デリバティブを奏でる男たち【7】 ポイント72アセットのスティーブン・A・コーエン(前編)

特集
2022年1月14日 13時30分

◆コーエンの経歴

第7回は、前回に取り上げたメルビン・キャピタル・マネジメントを率いるガブリエル・プロトキンが一時在籍していた米ヘッジファンド、SACキャピタル・アドバイザーズを創業したスティーブン・A・コーエンを取り上げます。コーエンはメルビンの立ち上げやゲームストップ<GME>の急騰で大損した際にも資本を注入しており、プロトキンとつながりが深い人物です。

もっとも、SACキャピタル・アドバイザーズは2013年に発覚したインサイダー取引問題により閉鎖を余儀なくされ、その後にコーエンはヘッジファンド運営会社、ポイント72アセット・マネジメントを立ち上げました。

コーエンは1956年にユダヤの家系に生まれ、米国ニューヨーク州ロングアイランドで育ち、ペンシルベニア大学ウォートン校で経済学を学びました。大学を卒業した1978年には、昔から知り合いで親友の兄でもあった人物を頼り、グランタル&カンパニーという地場証券に就職します。

グランタル&カンパニーで親友の兄はオプション・トレーディング部門を率い、オプション・アービトラージ(裁定取引)を専門にして稼いでいました。当時のオプション市場は今よりも非効率的で、オプションのプレミアムが理論価格から乖離することが多く、異なる市場などで簡単にサヤ取りができたようです。

例えば図のように、ニューヨーク証券取引所で株価500ドルのA銘柄があり、シカゴ・オプション取引所のA株の個別株オプションにおいて、権利行使価格495ドルのコールがプレミアム4ドルならば、手数料、税金を無視した場合、この銘柄を事実上499ドルで買えることになります。そのため、このコール・オプションをシカゴ・オプション取引所で買えたら、すぐにニューヨーク証券取引所で現物株を売れば、1ドルのサヤ取りができたわけです。

【タイトル】

◆異なるスタイルで荒稼ぎ

もっとも、コーエン自身は過去の値動きを見ながら直感でトレードするスタイルが得意でした。そのため、リスクはほとんどありませんが、あまり利益にならないオプション・アービトラージは止めて、ヘッジもせずに大きなポジションを取り、大きく稼いでいきます。

当時のグランタルにおいてオプション・アービトラージは大きな収益の柱でしたが、オプション市場が次第に効率的となってサヤ取りが難しくなっていく一方、コーエンのトレード・スタイルはそれ以上に稼ぐようになり、彼はオプション・トレーディング部門から独立します。次第にコーエンのトレードサイズは大きくなり、他の証券会社も無視できない存在になっていきました。

最終的に彼は7500万ドルを運用するグランタルの稼ぎ頭となり、収益の60%+アルファという破格のコミッションを受け取っていましたが、それでも飽き足らず1992年にトレーダー9人とSACキャピタル・アドバイザーズを創業します。

(※続きは「MINKABU先物」で全文を無料でご覧いただけます。こちらをクリック

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。


株探ニュース

人気ニュースアクセスランキング 直近8時間

特集記事

株探からのお知らせ

過去のお知らせを見る
米国株へ
株探プレミアムとは
PC版を表示
【当サイトで提供する情報について】
当サイト「株探(かぶたん)」で提供する情報は投資勧誘または投資に関する助言をすることを目的としておりません。
投資の決定は、ご自身の判断でなされますようお願いいたします。
当サイトにおけるデータは、東京証券取引所、大阪取引所、名古屋証券取引所、JPX総研、ジャパンネクスト証券、China Investment Information Services、CME Group Inc. 等からの情報の提供を受けております。
日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。
株探に掲載される株価チャートは、その銘柄の過去の株価推移を確認する用途で掲載しているものであり、その銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
決算を扱う記事における「サプライズ決算」とは、決算情報として注目に値するかという観点から、発表された決算のサプライズ度(当該会社の本決算か各四半期であるか、業績予想の修正か配当予想の修正であるか、及びそこで発表された決算結果ならびに当該会社が過去に公表した業績予想・配当予想との比較及び過去の決算との比較を数値化し判定)が高い銘柄であり、また「サプライズ順」はサプライズ度に基づいた順番で決算情報を掲載しているものであり、記事に掲載されている各銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.