S&P500 月例レポート ― ノーマリティ(平常)が戻り楽観論が優勢に (2) ―

市況
2021年4月16日 13時30分

●バイデン大統領と政府高官

○上院は、アメリカ救済計画(ARP)と呼ばれる1兆9000億ドル規模の新型コロナウイルス経済対策法案を可決しました(賛成50票、反対49票で、共和党議員1名が親族の葬儀で採決を欠席しました)。その後、同法案は下院でも可決され(民主党議員221名中220名が賛成、共和党議員211名は全員反対)、バイデン大統領が署名しました。同日(3月11日)夜、大統領は国民に向けてテレビ演説を行い、新型コロナウイルスのパンデミック宣言からちょうど1年であり、米国の全ての成人が今年5月1日までにワクチン接種を終えるようスケジュール調整を進め、7月4日の独立記念日には少人数での集まりが可能になることを目指すと表明しました。ARPについては市場の予想通りでしたが、実際に可決されたことで株価は押し上げられ、S&P 500指数は最高値を更新し、週末には個人向け給付金の支給が開始されました。

⇒その後、市場は早くも次の景気刺激策を期待しています。これはまるで、大きな契約を取った部下にランチをご馳走した営業マネジャーが、その日の午後に部下に対し、「君たちは僕のために最近何かしてくれたかな?」と言うようなものです。実際に、下院はインフラ法案の準備に入っており(すぐに取り掛かれる状態にあったと思われます)、試算では2兆ドル規模の法案が提示されるとみられます。税強化案(「増税」という言葉は誰も使いません)については、1兆ドル規模が予想されます。税制改革はすぐに実行されることはないと思われますが、5年や10年といった視点で見れば、予想されるコストの低減に寄与するでしょう。

⇒1人当たり1400ドルの個人向け給付金は9000万人以上の国民に支給され(ほとんどが口座振込)、エコノミストは以前の給付金支給の時と同様に個人支出が増加すると予想しています。

○政治をめぐっては、バイデン大統領は民主党指導部と同様に議事妨害(フィリバスター)規則の変更を支持する意向を示しました。規則が変更されると、現行のフィリバスター規則では60%の賛成がないと上院で可決できない法案が、過半数の賛成で可決できるようになり、法案の成立にとっては大幅な変更と言えます。フィリバスター規則が変更された場合、企業利益や企業慣行に大きな影響のある増税、最低賃金の引き上げ、労働規則の強化、ガバナンスの強化などの可能性が高まると市場はみています。

○1兆9000億ドル規模の景気刺激策に盛り込まれた給付金が支給され、早くも次の法案をめぐる憶測が広まっています。追加法案はインフラ支出が中心になるとみられ、3兆ドル規模となる見通しです。大統領は来週にも新たな計画を発表する予定です。

○バイデン大統領は就任後初の記者会見に臨み、就任から100日後(4月30日)までに2億回のワクチン接種を目指すとの意向を示しました。これまで、1日平均250万回、累計で1億3000万回の接種が完了しています。大統領はまた、フィリバスター規則の変更を支持する意向も示しました。これにより民主党は、共和党が反対する法案を成立させやすくなります。

○3月には2件の銃乱射事件が発生し、コロラド州ボルダーのスーパーマーケットで10人、ジョージア州アトランタで8人が亡くなりました。バイデン大統領は上院に対し、下院で既に可決している銃規制強化法案を可決するよう要請しました。

○民主党はフィリバスター規則をめぐり、上院で現行の60%でなく、過半数の賛成で法案を可決できるように規則を変更する方向に方針を転換しました。これにより、可決される法案に大きな影響が及ぶとみられます。

●新型コロナウイルス関連

○メディアやインターネット上はワクチンに関するニュースであふれ、Johnson & Johnson(JNJ、Merck(MRK)が生産支援)、Pfizer(PFE)、Moderna(MRNA)の3社がワクチン供給の新たな「ビッグスリー」として需要に対応しています。感染者数の増加という懸念もありますが、ワクチン接種がそうした懸念を払拭し(少なくとも市場では)、各州は経済活動を徐々に再開させています。

⇒バイデン大統領は国民に向けてテレビ演説を行い、パンデミック宣言からちょうど1年であり、米国の全ての成人が今年5月1日までにワクチン接種を終えるようスケジュール調整を進め、7月4日の独立記念日には少人数での集まりが可能になることを目指すと表明しました。

○ワクチンの接種が進む中、登録者分の供給(Johnson & Johnson、Moderna、Pfizer)は確保されている模様です。Modernaは子供を対象としたワクチン試験を開始しました。

⇒Pfizerはワクチンの臨床試験で12~15歳の子供に有効性が示されたと発表しました。

○バイオ医薬品企業のAstraZeneca(AZN)はワクチンの臨床試験に関し、79%の有効性が確認されたとする暫定データを発表しました。これに対して、同社が「古い」データを使用したとの疑いが浮上しましたが、その後同社は、有効性は76%とする最新データを発表しました。

⇒米国では5240万人が接種を終えましたが、ワクチンをめぐっては全く問題がないわけではなく、デンマークやノルウェーなどに続き、フランス(感染者数が増加したために学校は再度休校が決まりました)、ドイツ、イタリア、スペインはAstraZeneca製ワクチンの使用を一時停止しました。これに対して世界保健機関(WHO)は、ワクチンの接種と報告されている問題との因果関係は認められないと表明し、各国はワクチンの接種を再開しました。

→3月のその後に副反応の症状が新たに確認されたことを受け、ドイツは再びAstraZeneca製ワクチンの使用を制限することを決めました。

⇒EUは、感染拡大が続き、ワクチン問題(一部は自ら招いたものですが)により接種が遅れていることから、域内で生産されるワクチンの輸出を制限する措置を発表しました。イタリアでは、2900万回分のワクチンが倉庫で見つかりました。

○感染状況等:

⇒世界的に感染拡大は続いていますが、感染者数の増加ペースは鈍化しています。米国の感染者数は3040万に達し(2月末は2840万人、1月末は2590万人)、世界の感染者数は1億2800万人となりました(同1億1320万人、同1億200万人)。また、米国の死者数は55万1000万人(同50万9000人、同43万6000人)、世界全体の死者数は280万6000人(同251万2000人、同220万4000人)となりました。米国の1日の新規感染者数は1月に過去最高の30万594人に達しましたが、その後は減少傾向となり、2月末の7万7804人から3月末は6万2045人に減少しました。1月末は16万5264人でした。新規感染者数の7日間平均も1月に記録した過去最多の25万9564人から2月末には6万9450人、3月末には6万6064人に減少しました。入院者数は1月末の10万4303人から2月末は5万2669人、3月末は4万317人と減少しています。

○新型コロナウイルスの治療薬と治療法、そして夢の万能薬

⇒ワクチン供給の改善と接種状況の進捗に伴い、「集団免疫」が話題に上り始めています。

→米食品医薬品局(FDA)は、Johnson & Johnson製ワクチンの安全性と有効性を公表しました(有効性は世界全体で66.1%、米国に限ると72%)。

⇒2月26日のFDA諮問委員会の会合で、1回の接種で済む同社製ワクチンの有効性が賛成22、反対ゼロで支持されました。近いうちに承認され、これを受けて直ちに出荷手続きに入るとみられます。

⇒現時点で、米国では1億4800万回のワクチン接種が行われました(2月末時点では6830万回)。世界全体では5億7400万人が1回以上の接種を受けました(同2億2500万人)。米国の1日当たり接種回数の7日平均は277万回(同131万回)でした。

→米国ではこれまでに1億4800万回のワクチン接種が行われ、5240万人が必要回数の接種を終えています。

●各国中央銀行の動き(および関連ニュース)

○FRBの地区連銀経済報告(ベージュブック。FOMCの2週間前に作成)によると、経済活動と雇用は共にわずかに回復し、インフレ率は依然としてあまり懸念されていないようです。

○欧州中央銀行(ECB)は量的緩和(QE)プログラムによる資産買い入れを拡大し、政策金利を据え置くと発表しました。

○FRBはFOMCを開催し、予想通り金利を据え置き、債券買い入れ額を維持しました(月間1200億ドル)。FRBは(そしてパウエル議長もその後の電話会議で確認したように)、緩和的な姿勢を維持し、2023年末まで政策金利を維持するとみています。インフレ率に関しては、比較対象となる前年の数字の低さや新型コロナウイルス感染拡大に伴う制限の緩和による個人消費の大幅増加で2021年末までに2%を上回るものの、その後低下するとみています。FRBの全般的な景気予想はウォール街より楽観的で、GDP成長率は2021年末までに6.5%、失業率は4.5%になるとしています。

○FRBは金利を低水準に維持すると公約し(ドルに下落圧力をかけると受け止められました)、一方、トルコの中央銀行は政策金利を従来の17.0%から19.0%に引き上げました(トルコリラの下落を受けて、インフレ率は15.6%を付けています)。

※「ノーマリティ(平常)が戻り楽観論が優勢に (3)」へ続く

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