S&P500 月例レポート ― 7月は最高値を7回更新、経済再開が焦点に (1) ―
S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。
●THE S&P 500 MARKET:2021年7月
個人的見解:新型コロナウイルス、インフレ、債務上限問題、見通せない議会の行動。いずれも株式市場における矢継ぎ早の最高値更新の妨げとはならない
7月は投資家にとって非常に満足できる月となりました。米国では相場の上昇が続き、それが常態化する中で最高値の更新が続きました。ワクチン接種を受けていない人々の間で変異株の感染者数が急増しているにもかかわらず、米国では経済活動の再開が最大の関心事となりました(小売店では会計用レジやクレジットカードを機械に通す音が止むことなく続きました)。
しかし世界全体を見ると、状況はそれほど良くはありません。感染拡大の第4波が押し寄せる中、景気の回復は足踏み状態または回復ペースが鈍化しているようで、米国を含む各国政府はワクチンを接種するよう国民に「説得する」作業に追われました(年初来の株式市場のパフォーマンスは米国の独り勝ちでした。S&P米国総合指数は16.48%上昇しましたが、米国を除いたS&Pグローバル総合指数の上昇率は6.62%にとどまりました)。フランスとイタリアではワクチン未接種者に対して一部施設への入場を制限している一方、英国は「フリーダム・デー」を宣言して経済活動を全面的に再開したものの、国内の感染者数の増加が続いています。さらにジョンソン首相も濃厚接触者に該当するとして、自主隔離しなければならない事態となりました。米国では、疾病予防管理センター(CDC)が(ワクチン接種の有無にかかわらず)国民全員に対してリスクがあると考えられる屋内でのマスク着用を推奨しています。バイデン大統領も連邦政府職員に対してマスク着用を義務付け、ロサンゼルスとニューヨーク市では(9月から始まる)学校でのマスク着用を義務化しています。
それでも、S&P 500指数 は年初から好調に推移しています。一部の市場参加者は手仕舞い売りをして、残りの年内はバカンスを楽しもうと考えています。しかし、株価を下支えるために(米国内や海外の)多くの投資家が大量の資金を株式市場につぎ込んでいるのに、相場から撤退する理由があるでしょうか。おそらく最善の策は、相場への投資を継続しつつ、「弱気相場の気配」を察知するや否や瞬時に動けるように「売り」ボタンに指をかけておくことでしょう。少なくとも最近の相場の動きを振り返ると、翌日には必ず底値で買うことができるからです。
第1四半期に続き第2四半期も相場上昇を支えたのは、7月後半に相次いだ企業の決算発表でした。決算内容は事前予想を大幅に上回る結果となり(利益と売上高のいずれも全体の88%で予想を上回った)、利益率も引き続き高水準を維持しています(第2四半期は過去最高となる13.1%に達する見通し)。業績予想も上方修正され(デルタ変異株や供給面に関する注記あり)、企業はコスト増を目下のところ、財布の紐が緩みきった消費者に転嫁できているようです。
7月中にS&P 500指数は終値での過去最高値を7回更新しました(6月は8回、年初来では41回)。同指数は2020年11月以降、毎月最高値を更新しています(2020年8月と9月も最高値を更新しましたが、10月は更新できませんでした)。S&P 500指数は7月に2.27%上昇しました(6月の2.22%の上昇の後)。また、年初来では17.02%上昇しました(2020年に通年で16.26%上昇した後)。「素晴らしき哉、(投資)人生!」。
過去の実績を見ると、7月は59.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は4.94%、下落した月の平均下落率は3.24%、全体の平均騰落率は1.60%の上昇となっています。2021年7月のS&P 500指数は2.27%の上昇でした。
8月は55.9%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.91%、下落した月の平均下落率は3.95%、全体の平均騰落率は0.70%の上昇となっています。
今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、(8月26日-28日はジャクソンホールでの経済シンポジウム)、9月21日-22日、11月2日-3日、12月14日-15日、2022年1月25日-26日、3月15日-16日、5月3日-4日、6月14日-15日、7月26日-27日、9月20日-21日、11月1日-2日、12月13日-14日となっています。
S&P 500指数は7月に2.27%上昇して4395.26で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス2.38%)。6月は4297.50で終え、2.22%の上昇(同プラス2.33%)となり、5月は4204.11で終え、0.55%の上昇(同プラス0.70%)でした。過去3ヵ月間では5.12%上昇(同プラス5.50%)、年初来では17.02%上昇(同プラス17.99%)、過去1年間では34.37%上昇(同プラス36.45%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは29.80%上昇して月を終えました(同プラス32.94%)。ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は再び3万5000ドルを突破し、今回は初めて終値でも3万5000ドル超えを記録しました(初めて3万5000ドルを突破したのは5月10日)。とはいえ、月末は3万5000ドル割れとなり、最終的に1.25%上昇の3万4935.47ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス1.34%)。なお、6月は3万4502.51ドルで終え、0.08%の下落、5月は3万4529.45ドルで終え、1.93%の上昇(同プラス2.21%)でした。過去3ヵ月間では3.13%上昇(同プラス3.60%)、年初来では14.14%上昇(同プラス15.31%)、過去1年間では32.19%上昇(同プラス34.79%)でした。
●主なポイント
○S&P 500指数は、7月に終値ベースでの最高値更新を7回記録しました(6月は8回)。2020年11月以降、毎月終値での最高値を更新してきたことになります(2020年10月は最高値を更新できませんでしたが、その前の9月と8月は最高値を更新)。
⇒S&P 500指数は7月に2.27%上昇しました(配当込みのトータルリターンはプラス2.38%)。6月は2.22%上昇(同プラス2.33%)、5月は0.55%上昇(同プラス0.70%)、4月は5.24%上昇(同プラス5.34%)、3月は4.24%上昇(同プラス4.38%)、過去3ヵ月では5.12%上昇(同プラス5.50%)、年初来では17.02%上昇(同プラス17.99%)、過去1年間では34.37%上昇(同プラス36.45%)でした。
⇒同指数は7月に7回最高値を更新しました。また、1回だけ初めて終値で4400を超えましたが、月末は4400を割り込みました。6月の最高値更新は8回でした(5月は1回、4月は10回、3月、2月、1月は5回)。
⇒コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは29.80%上昇し(同プラス33.94%)、同期間に終値ベースで60回、最高値を更新しました。
⇒2020年11月3日の米大統領選挙以降では、同指数は30.46%の上昇(同プラス31.93%)でした(バイデン大統領就任以降に39回、最高値を更新しています)。
⇒2020年3月23日の底値からの強気相場では96.45%上昇しています(同プラス100.79%)。
○現時点で、294銘柄が2021年第2四半期の決算発表を終え、258銘柄(87.8%)で利益が予想を上回り、27銘柄が予想を下回り、9銘柄は予想通りとなりました。また、293銘柄中の259銘柄(88.4%)で売上高が予想を上回りました。
⇒2021年第2四半期の利益予想は同四半期末時点から11.0%引き上げられ、過去最高を記録した第1四半期をさらに3.4%上回る過去最高益が見込まれています。
○政局関連では超党派議員が提案したインフラ投資計画をめぐって詰めの協議が続きました。1兆ドル規模と見込まれる計画案には橋や道路の整備のほか、両党が合意したインフラ整備計画が含まれていますが、(それぞれの党の意向がより強い)他の整備案件については後回しとされています。
○新たな与野党間の対立の火種が燻りつつあります。イエレン財務長官は議会に対し債務上限の引き上げ(あるいは適用停止措置の延長)に向けた対応を迫りました。イエレン長官は2021年8月1日に連邦債務は上限に達するため、翌8月2日には財務省が「緊急措置」を発動しなければならなくなるとしています。
⇒民主党は共和党の同意を得ることなく、単独で上限を一時的に調整することが可能です。
○市場関係者のS&P 500指数の1年後の目標値はこの1ヵ月間で上昇し、現在値から11.6%上昇(前月は10.9%上昇)の4905(かなり強気な予想)となっています(6月末の目標値は4767、5月末の目標値は4716)。ダウ平均の目標値は現在値から11.1%上昇(前月は10.5%上昇)の3万8796ドル(かなり強気な予想)となっています(同3万8123ドル、同3万7501ドル)。
※「7月は最高値を7回更新、経済再開が焦点に (2)」へ続く
株探ニュース