想定外の原油生産枠据え置き、過剰流動性の中で乖離する需要見通し <コモディティ特集>

特集
2021年3月17日 13時30分

今月、石油輸出国機構(OPEC)プラスは4月の減産目標をほぼ据え置いた。ロシアとカザフスタンが合計で日量15万バレルほど増産することになったが、需要回復とともに段階的に生産量を増やしていく方針ではなく、産油国会合でその都度調整していく構えである。4月についてはサウジアラビアも日量100万バレルの自主減産を維持する。

需要が回復しているなか、主要産油国の据え置き合意は想定外だったことから原油相場は一段高となった。先週、ニューヨーク市場のウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は2018年10月以来の高値を更新している。

●慎重な見通しを示すOPECプラス

サウジアラビアやロシアを中心とするOPECプラスはなぜ減産目標を縮小しなかったのか。今年初め、ロシアは月次で日量50万バレル増産する案に言及していたが、OPECプラスにロシア代表として出席しているノバク副首相の増産を支持する発言を最近は目にしない。年初よりも新型コロナウイルスの流行が収まり、需要見通しが改善しているのだから、今こそ生産量の拡大を主張すべきではないか。

ただ、今月4日の産油国会合後に公表された声明で楽観論はごくわずかだった。不確実な市場のもとで警戒や柔軟性が必要であると指摘されている。主要国で新型コロナウイルスのワクチン接種が拡大し、一部では秋頃に集団免疫が獲得できる見通しとなっているものの、産油国は需要回復を確信していない。OPECプラスの舵取り役であるサウジアラビアは引き続き慎重である。

石油市場は新型コロナウイルスの流行によって蹂躙されてきた。昨年のコロナショックで需要は蒸発し、前例のない規模の供給過剰が発生した。産油国が需要回復に依然として慎重であるのは当然である。世界全体で感染者数は高止まりしており、世界第3位の石油消費国であるインドではまた感染が拡大している。米連邦準備制度理事会(FRB)は景気回復に自信を持っているようだが、本当にコロナ禍が終わるのか見通すことはできない。実戦投入されている新型コロナウイルスのワクチンの有効期間は不明であるうえ、変異種の流行を引き続き警戒しなければならず、この疫病が終息する時期は見当もつかない。

●コロナ克服に楽観的な市場参加者との温度差

一方で、投資家マインドは良好である。世界的に株式市場は上向いているうえ、安全資産である主要国の国債には売りが続いており、コモディティ市場の一角には需要回復期待を背景に資金が流入している。逃避通貨とみなされてきた円相場は軟調に推移しているほか、特別買収目的会社(SPAC)の上場が急拡大するなど、モニター越しにみえる世界はコロナ禍の終了と過剰流動性相場の継続を確信しているようだ。バブルの香りが強まる金融市場の陽気な動きに流され、大半の市場参加者の景気見通しは楽観的である可能性が高い。

金融相場を背景としてリスク資産価格の上昇が続くなか、サウジアラビアの慎重さは異様かもしれない。ただ、コロナ禍の終了を前提として石油需要の回復を盲信するのは健全ではない。バブルに飲まれつつある市場参加者よりも、サウジの見解のほうが妥当なのではないか。金融市場における楽観的な投資家にとって石油需要の回復は当たり前である一方、産油国は需要の下振れを引き続き警戒しなければならず、今後さらに見通しをめぐる温度差が広がっていくかもしれない。

今月末から始まる主要産油国の会合でも増産が意識されるだろう。市場参加者の視界にはバラ色の世界しかない。ワクチンが救世主となり、世界は正常化に向かっているとの認識が背景にある。ただ、本当にワクチンが世界を救うのか、まだ誰にもわからない。投資家と産油国の視界の明暗は明らかである。世界は壮大な実験の真っ最中だ。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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