植草一秀の「金融変動水先案内」 -バイデン当選ご祝儀相場の一巡-
第49回 バイデン当選ご祝儀相場の一巡
●新大統領の誕生
トランプ大統領はあくまでも敗北を認めない姿勢を示しています。不正選挙によって選挙結果が覆されたとの主張を裏付ける決定的な証拠があるなら、結果が覆る可能性があるでしょう。しかし、これまでのところ、トランプ大統領が提起した訴訟事案はことごとく裁判所によって棄却されています。トランプ大統領は共和党が主導権を握っている州の議会に働きかけて議会の権限で大統領選挙の選挙人を指名するよう要請しましたが、すべての州で失敗しました。その結果、12月14日に実施された選挙人による投票では有権者による直接投票結果が示した232対306でバイデン氏が新大統領に選出されました。
不正選挙の決定的証拠が存在するなら、すでに公表されていると考えるのが自然です。現時点でそれを実現できていないことがトランプ陣営の苦境を示しているように思われます。
1月20日にはバイデン大統領が誕生することが確実視される状況に移行しています。大統領選挙の投票日だった11月3日の直前にNYダウは3000ドル近くの急落を演じましたが、選挙直前から反発に転じて、ついに11月24日に史上初めて3万ドルの大台に到達しました。
トランプ大統領が、選挙結果が敗北を示す場合には法廷闘争を展開して、選挙結果を簡単には確定させない可能性を示唆したことが不確実性の拡大と受け止められたのです。しかし、開票が進むにつれてバイデン氏が勝利する可能性が高まり、NYダウは新高値を記録したのです。
●バイデン大統領誕生へ
バイデン大統領は企業増税や富裕層増税を提案しています。巨大なコロナ経済対策を策定、推進し、富裕層や大企業の減税を推進してきたトランプ大統領再選の方が株式市場に好感されるのではないかとの見方がありました。それにもかかわらず、株式市場はバイデン当選を好感したのです。
トランプ大統領の激しい政策運営が米国内における人々の分断と対立を加速させてきたことは否定しがたく、トランプ大統領退場によって分断と対立の加速に歯止めがかかることに対する期待が株式市場の反応をもたらしたと考えられます。
バイデン氏の得票は8100万票超、トランプ氏の得票は7400万票超で、トランプ氏も過去の大統領選最高得票を上回る票を得ました。投票率が120年ぶりに66%を超えたことが背景です。コロナの影響で郵便投票が広く認められたことが、この投票結果をもたらしたと見られます。トランプ大統領の支持者が多数存在した一方で、どうしてもトランプ大統領に退場してもらいたいと考えて郵便投票を活用した有権者が多数存在したのだと見られます。
ただし、有権者がバイデン氏に投票した理由は、バイデン氏がバイデン氏であることではなく、バイデン氏がトランプ氏でないことにあったのではないでしょうか。この意味で、バイデン氏は、大統領に就任して初めてその真価が問われることになります。
●払拭できない不透明感
コロナ感染の拡大を背景に世界の株価が暴落しました。大半の国で3割から5割の株価暴落が生じたなかで、上海総合だけが15%の下落にとどまりました。他方、世界の株価暴落後の反発契機になったのが米国の巨大経済政策発動でした。真水で200兆円を超す大型経済対策をトランプ大統領が電光石火のスピードで策定、実施しました。
日本政府も二次にわたる補正予算を編成して58兆円の支出を追加しました。さらに第三次補正予算で15兆円の追加支出が実行されることになります。財政政策と足並みを合わせて金融緩和政策も積極的に推進されています。日本のGDPは年率換算で60兆円減少しましたが、国の財政支出だけで73兆円の追加が実施されることになります。
金融支援策も強化されて、1980年代のバブル崩壊後では初めてM1の前年比伸び率が14%を超す状態になりました。巨大財政政策と過剰流動性供給を背景にして日本株価の本格反発が生じています。東アジア諸国、地域ではコロナの人的被害も相対的には著しく軽微で、株価反発はコロナ暴落幅の130~170%に達しています。
それでも、手放しの先行き楽観はできない情勢です。3つの問題を提示することができます。第一はコロナウイルスの変異スピードが速く、東アジアでの被害軽微の状況が維持されるのか不透明なことです。第二はコロナ収束期待を盛り上げているワクチンに大きな不都合が生じるリスクです。第三はコロナ感染再拡大が経済活動の再停滞をもたらす可能性です。この3つの不安要素は簡単には払拭できないでしょう。
●きめ細かなリスク管理の重要性
年が明けると1月5日にジョージア州で2名の上院議員選決選投票が行われます。大統領選と同時に実施された上院選の結果、共和党50、民主党48の議席が確定しています。ジョージアの2議席を民主党が獲得すると議席は同数になりますが、議長にカマラ・ハリス副大統領が就任するので民主党が上院でも主導権を確保します。逆に2議席を共和党が獲得すると上院の主導権は共和党が維持することになります。
上院は閣僚人事、最高裁判事人事、大統領弾劾などの権限を持つため、民主、共和のどちらが多数を確保するかが極めて重要になります。バイデン政権の行方を左右する重要選挙と位置付けて間違いありません。
1月8日には12月雇用統計が発表されます。11月の雇用者増加数が24.5万人に急減しました。4月に雇用者が2079万人も減少して衝撃を与えましたが、5月から10月の半年に雇用者が1200万人増加して順調な景気回復が続きましたが、11月に急減速しました。12月の雇用者数が減少に転じると衝撃が走ることになるでしょう。
コロナ不安はワクチン接種開始で大幅に後退しているのですが、十分な治験を経たワクチン実用化ではありませんので、多数の事故発生が警戒されます。また、既述した通り、ウイルスの変異も警戒しなければなりません。会員制レポート『金利・為替・株価特報』12月28日号には運命学上の2021年年運を記述しています。関心がありましたらご高覧賜れれば嬉しく思います。
(2020年12月25日記/次回は1月9日配信予定)
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