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がんの入院診療費は平均110万円、50年で600万円の差が開く「がん保険」の使い方

特集
2020年10月1日 10時00分

清水香の「それって常識? 人生100年マネーの作り方」-第14回

清水香(Kaori Shimizu)
FP&社会福祉士事務所OfficeShimizu代表
清水香1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任。2019年よりOfficeShimizu代表。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。 財務省の地震保険制度に関する委員を歴任、現在「地震保険制度等研究会」委員。日本災害復興学会会員。

前回記事「カーシェアとマイカー、30年の支出差は「800万~2100万円」+αの例も」を読む

老化とともに増え、生涯のうちに2人に1人がかかる「がん」。人生100年時代のもはやポピュラーな病気ですが、治療費が心配な人は少なくありません。

がんが怖いと思う理由に、3割強が「治療費が高額になる場合があるから」と答えています(内閣府「がん対策に関する世論調査」平成28年)。

著名人ががんで亡くなると高額な治療費が話題にのぼることもしばしばですが、実際のところ、どのくらいかかるのでしょうか。そして経済的な備えとして浸透している「がん保険」に入るべきでしょうか。以下で見ていきます。

がんの入院診療費は平均「110万円」だが

がん治療として直接かかるお金には、診察費用や検査費用、手術費用、調剤薬局で支払う薬代や抗がん剤、放射線治療費、入院費用などがあります。

厚生労働省の調査データによると、がん(=悪性新生物)で入院したときの1日あたりの診療費は約6万4000円です。この金額に、がんでの平均入院日数約17日をかけた約110万円が、がんによる入院の平均の診療費と計算できます。

最近は、放射線や抗がん剤による治療を、通院で受けることもあります。たとえばある総合病院のウェブサイトなどに掲載されている放射線治療費用によれば、乳がん温存術後の通常照射を25回受けた場合、通院での診療費は、およそ80万~100万円になります(照射部位によって異なる)。

ただし、わが国は保険診療を受けるのが基本で、この全額を負担するわけではありません

70歳未満の人の窓口負担は原則3割ですから、診療費が110万円なら窓口負担は約33万円です。

さらに保険診療では月あたり(歴月・1~31日)の医療費負担には所得に応じた「高額療養費制度」による上限があります。これによって最終的な自己負担額は年齢を問わず年収が約370万~約770万円の人では、約8万8000*円になります(*8万100円+(109万9479円-26万7000円)×1%)

入院時の食事代を含めても、月あたり約11万円です。となると、先に挙げた約110万円の診療費全体の10%程度におさまります。

がん患者の7割は高齢者、では70歳以上の自己負担額は?

がんは患者の7割が高齢者です。保険診療では、70歳以上で、現役並み所得のない世帯の負担はさらに軽減されます。

たとえば、住民税の課税所得が145万円未満の世帯は5万7600円、住民税の非課税世帯は1万5000円または2万4000円が、月あたりの入院医療費の上限となります。

■がん入院時の平均治療費

年齢 70歳未満 70歳以上
自己負担割合 3割 2割
年収・所得 約370万
~約770万円
145万円未満
入院時
がん診療費
109万9479円 109万9479円
窓口負担 32万9844円 5万7600円
最終医療費負担* 8万8425円 5万7600円
+食事代 2万3460円 2万3460円
=自己負担額 11万1885円 8万1060円

注:厚生労働省「医療給付実態調査」平成30年・「患者調査」平成29年より試算 *高額療養費制度を適用後

前述した通院による放射線治療で、100万円かかる例の高額療養費を計算すると年齢を問わず年収が約370万~約770万円の人ならば最終的な自己負担は月あたり8万円ほどになります。

また70歳以上では、先にも挙げた課税所得が145万円未満の世帯は1万8000円、そして住民税非課税世帯は8000円が月あたりの上限になります。

健康保険組合によっては、付加給付で月2万円に抑えられることも

現役世代でも、自己負担額を抑えられるケースがあります。企業などが設立した「健康保険組合」や、公務員や私立学校教職員が対象の「共済組合」に加入していて、組合独自の「付加給付」が適用される場合です。

これらの組合の中には、月あたりの医療費負担を2万円上限とするところもあり、こうした場合は、医療費を心配する必要はあまりなさそうです。

わが国では、有効性や安全性が確認され保険診療となっている「標準治療」を受けることが、がんであっても基本です。科学的根拠に基づき一定の状態の患者に現時点で最良と推奨される治療で、かつ治療費もある程度事前に予測できます。

なお、一部の重粒子線・粒子線治療などの「先進医療」は標準治療ではなく、患者の希望で受療する場合は治療費用の100%が患者負担となります。ただし、いまだ安全性や有効性が確認されていない保険外診療ですから、標準治療に優先して受けることはありません。

がんによる家計リスクが生じる場合とは

一方でがんは"究極的に個人的な病気"で、がん専門医によれば「個々の症状やそれに対する治療は千差万別」ということです。早期発見で速やかに治癒することがある一方、治療後の再発や転移の可能性もあり、治療が長引く人もいます。

こうしたときの家計負担を軽減するため、1年間に高額療養費に3回該当すると、年齢を問わず年収が約370~約770万円の場合、医療費負担が4万4400円まで軽減される「多数回該当」の特例もあります。

また現役世代は療養で仕事を休むと、会社員や公務員には最長1年6カ月にわたる「傷病手当金」の下支えもあります。その金額は日給の3分の2になります。

制度の対象となる医療費の一定額のみを負担する保険診療が基本であることや高額療養費制度、そして健康保険組合の付加給付、さらには傷病手当金などの仕組みがあることを踏まえると、がんに罹って高額な医療費が発生したとしても、家計でそれをすべて負担することはありません。

とはいえ、医療費が無料になるわけではありませんし、傷病手当金も支給する期限や額に限度があります。こうした家計リスクを軽減する仕組みの1つに「がん保険」があります。

ではどのような点に、留意してがん保険を選べばよいのでしょうか?

次ページ 保障内容の違いでみたがん保険の生涯保険料の差と、選ぶポイント

 

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