植草一秀の「金融変動水先案内」 -透視されるコロナの正体-
第67回 透視されるコロナの正体
●第5波ピークアウト
拙ブログ「植草一秀の『知られざる真実』」の8月23日付記事でコロナ感染第5波がピークアウトする可能性を指摘しました。実際に日本の全国新規陽性者数は8月20日にピークを記録しました。日経平均株価が安値を記録したのが8月20日。8月23日から反転上昇に転じました。
私が執筆している会員制レポート『金利・為替・株価特報』の2021年8月30日発行号(執筆は8月26日)では次のように記述しました。「重要な人流が7月22日をピークに明確に減少し始めている。これとコロナの自律的な周期により感染第5波がピークアウトしつつある」、「コロナ第5波がピークアウトすると、2015年、2018年のような株価反発が生じる可能性がある」。【投資戦略】の節には「ポストコロナを展望する局面が近付いている。その局面がチャンスになる」と記しました。
毎日発表される東京都や全国の新規陽性者数推移とアップル社が公表している人の移動指数データを追跡すると、コロナ感染状況の変化を正確に掴むことができます。実際に、これらのデータに基づいてコロナ感染状況を予測してきましたが、ほぼ正確な予測が可能になってきました。一般に公表されているデータで正確な予測が可能なのですから、政府も活用するべきだと思いますが、なぜか活用されてきませんでした。
●日経平均株価の急騰
日経平均株価が急騰しました。変化が加速したのは、9月3日の昼に菅義偉氏が自民党総裁選に出馬しないことを公表してからでした。菅首相の辞意表明から日経平均株価は1500円幅での上昇を示しました。しかし、その前の8月20日安値から、日経平均株価は1900円程度も上昇していたのです。
日本の株価上昇の理由は、コロナの峠越えです。L452R変異株の影響で感染第5波は爆発的状況を示しました。菅内閣のコロナ対応の稚拙さによって、本来なら助かる命が数多く失われました。コロナによる死亡でなく政策失敗による死亡でした。
コロナの被害状況は季節性インフルエンザと大差がありません。全国の医療機関、診療所を診察の窓口にして、中等症以上の感染者を適切に入院治療する体制を敷いていれば、悲劇は避けられたと考えられます。ところが、日本政府はコロナをエボラ出血熱並みの恐怖の感染症に区分してしまったため、日本中が大混乱に陥ったのです。本当にエボラ出血熱並みの感染症が感染爆発したら、GoTo事業も東京五輪も実施できるわけがないのです。
新型コロナも過去のウイルス感染症と同様に、時間の経過とともに毒性が低下していくと見られます。今後、コロナと共存する生活様式が急速に主張されていくことになると思われます。これは、ワクチンが効果を上げたのではなく、コロナ騒動最大の目的であるワクチン販売の目途が立ったことによる変化であると思われます。
●資金運用のツボ
日経平均株価が猛反発したのは、コロナの峠越えとコロナ大失政を演じた菅内閣退場が同時に現実化したためと思われます。NHKは定時ニュースで、菅首相辞意表明により大型経済対策への期待が高まったことが株価上昇の原因だと報じていましたが的外れです。菅内閣が存続する場合でも、大型経済対策を策定することは既定路線でした。NHKが株価変動の理由を断定してニュース報道することは控えるべきです。NHKは市場関係者の見解を紹介するだけにとどめるべきでしょう。
資金運用で高いパフォーマンスを獲得するには、2つのことがらを実現することが大切です。1つは大きな損失を計上しないこと。時おり発生する株価急落のリスクを事前に、あるいは早期に感知して俊敏な反応を示すことが極めて大事です。もう1つは、年に数回以内しか発生しない株価急騰などの局面を事前に、あるいは早期に掌握して、俊敏な対応を取ることです。
株式市場が提供する最大の機能は「流動性供給」と「売買集中管理」です。この機能があるから巨額の運用株式を瞬時に換金することができ、現金を巨額の株式に瞬時に転換することができるのです。長期保有は1つの運用スタイルですが、相場環境と銘柄選択によっては長期塩漬けを強要されることになります。私はアクティブな運用手法で相場環境の変動に応じた積極的な売買を推奨しています。その運用スタイルで実績を上げるには、的確な金融環境分析に基づく優れた情報が最大の武器になるのです。
●中国版リーマン・ショックのリスク
金融市場が関心を集中させてきた、もう一つの重要事象がFRBの金融政策です。8月27日のジャクソンホールシンポジウムでのパウエル議長講演が注目されました。パウエル議長は年内の緩和縮小開始=テーパリングの方針を表明しましたが、早期実施に言及しませんでした。
事前に想定した通り、パウエル議長は金融市場がショックを受けることを慎重に回避しました。この政策方針は9月3日発表の米雇用統計と調和するものになりました。8月の米国非農業部門雇用者増加数は7月の105.3万人から23.5万人に急減しました。L452R変異株による感染拡大で米国経済に強い下方圧力がかかったことが原因です。
この結果、米国の金融政策が早期に金融引き締め行動を強める観測が大幅に後退しました。9月21-22日のFOMCでの急激な金融引き締め措置決定の可能性も低下しています。このことによって米国株式市場は安心感を取り戻しています。
中国では習近平国家主席が資本主義制度の見直しに着手していることから株式市場が神経質な反応を示していましたが、市場の不安心理は徐々に後退しつつあります。ただし、中国広東省深?市に本拠を置く不動産開発会社の中国恒大集団(エバーグランデ・グループ)の経営不安が深刻化しつつあります。負債の規模は30兆円を超えていることから、企業破綻した場合の影響の広がりが警戒されています。中国版リーマン・ショックになるリスクを否定できません。
日本株式市場は堅調な地合いを回復しましたが、「好事魔多し」といいます。恒大集団の状況に最大の注意を払う必要があることを忘れるべきでありません。
(2021年9月10日記/次回は9月25日配信予定)
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