材料Next」~第3回
連想買いや先行きのエネルギー事情へのヒントが見える
株式ジャーナリスト
日本勧業角丸証券(現みずほ証券)入社。株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年にラジオNIKKEIに入社。東証・記者クラブキャップ、解説委員などを歴任。現在、レギュラー出演している番組に、ラジオNIKKEI「マーケットプレス」、日経CNBC「デイリーフォーカス」毎週水曜日がある。日本テクニカルアナリスト協会評議委員。国際認定テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe)。
【今回チェックした「明日の好悪材料」記事一覧】
6月5~11日分では、月次売上高、業績開示、次世代電池の材料発表と細かい材料が多いが、よく見ると業界他社への連想や、先行きのエネルギー事情など投資のヒントになるものも多い。
小売りでは「節約消費」だったり、ネット通販。警備では来年の五輪への期待感など。次世代蓄電池はスマートシティにまで夢を馳せることもできそうだ。
6月5日分 セリア<2782>
■好悪材料~5月既存店売上高は前年同月比8.3%増とプラスに転じた
セリアは100円ショップで売上高2位の大手。2004年に業界初となるPOS(販売時点管理)システムを導入。06年にはそれを活用した発注支援システムを構築し、売れ筋商品を軸とした最適な品揃えとオペレーションの簡素化を実現することで成長してきた。店舗のコンセプトは「Color The Days」(日常を彩る)で、雑多なイメージのある100円ショップ業界にあって、彩り豊かな余裕のある陳列に特色がある。
既存店の月次は2021年3月期の期初である今年4月の前年同月比2.7%減からプラスに転じている。ただ、今年4月は政府の緊急事態宣言を受けて、全店舗の約14%に相当する226店舗を休業したことが主因だ。21年3月期は売上高1880億円(前期比3.6%増)、営業利益165億円(同6.7%減)、1株利益148.9円を計画している。
減益はコロナウイルスの影響や消費マインドの悪化を勘案したとしている。しかし、雇用関係の悪化や賃金鈍化などで消費者の低価格志向が強まっている中で、100円ショップへの需要が高いことが想定される。なお、20年3月期の営業利益は176億400万円(前期比4.8%増)と過去最高を更新、会社計画の169億円を上回って着地している。通期予想は慎重に出す傾向があるとみられる。
■『株探』プレミアムで確認できるセリア<2782>の業績修正履歴
※「修正方向」について、矢印は売上高、営業益、経常益、最終益、修正配当の順に修正した方向を示します。 「↑」:上方修正、「↓」:下方修正、「→」:変更なし、「-」:比較できず
※修正配当は、株式分割・併合などを考慮した今期配当に対する相対的な実質配当です。
※売上高、利益項目、配当の欄における「-」は、非開示もしくは未定を示します。また配当欄において、「*」は株式分割・併合などを実施した期を示し、「#」は今期に株式分割・併合などの実施予定があることを示します。
また、ライバルのワッツ<2735>が同日に月次を公表したが、5月の既存店売上高は前年同月比16.0%増と7か月連続のプラス。キャンドゥ<2698> も含め上場100円ショップに注目度が高まりそう。
なお100円ショップの業界最大手は「ダイソー」を展開する大創産業だが、2017年に大手経済誌で創業者の矢野博丈氏が株式の上場準備を進めていることを明らかにしている。今年のIPO(新規株式公開)案件となるかは不明だが、実現すれば大型上場となるだけに、業界自体に関心が向かうことになろう。
6月8日分 共栄セキュリティサービス<7058>
■好悪材料~非開示だった今期経常は微増で5期連続最高益更新へ
首都圏を中心にオフィスや商業施設などの施設巡回警備が柱とする。5月14日に2020年3月期決算を発表した際にはコロナ影響を合理的に見積もるのが困難であると今期予想を非開示にしていたが、6月8日に通期の売上高64億7700万円(前期比1.0%増)、営業利益4億4900万円(同0.9%増)、1株利益216円になる見通しと公表した。
新型コロナウイルスの影響で一時的に落ち込むも、通期での影響は軽微と判断したという。市場が警戒していたのは、東京オリンピック・パラリンピック延期の影響があるのか、スポーツなどの警備減少はないのか――など。ちなみに最大手のセコム<9735>は21年3月期の営業利益は前期比13.2%減の1240億円、大手の綜合警備保障<2331>は同2.2%増の376億円予想となっている。今期の五輪関連の仕事は来期に持ち越しとなり、22年3月期業績への期待感が高まる展開だ。
なお、共栄セキュリティサービスは5月中旬にセコムとの資本・業務提携を発表している。従来からセコムの業務の一部を受託するなどの協力関係があったといい、関係が一層強固になる可能性がある。セコムが3%相当の株式を保有する。今期業績予想に提携によるものは見込んでいないとしている。
■共栄セキュリティとセコムの資本・業務提携の発表文
6月9日分 古河電池<6937>
■好悪材料~再生エネ活用の本命「バイポーラ型蓄電池」を古河電気工業<5801>と共同開発。バイポーラ型蓄電池はリチウムイオン電池比でトータルコストを半分以下に抑えることができる次世代電池。21年度中にサンプル出荷、22年度より製品出荷開始を予定
バイポーラ型蓄電池は、1枚の電極基板の表と裏にそれぞれ正極と負極を有するシンプルな構造が特徴。従来の蓄電池と比較して材料削減が可能であり、また、体積当たりの容量の向上により重量エネルギー密度は2倍になる。
さらに電極基板の積層化により、設計自由度の高い電池構成が可能になりコスト削減も可能という。電力貯蔵用リチウムイオン電池との比較で、消費電力量当たりの単価は50%以下となる。稼働時に空調の必要がなく、エアコンによる温度管理コストの削減もできる。
これまでもバイポーラ型蓄電池の将来性は期待されていたものの、
「鉛箔の薄膜化と長寿命の両立」
「鉛箔と樹脂プレートという異なった材料の接合」
――などの課題があり実用化に至らなかったとされる。古河電工のメタルやポリマー技術、古河電池の電池加工技術などで課題を解決したとみられている。古河電池がてがける「ウルトラバッテリー」と組み合わせ、充放電の大電流化などを図り、実用化を急ぐとみられる。
■『株探』プレミアムで確認できる古河電池<6937>の長期業績の成長性推移
家庭用太陽光発電の蓄電池など、幅広い分野での採用が見込まれる。スマートシティが実現すれば、日本ガイシ<5333>のセラミック技術を活かした「NAS(ナトリウム硫黄)電池」、住友電気工業<5802>のイオンの酸化還元反応を利用した「レドックスフロー電池」などとの競合としても注目される可能性がある。
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