植草一秀の「金融変動水先案内」 ―株価反発はいつまで続くか-
第41回 株価反発はいつまで続くか
●未曽有の大不況下の株価反発
1月の中国・武漢市の封鎖から7ヵ月の時間が経過しました。3月にかけて世界の株価が急落し、新たな金融危機の発生が警戒されましたが、3月下旬以降、主要国の株価は驚くべき反発を遂げました。コロナの影響で世界は経済大崩落の様相を示しているのですが、この実態と株価急反発の整合性が取れていないのではとの声も多く聞かれます。
2020年4-6月期の実質GDP成長率は惨憺たるものになりました。実質GDP前期比年率成長率は米-32.9%、英-59.8%、独-34.7%、仏-44.8%と統計開始以来最大の落ち込みを示しました。8月17日に発表された日本の実質GDPも-27.8%となり、戦後最悪の数値になりました。このなかで中国だけが4-6月期に前年比3.2%のプラス成長を確保しました。
日本の実質GDP実額は485兆円(季調済年率換算)になり、第2次安倍内閣発足時の498兆円を下回りました。日本の実質GDPが8年前の水準よりも小さくなってしまったのです。このままコロナ禍が拡大し続ければ世界大恐慌に突入することも想定される状況でした。
ところが、内外株価は3月下旬を境に急反発。国によってばらつきがありますが、NYダウは株価下落の88%、日経平均株価は下落の90%の反発を演じて現在に至っています。株価反発の契機になったのは米国の超大型経済対策の決定でした。2兆ドル(230兆円)規模の財政支出追加が決定され、これを契機に猛烈な株価反発が生じたのです。
●追加経済対策をめぐる駆け引き
11月3日に投票日を迎える大統領選で再選を果たすことこそトランプ大統領の至上命題です。コロナ問題発生と株価大暴落はトランプの再選戦略を直撃するものでした。トランプ大統領に与えるダメージを踏まえれば、コロナ問題はトランプ氏を標的に画策されたものとの憶測さえ否定し切れない感があります。
トランプ大統領は当初、コロナを軽視していましたが、問題が米国で拡大するや否や、空前絶後の巨大政策を一気呵成に成立させました。極めて迅速果敢な政策対応力があることを見せつけた場面です。トランプ大統領の言動には白人至上主義的な色彩がつきまとい、不支持率が支持率を上回り続けているのですが、劣勢と言われた2016年大統領選で地滑り的勝利を勝ち取った力量を侮ることはできないように思われます。
Real Clear Politicsサイトが公開するトランプとバイデンの好感-嫌悪指数では、両者がそろって嫌悪超になっていることに驚かされます。現時点の大統領選情勢ではバイデン候補が優勢を維持しているのですが、バイデン候補が米国民の強い支持を受けているとも言い切れません。トランプを嫌悪するほどにはバイデンを嫌悪しないからバイデンに投票するというスタンスの有権者が多く存在することが窺われます。
トランプ大統領は再選を果たすために、11月3日に向けて株価支援政策を実施しようとしています。ところが、その中核の追加経済対策の内容について議会下院多数勢力の民主党と折り合いがついていません。追加経済対策協議は共和・民主両党の大統領選への思惑が絡み合う展開になると予想されます。
●コロナの法的位置付け
グローバルに株価が大幅反発したもう一つの理由は、コロナ被害の上限が見え始めたことです。欧米では極めて深刻なコロナ致死率が観測されてきました。英国の致死率は12.9%に達しています。致死率がここまで高ければ、政府は感染抑止に総力を挙げざるを得ないでしょう。しかし、その英国でも感染拡大に歯止めがかかり始めています。
米国のコロナ死者は17万人を超えていますが、致死率は3.1%にとどまっています。この水準を踏まえると、経済活動の全面的な抑制を強行することへの疑義が生じることになります。現にトランプ大統領は経済活動拡大に比重を置き始めています。
日本でもコロナ警戒感が台頭して、4-6月期のGDPが激減しましたが、東アジアではコロナ被害が欧米比ではるかに小さいことが判明しています。日本では検査が徹底的に抑制されてきたため、感染者数の実態を掴めない状況にあります。したがって、発表計数から算出されるコロナ致死率2%は過大推計だと思われます。検査が拡充しているシンガポールのコロナ致死率は0.05%で、東アジア全体のコロナ致死率の実態は、これに近いと推察されます。
この前提に立つと日本におけるコロナ警戒は行き過ぎであると思われます。過剰反応を生み出している根本原因は、安倍内閣がコロナ感染症を第2類相当指定感染症としたことにあります。極めて危険性の高い感染症と認定して厳重管理体制を敷いたのです。このことが検査の拡大を抑止する原因にもなってきました。コロナ感染症の法的位置付けを緩和すればコロナ対応の過剰という弊害を取り除けるはずですが、安倍内閣にその柔軟性があるのかどうかが問われることになります。
●嵐の前の静けさの可能性
コロナ暴落に対する株価反発率は、上海総合指数が169%、台湾加権指数が123%、韓国KOSPIが122%に達しています。これらの指数はコロナ前の水準をすでに超えているのです。ドイツの株価反発率が91%に達しているのに対して英国は58%、フランスは64%です。コロナ問題への対応巧拙が各国株価に鮮明に反映されていると言えそうです。日経平均株価反発率は90%で、中・台・韓に劣っています。安倍内閣がコロナ感染症の法的位置付けを変更して柔軟に対応すれば経済回復と株価反発を実現できる可能性があると言えるでしょう。
ただし、韓国では再び感染者数の増加が観測され、株価に反落の兆しが示されています。中国株価も伸び悩む可能性が示唆されています。コロナ第1波に伴う株価急反発が一巡して、次の展望を模索する段階に移行しつつあるとも考えられます。
コロナは当初、冬期に広がる感染症だと見られていました。トランプ大統領が暑くなれば消滅するとまで言い切っていたほどです。ところが、猛烈な暑さの日本でも感染拡大が持続しています。夏の暑さに強いコロナウイルスの特性が判明しました。しかし、このことは冬期の収束を約束するものではありません。冬期に季節的なインフルエンザの流行と重なり、コロナがどのような様相を示すのか予断を持つことができません。
また、東アジアのコロナ被害が急激に拡大するリスクも否定し切れません。各国は巨大経済政策対応を示しましたが、財政対応力が無限というわけではありません。本格的なコロナ第2波が世界を襲えば、再び危機的状況が生じる可能性も浮上するのです。金融市場の落ち着きが嵐の前の静けさである可能性を否定し切らない慎重な市場観察が求められます。
(2020年8月21日記/次回は9月12日配信予定)
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