プラチナは景気懸念で再び900ドル割れも、ドル安見通しが下支えへ <コモディティ特集>

特集
2020年9月9日 13時30分

プラチナ(白金)の現物相場は8月、2月以来となる1000ドル台をつけたが、新型コロナウイルスの感染拡大による景気の先行き懸念から高値での買いが見送られ、上げ一服となった。その後は900ドル前後の安値を買い拾われ、ドル安を受けて堅調となった。9月に入ると、欧州中央銀行(ECB)高官がユーロ高に対する懸念を示しドル高に振れたことや、景気回復の遅れに対する懸念から株価が急落したことが圧迫要因となり、7月30日以来の安値881.41ドルをつけた。

ただ、米連邦準備理事会(FRB)のインフレ容認や低金利長期化見通しでドル安が見込まれていることは下支え要因である。新型コロナウイルスのワクチン開発も進んでおり、先行きに対する楽観的な見方が出れば再び1000ドルを目指すとみられる。

●米国経済の回復は鈍化

8月の米雇用統計によると、非農業部門雇用者数は137万1000人増となり、前月の173万4000増から伸びが鈍化した。事前予想は135万人増。4ヵ月連続で増加し再雇用が進んではいるが、先行き懸念が残っている。回復ペースを上げるには、少なくとも米議会で追加経済対策の協議をまとめる必要があるとみられている。

失業率は8.4%と前月の10.2%から低下した。事前予想は9.8%。一方、パウエル米FRB議長はカンザスシティー地区連銀開催の年次経済シンポジウムの講演で、インフレ率が「一時的に」2%を上回ることを容認し、雇用を確保する方針を示した。このため実質金利が低下するとの見方からドル安見通しが強い。また、ブレイナード米FRB理事は「向こう数ヵ月」に新たな措置を打ち出し、雇用最大化とインフレ目標柔軟化に向けた新戦略を実現する必要があるとの考えを示した。新たな措置は11月の米大統領選後になるとみられており、15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では新戦略の協議が続くことになりそうだ。目先は10日のECB理事会が焦点である。英フィナンシャル・タイムズはECB高官がユーロ高を懸念していると報じており、ここでユーロ高をけん制する発言が出るとドルが買い戻される可能性が出てくる。

新型コロナウイルスのワクチン開発の行方も当面の焦点である。米製薬大手ファイザーは、開発中のワクチンの有効性について10月末までに判明する見込みとし、有効性が確認されれば直ちに承認申請を行うと発表した。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は「11月か12月になるという見方が大勢」とした上で、「私見では可能性は低いと考えるが、10月までのワクチン配布はあり得る」と述べた。トランプ米大統領は記者会見で、ワクチンについて「非常に早期に用意できる」との見通しを示した。ただ、ワクチンが早期に承認される可能性はあるが、米国全土で使用できるようになるにはさらに何カ月もかかるとみられている。

●プラチナは自動車販売の不透明感が上値を抑える要因

中国汽車工業協会(CAAM)によると、8月の新車販売台数は前年同月比11.3%増の218万台と予想された。前月の16.4%増から伸びが鈍化するが、新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)が解除され、経済活動が再開したことを受けて5ヵ月連続で新車販売が増加する見通しとなった。一方、8月の米新車販売は同20.2%減となり、前月の12.2%減から減少幅を拡大した。ロックダウン緩和後、経済活動再開で各自動車会社が在庫補充のため、生産回復に努めている。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大が続き、労働市場の回復が鈍化しており、自動車販売には先行き不透明感が残っている。

●欧米のプラチナETFに投資資金が流入

ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)の四半期報告によると、2020年第2四半期は6トンの供給不足となった。前四半期の4トンの供給過剰から需給が引き締まった。第2四半期の需要は前年比19%減の50トン、供給は同35%減の44トンとなった。新型コロナウイルスの影響で自動車触媒や宝飾、工業用の需要が減少したが、投資需要が12トン(前年同期4トン)に増加し、需要減少を相殺した。2020年は当初の8トン供給過剰から10トン供給不足に修正された。需要が11%減の231トン、供給が14%減の221トンと予想された。WPICのCEOであるポール・ウィルソン氏は「投資需要とプラチナのファンダメンタルズの展望が明るくなるのにつれ、2020年のプラチナの見通しは著しく高まると思われる」とコメントしている。

プラチナETF(上場投信)残高は9月4日の米国で37.50トン(1ヵ月前31.81トン)、8月28日の英国で18.65トン(同17.59トン)に増加、9月4日の南アフリカで19.30トン(同19.54トン)に減少した。欧米で投資資金が流入した。一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、9月1日時点のニューヨーク・プラチナの買い越しは1万9455枚となり、ピークとなった8月11日の2万2272枚から縮小した。新規売りが新規買いを上回っており、下げ止まりが確認されれば買い戻し主導で上昇する可能性が出てくる。

ニューヨーク先物市場の指定倉庫在庫は引き続き増加し、実需筋の売りが出ている。9月3日の指定倉庫差在庫は52万8803オンスとなり、1000ドル台をつけた8月10日から11万9780オンス増加した。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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