デリバティブを奏でる男たち【15】 サード・ポイントのダニエル・ローブ(後編)

特集
2022年1月14日 17時30分

◆投資スタイル

サード・ポイントの投資スタイルは前編の冒頭でも軽く触れましたが、ダニエル・ローブのキャリアに沿って、ディストレスト債(経営破綻先や不良債権先などが発行する債券)やハイイールド債(格付けがBB+以下の投資不適格債券)などへの投資のほか、リスク・アービトラージ(上場企業間のM&Aに伴う裁定取引)も手掛けています。

しかし、大学時代の投資の失敗に懲りて、また第10回で取り上げたオークツリー・キャピタルのハワード・マークスの言葉に従い、レバレッジは極端に抑えているとのこと。レバレッジに関するマークスの考え方は、以下をご参照ください。

▼オークツリー・キャピタルのハワード・マークス(後編)―デリバティブを奏でる男たち【10】―

https://fu.minkabu.jp/column/1117

サード・ポイントでは、買いポジションのウェートは全体の110~120%を少し超えるくらい、売りのウェートはそれよりも2~4割ほど少なくしていると言います。ただ、売りに関しては、大部分のヘッジファンドが行っている「買いのヘッジ」というより、「流行・不正・失敗」をキーワードに積極的なポジションを取ることでリターンを狙うもので、サード・ポイントがどのような相場環境でも利益を生み出すための重要な手段になっています。

また、サード・ポイントがアクティビスト(物言う株主)・ファンドと言われているのは、ローブが投資対象企業に対して、洞察に富んだ、あるいは辛辣な内容の手紙を送りつけ、場合によってはその内容を公表するためであることは前回も触れた通りです。

◆アクティビストの真骨頂

サード・ポイントは2020年に米半導体大手インテル<INTC>の主要株主となり、設計から製造まで統合的に手掛ける事業モデルの分離や、過去の買収で失敗した案件について売却の検討など、戦略の見直しをすべきであると提言しています。

もちろん、経営に対する批判も忘れません。現状維持で士気を失った多くの有能な半導体設計者が離職したことなどから、台湾積体電路製造(TSMC)ADR<TSM>や韓国のサムスン電子にマイクロプロセッサーにおける生産の優位性を奪われ、米アドバンスト・マイクロ・デバイシズ<AMD>にパソコンやデータセンター向けといった主力事業のシェアを取られ、米エヌビディア<NVDA>が支配的な地位にある人工知能(AI)分野では同社の影もない、などと非常に手厳しい批判を加えています。

【タイトル】

また、2021年には英蘭系石油会社ロイヤル・ダッチ・シェルA ADR<RDS.A>の株主となり、業績と企業価値の向上に向けて会社分割を要求しました。最近のカーボン・ニュートラル(脱炭素)化の流れからシェルに限らず、多くのエネルギー企業が再生可能エネルギー事業の拡大と化石燃料事業の縮小を迫られています。

シェルのエネルギー事業も多くの相反する利害関係者から、様々な方向性を追求するよう求められているため、液化天然ガス(LNG、Liquefied Natural Gas)、再生可能エネルギー、トレーディング事業から同事業を切り離すことを考えるべきだ、とローブは顧客向けの書簡で主張を展開。そうすればコスト削減や脱炭素化にもっと積極的に取り組むことができる、としています。もちろん、シェルの株価が数十年にわたって低迷していることは株主にとって辛い局面だった、などと苦言を呈することも忘れませんでした。

(※続きは「MINKABU先物」で全文を無料でご覧いただけます。こちらをクリック

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):

証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。


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