ウォーターインフラを守れ、活発化する上下水道ビジネスの未来図 <株探トップ特集>

特集
2021年10月21日 19時30分

―首都圏地震で老朽化による脆弱さ露呈、水道民営化巡り新たな需要が沸き上がる―

株式市場で、 上下水道に絡む関連銘柄が注目されている。今月7日夜に首都圏を襲った地震の影響で水道管の破裂事故が相次いだ。これに対して、政府は水道管の老朽化や耐震性を考慮した対策を練る方針を示している。2011年の東日本大震災をきっかけに、国や自治体は防災・減災事業を推し進めてきた。なかでも、水道事業など重要なライフラインを守ることが重視されている。高度成長期に建設された多くの上下水道は、老朽化が進んでおり、毎年の更新需要が1兆5000億円規模ともみられている。こうしたなか、水道設備関連銘柄のほか、水道事業民営化に伴いデジタルトランスフォーメーション(DX)など新技術の導入で新たな収益チャンスが広がる銘柄群が注目されている。また、水道事業の民営化に絡み、水道コンサルを手掛ける企業に対する需要も見込まれている。

●上下水道更新需要は年間で1兆5000億円規模

厚生労働省によると、法定耐用年数の40年を経過して使用している水道管の割合は増えており、16年度の時点で、今後20年間で更新が必要な水道管は全体の23%程度にのぼる、とみられている。国や地方の水道資産を現在と同規模で維持する場合では、全国の水道事業における更新費用は年間1兆5000億円前後と試算されている。しかし、人口減少や節水機器の普及などに伴い、水道料金の収入が減るほか、人手不足もあり設備更新費用は毎年1兆円前後にとどまるのが実状だ。日本水道協会の水道統計によると、水道管の老朽化による破裂などの事故は、毎年全国で2万件以上も発生している。

●老朽化・更新対策にAI活用化が進む

政府の「水道ビジョン」では、基幹施設の耐震化率100%という長期施策目標が打ち出されている。ただし、19年度の基幹管路の耐震適合率は全国平均で40.9%にとどまる。首都圏での直下型地震に備えるためにも、水道管の耐震化の普及率向上の余地は大きい。

そんななか、水道管の更新・耐震化に向け人工知能(AI)を活用する動きが出ている。40年以上も前に埋設された水道管をAIが調査するには、その正確な位置を特定する必要がある。大阪ガス <9532> は9月29日、日本信号 <6741> などと共同で地中にあるガス管や水道管などの位置をAIで判定する「AI自動判定ソフトウェア」を開発したと発表した。同ソフトウェアは少量の学習データで高い精度を発揮できる手法である「スパースモデリング」を採用し、道路の掘削作業中に、地中に埋設されたガス管や水道管などを破損しないように簡単に埋設管の位置を特定することが可能という。

●水道管資材の銘柄群などに注目

鋳鉄管で最大手のクボタ <6326> は水道管の更新需要が増えることが見込まれるなか、その恩恵を享受できそうだ。同社は8月3日、21年12月の連結営業利益予想を2200億円から2600億円(前期比48.3%増)へ上方修正した。

また、水道管の資材で耐震性能の高い「ダクタイル鋳鉄管」で実績のある銘柄には、クボタのほか、栗本鐵工所 <5602> 、日本鋳鉄管 <5612> がある。また、前澤工業 <6489> は官公庁向けが主力で水道用バルブや、上下水道の処理設備も手掛ける。

●宮城県で全国初となる水道民営化が実現、メタウォータなど注目

水道民営化を巡る動きも見逃せない。改正水道法が成立したのは18年12月だが、今年7月に宮城県議会は上下水道と工業用水の運営権を、20年間民間企業に一括売却する議案を可決し、全国初となる民営化を実現した。公営では「できない」ことができるようになるのは民営化のメリットであり、今後は宮城県のモデルが全国に広がっていくと予想されている。例えば、公営の水道では使用量に応じて従量料金の単価が高くなる逓増制が一般的だが、民営では夜間割引など、経済合理性に見合うコストにあわせた料金体系も予想される。これまでになかった水道コンサルサービスなども採用され、関連銘柄の収益チャンス拡大につながる。こうしたなか、上下水・水質保全などで自治体向けにも実績が高いオリジナル設計 <4642> [東証2]などが注目される。同社が、8月4日に発表した21年12月期第2四半期累計(1-6月)営業利益は6億2100万円(前年同期比10.5%減)と減益だったものの、通期計画に対する進捗率は91.3%に達している。

上下水処理設備工事で首位級のメタウォーター <9551> は、下水処理場を運営するための受変電設備や監視制御設備、電気設備、これらの設計・製造・施工・維持管理などに強みを持つ。また、同社では28年3月期売上高2000億円(21年3月期は1333億5500万円)の長期ビジョンに向けて、新規事業買収などを通じた成長に積極的に取り組む方針だ。このほか、国内で約250ヵ所の下水処理施設でソリューションを提供した実績がある水道機工 <6403> [JQ]などにも活躍期待が膨らむ。

●SBや豊田合成などにも注目

ソフトバンク <9434> と資本・業務提携をしているスタートアップ「WOTA(ウォータ)」(東京都豊島区)にも注目したい。同社は20年9月から期間限定で東京・銀座に水道に依存しない手洗いスタンド「WOSH」を設置し注目を集めた。「WOSH」では手洗いに使用した排水を、フィルターによる膜ろ過・塩素添加・紫外線照射の3段階の水再生処理、同社独自のAI・IoTによるテクノロジーにより、WHOの飲料水ガイドラインの基準に準じた衛生的な水を再生し、供給する。

また、「WOSH」にも搭載された深紫外LEDを用いてウイルスや細菌を除去する「深紫外LED光源モジュール」を提供するのが、豊田合成 <7282> だ。同社の第1四半期(4-6月)営業損益は112億6100万円の黒字(前年同期98億900万円の赤字)と回復色を強め、22年3月期通期営業利益は530億円(前期比45.3%増)になる計画だ。株価はPER10倍前後で、PBRは0.7倍台と割安感がある。

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