「手術支援ロボット」開花の時、コロナ禍の医療で光放つ精鋭株・大選抜 <株探トップ特集>

特集
2021年11月4日 19時30分

―「ポスト・ダヴィンチ」目指し開発競争が加速、参入企業相次ぎ部品市場も拡大へ―

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、行政をはじめさまざまな分野でデジタル化が進もうとしているが、医療もその一つだ。医療情報ネットワークの構築や電子カルテをはじめ、 ロボット人工知能(AI)IoTなどの技術が手術や画像診断といった現場に相次ぎ導入されるようになった。

これら「メディテック」(医療×IT)は一部を除き海外勢が市場をリードしてきたが、急速に進む高齢化や医師不足などを背景に、日本企業も活躍の場を広げている。特に、ロボット分野は、コロナ禍で医療のひっ迫感が強まるなかにあってニーズが高まっており、開発競争が加速している分野でもある。今回は手術支援ロボットを中心に注目銘柄を考えてみたい。

●手術支援ロボットで圧倒的シェア占める「ダヴィンチ」

手術支援ロボットは、開腹手術などに比べて切開創が小さく、患者への負担が小さい低侵襲治療のうち、腹・胸腔の内視鏡手術で使用されるロボットのこと。医師が内視鏡の画像をモニターで見ながら、ロボットアームに取り付けた鉗子などの手術器具を操作する。従来の手術と比べ、手ぶれをコンピューターが補正するため精度に優れており、手術時間は短く、患者への負担が更に小さくて済むといったメリットがある。

これまで手術支援ロボットといえば、1999年に米インテューイティブ・サージカル<ISRG>が製品化し2000年にFDA(米国食品医薬品局)の承認を取得した「ダヴィンチサージカルシステム」(以下「ダヴィンチ」)がその代名詞ともいわれてきた。ダヴィンチは、3D画像により通常の開腹手術では見ることができないような深部まで鮮明に確認することができ、術者が3Dモニターを見ながら装置を動かすと、その手の動きはコンピューターを通じてロボットに伝わり、手術器具が連動して動く機構。現在までに世界で約850万例の症例を積み上げ、世界シェア7割程度と圧倒的な地位を占めている。

●ダヴィンチの特許切れで開発競争が加速

日本でも手術支援ロボットといえばダヴィンチを指すことが多く、国内で350台程度が導入されている医療ロボットの大半がダヴィンチとされている。日本における手術支援ロボットは09年に薬事承認を受け、12年の前立腺がん、16年の腎臓がん、18年の食道がん、心臓弁形成術、肺がん、胃がん、直腸がん、膀胱がん、子宮体がん、膣式子宮摘出術などに適用が拡大。また、20年には膵臓がん、腎盂尿管吻合術などへの適用が公的医療保険の対象となり、こうした適用範囲の拡大が追い風となっている。

また、19年にダヴィンチの特許の大部分が切れたことも、手術支援ロボットの開発競争加速につながっているようだ。各社は軽量化や機能の簡略化などによりダヴィンチを下回る価格に抑えシェア獲得を狙っている。

●国産初の手術支援ロボット「hinotori」

国内でポスト・ダヴィンチの先頭を走っているのは川崎重工業 <7012> とシスメックス <6869> が共同出資し設立したメディカロイドが20年8月に厚生労働省から製造販売承認を取得し、9月に保険適用された国産初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)サージカルロボットシステム」だ。同製品は日本人の体格に合うようにロボットを小型化したほか、アームの軸数(関節)が多く稼働の自由度が高いことや、サイズを人の腕と同程度にしてアーム間の干渉を回避したことなどが特徴で、ダヴィンチを使ったことのある医者からも高い評価を得ているという。今年4月からは世界初となる商用5Gネットワークを活用した遠隔操作の実証実験も開始しており、実現されれば外科医が不足する地方でも質の高い手術が可能となることから市場は更に広がるとみられ、24年3月期に売上高100億円、30年度に同1000億円を販売目標に掲げている。

●参入企業相次ぎNISSHA、朝日インテクなど注目

また、スタートアップ企業も手術支援ロボット市場への参入を進め、大手関連企業との協業を図っている。

東京工業大学発スタートアップのリバーフィールド(東京都新宿区)は、ロボットアームの駆動システムに空気圧を使用した世界初の内視鏡ホルダーロボット「EMARO(エマロ)」を製品化している。頭部にヘッドセンサーを装着した執刀医が頭を上下左右に傾けると、その動きをロボットが感知して空気圧で内視鏡をなめらかに制御するのが特徴という。また、シンプルな機構で価格を抑え、ロボットを導入している大病院などの2台目需要の取り込みを狙っている。同社には東レ <3402> 子会社の東レエンジニアリングなどが出資し、「EMARO」の製造も手掛けているが、今年6月にはNISSHA <7915> とも資本・業務提携を交わしており、開発の更なる強化を図る方針だ。

朝日サージカルロボティクス(千葉県柏市)は、臓器の牽引やテンション維持など術者をサポートする助手の機能に特化した腹腔鏡手術支援ロボット「ANSUR(アンサー)」を開発している。同社は国立がん研究センター発スタートアップのA-Tractionとしてスタートし、今年7月に朝日インテック <7747> が完全子会社化した。朝日サージカルロボティクスでは、22年春ごろの販売を目指し、5年後には年間100台以上の販売を目指すとしている。

●精密減速機でシェア獲得するハーモニック

手術支援ロボットの開発が加速するのに伴い、組み込まれる精密減速機など部品市場の拡大も期待されている。手術支援ロボットは産業用ロボットに比べて軸数が多く、関節用途として使われる減速機も搭載数が増加する。小型・超精密の減速機に強みを持つハーモニック・ドライブ・システムズ <6324> [JQ]は、開発段階から協力することで手術支援ロボット向けにおけるシェアを獲得しており、5G拡大に伴う遠隔手術の普及により市場拡大が見込め、同社の成長の牽引役として期待できる分野と位置付けている。

このほか、日本医療研究開発機構(AMED)の補助事業に採択された内視鏡外科手術システムの開発を進め、早ければ24年度の実用化を目指すオリンパス <7733> なども関連銘柄として注目したい。

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