武者陵司 「コロナパンデミック、最悪期は過ぎたのでは、ならば株高は当然」

市況
2020年8月14日 9時30分

●コロナパンデミック Worst is over

WHO(世界保健機関)統計による新型コロナウイルスの世界全体の累計感染者は8月7日時点で2000万人を超えた。しかし、最悪期は過ぎたのではないか。少なくともロックダウンなど過激な防止策で経済活動が悪化する懸念は小さくなったのではないか。以下4点が指摘できる。(1)世界全体感染者数のピークアウト(欧州、東アジアで急減、7月以降も増加が続いていた米国、ブラジル、インド、南アフリカなども減少に転ず)。(2)死者数は大きく抑制され医療崩壊の懸念はコントロールされている。(3)スウェーデン、日本などコロナ制御に成功している事例が見られる。(4)ワクチンが実用段階に入ってくる(最先行のオックスフォード大学とアストラゼネカのワクチンは9月にも実用化へ)。

●株価はPost Pandemicの織り込みへ

コロナパンデミックで3~4割の暴落となった世界株式はほぼ下落の9割を取り戻し、米、中、韓国、台湾などは年初比プラスに浮上している。株高をバブルとする指摘も根強いが、ここまで来ると株高はコロナ後を織り込み始めたと考える方が妥当ではないだろうか。

●暗黙の日本式集団免疫戦略

ただ、日本では世界に逆行し感染者数は8月に入りピークを更新している。政府は緊急事態宣言を出しておらず、Go Toキャンペーンを実施したりしているとの批判が絶えないが、おそらく大丈夫だろう。公表される感染者とはPCR検査陽性者であるが、それは本当の感染者ではない。検査数が増えたので陽性者が増えただけのことという評価も的外れとは言いきれない。

コロナを制圧するためには最終的には集団免疫の獲得しかなく、ワクチンが開発されなければ、Withコロナの時代が長く続く。この間、医療崩壊に至らないレベルで感染をコントロールしつつ、経済活動を維持するという両睨みを取らざるを得ない。

「日本政府は公式には集団免疫戦略を採用していないが、2月24日に専門家会議の出した方針では、こう書いている。『このウイルスの特徴上、一人一人の感染を完全に防止することは不可能です。ただし、感染の拡大のスピードを抑制することは可能だと考えられます。[…] これからとるべき対策の最大の目標は、感染の拡大のスピードを抑制し、可能な限り重症者の発生と死亡数を減らすことです。』」「『医療対応の限界』を上げるために医療対応の体制を強化すると同時に、流行のピークを下げるピークシフト戦略で、実質的にはゆるやかに感染を拡大する集団免疫戦略だった。」( 池田 信夫 氏 JBpress 8月7日付)

この集団免疫戦略は奏功しているといえる。増加する感染者数(陽性者数)に対して、死者数は大きく抑制されている。医療現場では新型コロナの病症特性がわかるにつれ医療対応が大きく改善している、と言われている。

●スウェーデンで成果上げている(?)集団免疫戦略

はっきりと集団免疫戦略をとった国はスウェーデンであったが(イギリスは当初の集団免疫戦略から転換した)、事態は改善しているように見える。ロックダウンしなかったことにより、経済に対するダメージが小さい。4-6月GDPは前期比-8.6%と、ユーロ圏の-12.1%よりはるかに良い。また、新規感染者数はピーク1803人(6月24日)から139人(8月10日)へ、死者数はピーク115人(4月15日)から0人(8月10日)と著減している。

断定は尚早だが、適切なソーシャルディスタンスの方がロックダウンより有効、と言えるかもしれない。爆発的感染当初のパニック期を乗り切れば、事態は思った以上に好転していくといえるのかもしれない。WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)紙はこのスウェーデンのビジネスモデルを評価するべきだ、と8月6日の社説で主張している。

●高齢者に集中する重篤者

また、新型コロナウイルスはスペイン風邪やインフルエンザと異なり、圧倒的に高齢者の重篤化率が高い。新型コロナ死亡者の平均年齢は日本80.8歳、ドイツ81.2歳、英国80.5歳、フランス80.8歳、米国76.7歳と、平均寿命とあまり変わらない。つまり、高齢者ケアさえ十分に行われていれば、50~60歳以下の若年層の経済活動を過度に遮断する必要はないといえる。

●新型コロナは低毒性ウイルス、大半は自然な免疫で抑制という高橋教授仮説

国際医療福祉大学の高橋泰教授の仮説が発表され注目を集めている。教授は、新型コロナウイルスはインフルエンザに比べて毒性が低く、かかっても多くの場合は無症状か風邪の症状程度で終わるおとなしいウイルスである。だから獲得免疫(※1)がなかなか発動しないが、ほとんどの場合すでに体内に存在している自然免疫(※2)でウイルスが抑え込まれる、と説明している。日本人(アジア人)はBCGなどによりすでに備わっている自然免疫力が強く、発症率や重症化率が抑えられている、というものである。しかし、1万~2.5万人に1人程度という非常に低い確率で、サイトカイン・ストーム(免疫細胞が正常細胞を攻撃する)により重篤化する。高齢者や基礎疾患者はこの攻撃でダメージを受けるというのである。教授は自然免疫力の強い日本人は、最大で死者は3800人と計算している。

新型コロナをむやみに恐れなければならない時期は終わったということではないか。

(※1)獲得免疫:病原体を他のものと区別して見分け、それを記憶することで、同じ病原体に出会ったときに効果的に排除する仕組み。1種類の外敵にしか対応しないが殺傷能力の高い抗体というミサイルで敵を殲滅する軍隊に相当する。

(※2)自然免疫: 侵入してきた病原体を感知し排除しようとする生体の仕組み。外敵への攻撃能力はあまり高くないが、常時体内を巡回している警察官に相当する。

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(2020年8月13日記  武者リサーチ「ストラテジーブレティン258号」を転載)

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