明日の株式相場に向けて=幻でも見たい「キシダノミクス」
きょう(14日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比616円安の2万7079円と4日ぶり急反落。2月相場は第2週(前週)が鬼門で、10日のSQ算出に向けた売り仕掛けが警戒されていたが、結局、前週の日経平均は週初こそ安かったものの、その後は着実に上値を指向する展開となり売り方はお手上げ状態、2万5000円、2万6000円に堆(うずたか)く積まれていたプットは不発だった。ところが、今の相場は売りも買いも人間が思い描くシナリオを嘲笑うかのような値動きをする。安堵したのも束の間、3連休明けは米国株主導の時間差攻撃で急速にリスクオフに傾く格好となった。
前週末は建国記念日で東京市場は休場であったが、その間に米国株市場では2営業日にわたり嵐に見舞われた。背景となっている材料は基本的に一緒である。つまり、FRBによる金融引き締め姿勢が一段とタカ派傾斜を強めることへの懸念、もう一つはロシアの強硬姿勢によりウクライナ情勢を巡る地政学リスクが更に高まっているとの見方だ。
元来、地政学リスクで相場の大勢トレンドが壊されることはないのだが、今回はインフレ警戒の背景に原油価格高騰などが絡んでおり、間接的にウクライナ問題が金利上昇に対する不安心理をあおる拡声器のような役割と化している。
前週10日に発表された1月の米消費者物価指数(CPI)に対する注目度は高かった。事前の市場コンセンサスが7.3%とこれだけでも驚きの高さだが、実際発表された数値は7.5%増と更に高い数値で、米株市場ではAIアルゴリズムの売りスイッチが入ってしまった。コア指数も6.0%上昇となり、原油価格高騰による特殊要因と逃げ口上を打つこともできない。パウエルFRB議長が昨年、鉄壁のコメントとして貫いた「インフレは一過性に過ぎない」という見立ては、結果的に大きなミスリードとなった。
3月中旬のFOMCで利上げについて年7回がメインシナリオとなり、3月の初回の利上げが0.5%になろうとも、これはFOMC当日までに段階的に株式市場が織り込んでいくことは十分可能だ。したがって相場が下がり続けることはないのだが、では上昇トレンドに復帰する材料は何かというと正直今の立ち位置からは見えない。企業業績は確かに好調で、22年3月期業績上方修正が相次ぐなか個別株はこれを素直に買い材料と捉えるケースが多い。しかし問題はその先、23年3月期の業績をどうみるかが重要である。
国内に手掛かり材料なしというが、「岸田政権の株式市場に対するやる気のなさが市場のセンチメント悪化のかなりの部分を占めている」(中堅証券ストラテジスト)という声も聞かれる。米株安に追随するだけならまだしも、日本にはそれに加えて株を買えない理由が多いというのだ。「ともすれば、金融所得課税の引き上げや自社株買い規制に対する思惑が、岸田政権の看板になっている。また、リオープン(経済再開)が世界的にみて日本が遅れていることも海外投資家にすれば保有ポジションを低める材料となっている」(同)と指摘する。安倍政権や菅政権の時とは明らかに違う。岸田政権が今のスタンスを見直さない限り、リバウンド局面はあっても、中期スタンスに立てば戻り売りということになる。
きょうは、日銀が指値オペを通知。長期金利の指標となる新発10年債を利回り0.25%で無制限に買い入れることを発表したが、指値オペは実に3年7カ月ぶりという。今のところ日銀は金融引き締め思惑の欠片もないことを黒田日銀総裁は示したようにもみえる。前引け時点のTOPIXは2.02%安であったから、おそらく後場にETF買いも発動したとみられ、日経平均も下げ渋った。ただし、それでも600円安である。相場の基礎体力が失われていることは間違いない。アベノミクス、スガノミクスと沸き立った時のマーケットの高揚感が岸田政権になってから全くない、というのは残念としかいいようがない。
あすのスケジュールでは、21年10~12月期国内総生産(GDP)速報値、12月の鉱工業生産確報値など。また5年国債の入札も予定される。海外では豪中銀理事会の議事要旨(2月開催分)、12月のユーロ圏貿易収支、2月のZEW独景気予測指数、1月の米生産者物価指数、2月の米NY連銀製造業景況指数など。国内主要企業の決算発表ではアサヒグループホールディングス<2502>、ブリヂストン<5108>、ユニ・チャーム<8113>(いずれも12月本決算)などが予定されている。(銀)