それでも2021年はドル安【フィスコ・コラム】

市況
2021年2月14日 9時00分

新型コロナウイルスが世界を席捲した2020年を終え、新しい年になって1カ月あまり。アメリカの新政権発足を受け、ドル・円は102円台から一時105円台に浮上しました。2021年はドル安との見方が市場コンセンサスでしたが、トレンドに変化が起きたのでしょうか。

年明け直後の1月5日に行われた米ジョージア州の決戦投票で民主党が2議席を制し、上院は民主党と共和党が同じ50議席を確保。最後の1票は副大統領が権限を握っているため、実質民主党が上下両院で多数派となる「ブルーウェーブ」が確定しました。それを受け、大型投資を柱とするバイデン政策への期待が高まると長期金利が上昇し、ドル・円は年初の水準から104円半ばへドル高・円安に振れました。

その後は米国債入札が好調だったこともあり、長期金利は失速します。しかし、大統領就任式や連邦公開市場委員会(FOMC)を無難に通過すると長期金利は再び上昇し、ドル・円は3カ月ぶりに心理的節目の105円台へ浮上。一方、NY株式市場でもバイデン政策や金融緩和を背景に買いが強まり、乱高下を挟んで最高値を更新します。足元は金利高・株高に支えられ、ドルの先行きに強気な観測も一部に出てきました。

昨年後半以降、「2021年はドル安」が市場関係者のほぼ一致した見方でした。米連邦準備理事会(FRB)は2023年まで実質ゼロ金利政策を堅持する方針で、バイデン政権も容認するとの思惑が背景にあります。イエレン前FRB議長の財務長官就任は、一時的な物価上昇を招いても雇用の回復を優先するFRB時代の同氏の政策方針がまさにコロナ禍で有効性を発揮する、との期待もドル安観測を下支えしました。

年初から1カ月あまりで、トレンドが変わってしまったようにも見えます。ただ、2月5日発表された米雇用統計は失業率が大きく改善したものの、労働参加率は予想外に低下し、市場参加者を嫌気させました。パウエルFRB議長は2月に入ってからの講演で雇用情勢の回復は程遠いとの評価を変えておらず、今後の回復に慎重な姿勢を維持。ドルの上昇を抑制しています。

足元では、米長期金利の動向がドルの行方を左右します。10年債利回りはコロナ禍によるFRBの歴史的緩和政策で過去最低水準に落ち込みましたが、「ブルーウェーブ」を背景とした長期金利の底入れがドルを押し上げていることに違いはありません。ただ、ワクチン接種は当初の想定ほど進んでいないとの報道も散見されます。それが事実であれば、経済の回復や長期金利の上昇も進まないことになります。

現時点で米10年債利回りは1.10%台で推移し、1.20%台を目指す展開のようです。しかし、2月10日の消費者物価指数(CPI)は鈍化が示され、目先の長期金利は伸び悩むとみられます。経常赤字の拡大も考慮するとやはりドルに下落圧力がかかりやすく、現時点ではドル売り地合いに変わりはなさそうです。実際、トヨタ自動車と日産自動車はドル・円の想定為替レートを引き下げています。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

(吉池 威)

《YN》

提供:フィスコ

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