明日の株式相場に向けて=「青天井相場」は幻か
きょう(11日)の東京株式市場は、日経平均株価が175円高の2万9211円と3日続伸。2月下旬以降はボラティリティの高い地合いが強く意識されるようになったが、それは全体指数が下りのエスカレーターに乗ったからという事情もある。
日経平均3万円大台近辺では強弱感が対立して日々の値幅も小さかったが、ひとたび下に放れると“引力の作用”が働くのが相場だ。エスカレーターではなくジェットコースターに乗せられたような気分になりがちで、実際の値幅以上に下値リスクに対する緊張感がそうさせる。「天井三日底百日」という有名な言葉も人間の頭で考えた相場格言らしさが出ている。少なくとも、2012年12月のアベノミクス相場スタート後の8年間あまりを振り返って、実際問題として底百日とは無縁であった。売り方の立場に立てばよく分かる。昨年3月のコロナ暴落後の直近1年はどうだったかといえば「底三日で青天井」という空売り筋にとっては非常に怖い相場が繰り広げられた。
今は新型コロナウイルスという未知の敵と遭遇し、相場との距離感がつかみにくくなっている。ここ1年間の株高が行き過ぎた超金融相場によるもので、眼前に業績相場につなぐ橋が架けられていないとすれば、いったんは大幅な株価調整局面やむなしということになる。しかし、日米欧の中央銀行がうまくバランスをとりながら金融政策を軟着陸させれば、つまり業績相場へつなぐ時間を稼げるのであれば、コロナマネーが縮小しても株式市場は巡航速度で上値追い態勢を維持できる。その意味で今は重要な時期にきていると思われる。やや短絡的な言い方ながら、来週のパウエルFRB議長の会見とそれに対するマーケットの受け止め方は、今後を占ううえでも一つの分岐に差しかかっているといえそうだ。
きょうの相場で圧巻だったのは、何といっても海運株。前日取り上げた明治海運<9115>や前週紹介した飯野海運<9119>、共栄タンカー<9130>はもちろん、日本郵船<9101>、商船三井<9104>、川崎汽船<9107>の大手3社の株価が文字通りビッグウェーブに乗った。この流れが幕間つなぎではないバリュー株投資の入口となるのかどうかに注目したい。
個別では、インタートレード<3747>が再びエンジン始動の気配。同社株は急騰性があるが、株価が急速に切り上がると空売りの仕掛けが入るのか下押すスピードも速い。そうした需給事情を踏まえたうえで、値動きを読む必要がある。暗号資産関連であり、ビットコイン価格が再び上昇傾向にあることから、ここはタイミング的には狙い目となる。また、ルーデン・ホールディングス<1400>も上向きに変わった5日移動平均線を足場に再浮上の兆し。
2次電池関連株も調整一巡から動兆する銘柄が出てきた。そのなか、次世代電池としての魅力を内包する「バイポーラ電池」を手掛ける古河電池<6937>が上値慕いの動きをみせておりマークしておきたい。また、藤倉コンポジット<5121>は非常用マグネシウム空気電池「WattSatt(ワットサット)」を手掛け、順調に需要獲得が進んでいる。このほか風力発電機用ブレード保護シートなど再生可能エネルギー周辺の商品を製造販売していることでテーマ買いの流れに乗るが、PBRが0.5倍を下回っていることは水準訂正余地の大きさを示唆する。
バリュー株の資質を有する低PBR銘柄は鉄鋼セクターにも多い。JFE系の鋳造専業メーカーの日本鋳造<5609>は25円配当を実施しながらPBRが0.4倍台と安値圏に放置されているが、程よい仕手性を内在させていることで個人投資家の短期トレード対象としても人気が高い。また、栗本鐵工所<5602>はPER、PBRともに極めて割安なだけでなく高配当利回りで技術力も高い。ナノテク技術から派生した磁気粘性流体の商品化などで需要を捉えている。鉄鋼セクター以外では、西日本を地盤とする配合飼料会社の日和産業<2055>がある。PBRは0.3倍台で300円台の株価には値ごろ感もある。最近はアクティビストが株価を突き動かすケースも増えているが、近い将来、超低PBR放置というわけにはいかない会社が相次ぐ可能性がある。その流れに乗って同社株などは意外高に進む素地がある。
あすのスケジュールでは、1~3月期法人企業景気予測調査、株価指数先物・オプション3月物のSQ算出など。海外では1月のユーロ圏鉱工業生産、2月の米生産者物価指数、3月のミシガン大学米消費者信頼感指数(速報値)など。(銀)