植草一秀の「金融変動水先案内」 ―三寒四温の季節到来―

市況
2021年2月13日 8時30分

第52回 三寒四温の季節到来

●高値波乱

1月25日に発行した会員制レポートに「高値波乱の可能性」と書きました。内外株価は1月下旬に急落した後、2月上旬に急反発しました。高値波乱の到来です。世の中の変化も目まぐるしくなっています。米国では1月5日のジョージア州上院選決選投票で民主党が2勝しました。上院の主導権を民主、共和のどちらが握るかを決する最重要選挙でした。上院議席は民主50、共和50になり、議長を民主党のカマラ・ハリス副大統領が務めるため、民主党が主導権を確保しました。大統領、上院、下院を民主党が制するトリプルブルーが成立したのです。

トランプ前大統領が現地入りしたことが共和党敗北の原因になったようです。米連邦議会は1月6日に大統領選の選挙人投票結果を確定する手続きを進めましたが、トランプ支持者が大挙して議事堂に乱入。5人の死者が出る大惨事に発展しました。トランプ氏が議事堂への行進を扇動したため、その責任を問う声が強まりました。

トランプ氏は二度目の弾劾裁判を受けることになりました。トランプ氏が有罪になるには上院の67名の賛成が必要で、共和党から17名が造反することが求められます。結局、トランプ氏は無罪になることが確実な情勢ですが、民主党は合衆国憲法修正14条第3項を活用してトランプ氏の公職就任禁止を可決することを検討しています。

しかし、同条項は弾劾裁判で有罪とされた者にのみ適用可能との学説もあり、仮に可決された場合にはトランプ氏が違憲を主張して訴訟を提起すると見られます。最終決着には数年間の時間が必要になることも考えられます。

●五輪のリスク

目まぐるしい情勢変化は国内も共通しています。東京五輪組織委員会の森喜朗会長が2月3日のJOC評議委員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」、「女性は競争意識が強い」、「組織委の女性はみんなわきまえている」などと発言。女性蔑視、女性差別発言として責任を追及されました。結局、森氏は組織委会長の辞任表明に追い込まれましたが、後任会長人事が混乱しています。

日本政府は新型コロナ感染拡大を防止するため10都府県に緊急事態宣言を発出しています。コロナ感染を収束できなければ 五輪開催は極めて大きなリスクをはらむことになります。全世界で相次いでコロナ変異株が確認されており、多数の外国人の入国は変異株流入につながる可能性が高く、五輪開催には極めて大きなリスクが付随します。

引責辞任を表明した森喜朗氏は「コロナがどういう形であろうと必ず(五輪を)やる」と述べていましたが、五輪開催で変異株の大流行が発生すると、日本の国民は甚大なダメージを受けることになります。菅内閣はコロナ収束と経済活動の維持を同時に追求してGoTo事業を全面推進しましたが、その結果として感染爆発を引き起こしてしまいました。

政府の対応が国民経済に与える影響は甚大になっています。適切なコロナ対応と、国民の命と暮らしを優先させる明確な方針が定められることがトータルな意味での優良策であると言えるでしょう。この問題こそ、総合的、俯瞰的に判断するべきです。

●過剰流動性相場

東アジア諸国・地域のなかで日本の人口当たりコロナ死者数は突出して多くなっています。台湾の100倍、中国の16倍の水準に達します。二兎を追って感染を爆発させてしまった結果だと言えます。それでも、欧米と比較すると日本の被害は数十分の一レベルです。不幸中の幸いですが、このために東アジア諸国・地域の株価反発が突出して大きくなっています。

コロナの被害が相対的に軽微である、政府が巨大なコロナ経済対策を実施した、実際に生産活動が回復過程に移行したなどの要因によって株価の大幅反発が実現してきました。日本の場合、三次にわたる補正予算編成で73兆円もの追加財政支出が決定されました。名目GDPの16%に相当する巨大予算です。

それだけではありません。バブル期以来となる巨大な過剰流動性が供給されているのです。過剰流動性は水が高いところから低いところに流れるように、価格上昇が見込まれる対象に流入します。1980年代後半のバブル期には過剰流動性が株式、不動産、ゴルフ会員権、絵画に流入しました。通常の財・サービスには価格上昇の期待が発生せず、一般物価の上昇は生じなかったのです。

今回も過剰流動性は一般の財・サービスには流入しません。価格上昇の見通しが存在しないからです。代わって株式市場への流入が続いているのです。同時に不動産についても過剰流動性流入の対象になっていると考えられます。

●春の乱気流

金融市場ではいま目の前で起きていることではなく、少し先の変化を読み取ろうとします。コロナ・パンデミックで世界的な株価暴落が発生しましたが、早い段階で金融市場は中期の展望を保持し始めました。振り返ってみると、その予見能力の正確さには驚かされるものがあります。コロナは人為的な対応によって克服可能であることを金融市場は予見してきました。

仮にウイルスを人為的に拡散して、あらかじめ備えていたワクチンを全世界で接種することになれば莫大な利益が転がり込んできます。ワクチンメーカーの株価は暴騰するでしょう。現にワクチンメーカーの最高幹部は急騰した株式を高値で売却して巨大な利益を獲得しています。

金融市場が正確な先読みを実現した背後に、一種のインサイダー的な情報流通があった可能性も否定はできません。コロナ・パンデミック後の株価暴騰は予定調和であるのかも知れないわけです。ただし、慢心と過信は禁物です。

映画「ジュラシック・パーク」のシリーズでは制御可能であったはずの恐竜が制御不能に陥り、製造者に災厄をもたらします。コロナウイルスの変異株が制御不能になるリスクを排除できません。

世界経済の回復基調への転換が展望される状況に移行しつつありますが、節分から彼岸にかけて春の乱気流が小さな嵐を引き起こす可能性にも十分注意を払う必要があると思います。

(2021年2月12日記/次回は2月27日配信予定)

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