植草一秀の「金融変動水先案内」 -ポストコロナを見極める株式市場-
第48回 ポストコロナを見極める株式市場
●コロナ感染第3波
日本のコロナ陽性確認者数が急増しています。12月10日の新規陽性者数は2972人に達して2日連続で過去最高を更新しました。11月21日からの3連休の人出拡大が予想され、感染抑止のための行動抑制が叫ばれました。ところが、菅内閣は「勝負の3週間」と言いながらGoToトラベル事業を全面推進しました。大阪市、札幌市を目的地とするGoToトラベルのみを一時停止しただけでGoTo推進の基本方針を変えていません。
人の移動拡大は3週間後の新規陽性者数の増加に連動しています。11月21日からの3連休の遠距離移動拡大を抑止しなかったため、12月10日以降の新規陽性者数の増加は自明でした。政府関係者は7月下旬にGoToトラベルを始動したのに8月中旬から9月下旬にかけて新規陽性者数が減ったから因果関係が認められないと言いますが正しくありません。新規陽性者数が急増したので8月中旬から月末にかけて人の移動が抑制され、これが新規陽性者数の減少につながったのです。
政府はGoToトラベル利用者の陽性者が少ないとしていますが、すべての陽性者にGoTo利用の有無を確認しているわけではありません。問題は、感染が拡大している大都市から全国に人が移動して、無症状の感染者が感染を拡大することです。蝶が花粉を付けて遠方まで飛翔して受粉を実現するように大都市の無症状感染者が感染を全国に拡散しています。また、地方から大都市に旅行した人が無症状のままウイルスを地方に持ち帰っているのです。
感染拡大を抑止するにはGoToトラベルを一時中止する必要がありますが、菅首相が頑迷で感染抑止策が講じられていません。これが日本の大きなリスクになっています。
●株式市場の洞察力
国別の状況比較では東アジア諸国の被害が相対的に極めて軽微です。人口100万人当たりコロナ死者数は欧州では1000人を超えている国もありますが、台湾0.3人、中国3人、韓国11人、日本19人になっています。ネアンデルタール人由来の遺伝子多様体(バリアント)を保持する人の重篤化率が高いとの論文がネイチャー誌に発表されたことが話題になりましたが、何らかの遺伝子的要因が影響しているのでしょう。不幸中の幸いで日本でのコロナ被害は相対的には軽微に抑制されていますが、重要なことは感染減少を確実にすることです。
それでも、台湾、中国、韓国と比較すると日本の状況は格段に悪いです。最大の理由は政府が検査を抑制し続けてきたことにあります。コロナ感染症の特徴は無症状の感染者が感染を拡大させる点にあります。ですから、検査を広範に実施して感染者が新たな感染者を生み出すことを抑止することが重要になるのです。この点で日本政府の対応は失敗を続けてきたと言わざるを得ません。
株式市場はコロナ被害を冷徹に洞察してきたように見えます。コロナ暴落後の株価反発では東アジア諸国が突出しています。下落幅に対する反発幅の比率は中国が170%、台湾が161%、韓国が158%、日本が136%に達しています。これに対して英国の株価反発率は62%です。同じ欧州でもドイツは94%でコロナ対応の巧拙が株価に反映されていると言えるのです。
●中期は楽観でも短期には警戒
日本の株価反発率が136%に達していることは株式市場が日本経済の先行きを必ずしも悲観してはいないことを意味しています。新規陽性者数は急増していますが、基本的に50歳代以下の健常者が重篤化するリスクは高くありません。新型コロナを第2類相当指定感染症に区分して、硬直的な行政対応を続けているために、医療資源の配分に大きなゆがみが生じていることが医療崩壊のリスクを高めているのです。
また、感染抑止を叫びながら、感染拡大を推進する原動力となっているGoTo事業を全面推進するのは支離滅裂のそしりを免れません。感染抑止と経済活動維持の両方が重要であることは当然ですが、順序としては、感染抑止にまず力点を置き、ある程度の感染収束を実現した段階で経済活動の拡大に比重を移すことが適正です。
現在のコロナ感染拡大は季節にも影響されています。冬季は気温と湿度が低下して室内換気状況が悪化します。このために、とりわけ寒冷地で感染拡大のリスクが高まるのです。12月中旬に寒波の到来が予想されていますが、冬本番はこれから到来するので油断できません。
ワクチンの利用が開始されて中期的な展望が好転していますが、目先の3カ月間は事態の悪化が残存する可能性が高いでしょう。世界全体の一日当たり死者は4月のピーク6800人に対して、12月に入って1万人を突破しました。日本だけでなく、北半球全体で感染再拡大が進行しています。菅義偉首相がGoToへの固執から脱却できるかどうかが目先の注目点ということになるでしょう。
●市場変動の基調をどう見るか
投資戦略構築に際しては金融市場変動の基調をどのように判断するのかが重要になります。私はこれを「潮流判断」と表現していますが、株価の基調が上昇なのか、下落なのかについての大局観が重要になります。コロナ問題は第3波の到来で厳しい状況がなお拡大することが予想されるのですが、ワクチン接種が始動したこともあって、中期的な悲観が徐々に払拭され始めている点を見落とせません。
もちろん、通常のワクチン認可に最低でも2年以上かかるところ、例外措置として半年での認可が行われているために、今後、深刻な副作用などのさまざまなトラブルが表面化することが予想されます。また、感染拡大、死者増加によって景気回復のペースが急速にダウンすることも予想されますので、短期的な視点では警戒感を持つことが必要になるでしょう。
それでも、金融市場は通常、半年から1年先を見越して変動すると言われます。来春にかけての感染拡大期の先の変化をこれからの株価変動が先取りし始めることを見落としてはならないでしょう。
銅価格や原油価格、あるいは新興国の株価変動に変化の胎動が観察され始めています。目先のリスクに細心の注意を払うとともに、総合的、俯瞰的な判断を持つことが重要と言えそうです。
(2020年12月11日記/次回は12月26日配信予定)
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