金の上値は重い、米テーパリングや利上げ前倒しを巡る思惑で<コモディティ特集>

特集
2021年9月29日 13時30分

金(ゴールド)の現物相場は、米雇用統計で労働市場の改善の遅れが示されたことを受けて、6月16日以来となる高値1833ドルをつけたが、欧州中央銀行(ECB)理事会を控えてユーロに利食い売りが出たことで上げ一服となった。その後は、米小売売上高の好調により景気減速懸念が後退したことを受けて軟調となり、1750ドルの節目を試した。

加えて、米連邦公開市場委員会(FOMC、9月22日)で量的緩和の縮小(テーパリング)見通しや利上げ前倒しの見方が出たことも圧迫要因になった。パウエル米FRB議長は11月の米FOMCでテーパリング開始を決定し、2022年半ばまでに完了する可能性を示している。また、FOMCメンバーの政策金利見通しの分布(ドットチャート)で半数が2022年に利上げが必要になると予想し、2023年の利上げ予想から前倒しされた。米10年債利回りは1.5%台と6月以来の水準まで上昇しており、今後発表される経済指標でテーパリング開始の見方が正当化されると、金の圧迫要因になるとみられる。なお、ブレイナードFRB理事は、米国の雇用はFRBがテーパリングを開始する基準に「まだ少し足りない」と述べており、雇用関連の指標を確認したい。

一方、9月9日のECB理事会ではパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の買い入れ規模を小幅縮小することを決定した。ただ、緊急支援策の明確な終了時期が示されないなか、ラガルドECB総裁は「テーパリングではない」と強調している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)に対する懸念が残るなか、慎重姿勢が示された格好だ。新型コロナウイルス対策ではワクチン接種の義務化の動きも出ており、今後の感染拡大の行方も確認したい。

●中国の不動産問題で逃避買いが入るかも焦点

中国政府が、経済の様々な分野で規制を強化するなか、債務の利払いの期日を迎える不動産開発大手・中国恒大集団のデフォルト(債務不履行)懸念が高まった。同社は23日の利払いを実施すると発表したが、ドル建て債券の利払いは行われず、30日間の猶予期間に入っており、先行き懸念が残る。中国の金融規制当局が幅広い指示を出したものの、同業大手の融創中国も資金難に陥ったことが伝えられており、不動産部門の先行き懸念が高まっている。

中国の習近平国家主席は格差是正のスローガンとして「共同富裕」を掲げており、恒大集団の救済の可能性は低いとみられ、一部では米国のリーマン・ショックのような世界的な金融危機への発展が懸念されている。危機が中国以外に波及する可能性は低いとみられるが、債務の処理が遅れると、中国は日本のバブル崩壊に似た状況に陥る可能性があるとの指摘もあり、中国政府の対応が注目されよう。不動産部門に対する懸念の高まりを受けて上海金のプレミアムが上昇しており、中国勢の買いが金価格を押し上げるかどうかも今後の焦点である。

●米ブラックロックは金買いをほぼ解消

世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は9月27日に990.32トン(前月末1000.26トン)となった。米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和の縮小見通しを背景に、6月18日の1053.06トンをピークとして減少傾向にある。一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは9月21日時点で18万7647枚となった。8月上旬の急落後に安値拾いの買いが入り、8月31日に21万6550枚と2月以来の高水準になったが、米金融当局者のタカ派発言などを受けて手仕舞い売りや新規売りが出た。

世界最大の資産運用会社である米ブラックロックは17日、実質金利が正常化するとの見通しから金のポジションをほぼ解消したことを明らかにした。ポートフォリオ・マネジャーのラス・ケステリッチ氏は、「14カ月前はかなり大量の金のポジションを保有していたが、ほぼゼロまで減らした」と述べている。インフレ調整後の米国債利回りの上昇期待は、株式相場のヘッジ手段として金が機能しないことを示唆しているとした。金ETF(上場投信)から投資資金の流出が続くと、中長期の圧迫要因になるとみられる。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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