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2021年1月22日 12時30分
市況

武者陵司「半導体不足は日本ハイテク復活の予兆である可能性」<後編>

※武者陵司「半導体不足は日本ハイテク復活の予兆である可能性」<前編>から続く

(4)半導体需要の新潮流は日本にとっては有利

●半導体新規需要は日本の得意分野に

以上のような半導体需要の変化、技術潮流の変化は、日本にとっては有利である。2015年頃まで日本のハイテク産業は連戦連敗であったが、退潮が止まり復活する時期に入っていると言えるかもしれない。これまでの半導体産業のリーダーは、多額の資本投下に先行し最先端の素子でコストを下げ市場シェアを一気に獲得してきたサムスン、インテル、TSMCなどの巨大企業であり、日本企業は太刀打ちできなかったが、その土俵が変わるのである。

(A)レガシー半導体はパワー半導体 センサー、オプティカル半導体など、依然日本が競争力を持っている分野が多く日本に復活の土俵を与える、

(B)日本はハイテクニッチのオンリーワン分野、部品・材料・装置などのハイテクサプライに特化、例えば半導体製造装置は世界シェア35%以上、材料に至っては約60%のシェアを占めている。カスタマイズされた多種多様な半導体分野での最適ソリューションを確立するには、日本のニッチな高度技術の重要性が高まる、

(C)いまの日本に失うものなし(半導体・テレビ・PC・スマホすべて市場を失った)などが指摘できる。

レガシー半導体の工程技術では、キヤノン <7751> やニコン <7731>などの露光装置需要が増加するかもしれない。最先端の極端紫外線(EUV)露光装置はオランダのASLMの独壇場であり、日本メーカーは埒外であったが、チャンスが来る。

これから先、従来の半導体メーカーは微細化競争に後れを取ったインテルのように、さまざまな困難に遭遇するだろう。

高額投資を積み上げる微細化競争はいずれ利益を生みにくくなっていくかもしれない。半導体の価値は設計思想にますます偏るようになり、ファブレス企業が中心になり、アップル、アマゾンなども自前の半導体開発を始める意向を示している。

そのような時代になってもTSMCのような最優良の受託生産企業と、そこに多様なサプライを供給するハイテク・ハード・ニッチに特化した高技術企業はますます必要とされるようになる。高機能半導体を作るには高機能の材料部品が必要。その技術の宝庫が日本である。

●圧倒的な日本のハイテクサプライ競争力

韓国と台湾はいまや半導体の2大強国である。両国で世界の半導体生産の42%を支配しているが、中国での両国企業の生産を考慮すれば世界の半導体生産の半分を2カ国で支配しているといって過言ではない。

この2大半導体強国は、共通の貿易構造を持っている。韓国と台湾の相手国別に見た貿易収支では、両国ともに資源、エネルギーとハイテクサプライ(材料・部品・装置)を輸入し、半導体などハイテク製品を中国(含む香港)、米国に輸出するという構造により、巨額の黒字を計上していることがわかる。また、中国は台湾・韓国から半導体を輸入しハイテク完成品を米国・欧州に輸出している。

韓国、台湾および中国に、ハイテクサプライを一手に供給しているのが日本である。この韓国、台湾における対日依存は、ここ10年来全く変わっていない。2019年の対日貿易赤字は韓国192億ドル、台湾208億ドルであり、両国とも日本がほぼ最大の赤字相手国になっている。日本は世界最強のハイテクサプライの地位を築き上げているといえる。この日本のハイテクサプライでの強さは、新たな半導体需要構造の下で一段と強まるだろう。

(5)半導体の新しい技術トレンド、モア・ザン・ムーア

●高集積化から離れた時代の要請

これまでの半導体の技術トレンドの核心は、1.5年で2倍、3年で4倍という集積度の向上(ムーアの法則)であった。

コンピュータ、携帯電話の小型化、飛躍的高機能化は全てムーアの法則の賜物と言ってよい。このトレンドがいま大きく変わろうとしている。高集積化が技術的に限界に達したということではない。線幅の微細化はまだ進行しており、多層化技術も加わり高集積化は依然として進行中である。

しかし、今後の需要の中心となる産業用、自動車、エネルギー開発、インフラ関連などでは、高集積以上に省電力、耐熱、耐振動など多様な特性が求められる。例えばセンサーは物理量の変動を電気信号に変換するが、それらが変換する量、温度、圧力、運動などはアナログであり、それが絶え間なく変化する。現代の自動車は数百を超えるセンサーを搭載し、エンジンに必要な燃料混合気から車内での一酸化炭素濃度まで、あらゆるものをモニタリングする。加速度センサーは衝突を検知し、エアバッグを展開する。ジャイロセンサーは変位を検知する。このような多様性が新たに求められる特性である。

●多様な技術要素の擦り合わせ、日本の得意分野

より少ないチップ数で多くの機能の実現を要請されるので、同一チップ上でアナログ向けのバイポーラ、デジタル向けのCMOS、電源向けのDMOSといった異なる種類のトランジスタを形成することが必要になり、製造工程はデジタル回路だけで構成されるメモリーやCPUなどとは全く異なってくる。

また、回線速度をより高速化することを目的に光デバイスに対するニーズが増加する。光信号と電気信号を変換するため、主にレーザーダイオードやLEDが用いられる。

このように半導体に対して、多様な技術要素、特性を求められる時代が来る。一つ一つの使用現場のニーズに即した半導体開発が求められる。日本の多様な技術、多様なサプライをもたらすハイテク生産エコシステム(産業クラスター)が強みを発揮する時代が始まっていると考える。

(2021年1月21日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン271号」を転載)

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